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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

七泊目

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88/99

ご褒美として……

 結局、オレは脇役なんだろうと思った。

 買いあさった異世界チートハーレムのラノベの主人公みたいに強い能力や、はたまた一見すると使えなさそうだけど使える能力とか、そういうのは一切なし。
 オレにあるのは、この世界に来ることと戻ることだけ。
 それさえも、俺だけの能力ではなく、アウトランナーと合わせた能力とも言える。
 しかも、その異能力も気軽に行き来できるわけでもない。
 異世界のどこに来られるのか、どの時間に来られるのか……いや、それどころか時間線さえわからないのかもしれない。
 適当に来て、適当に過ごして……それってキャラと出会うまでの生活と、もしかしたら根本的に変わっていないのではないだろうか。

 オレは村人たちに、深くお礼を言われた。
 アズパパに「さすが婿様! 神人の威厳はすばらしい」と肩を叩かれた。
 アズには、「お疲れ様です。さすがアウト様です」と愛らしく微笑まれた。
 ミヤには、「かっこよかったです。惚れ直しました」とお世辞を言われた。

 オレがやったことは、褒められたことなのだろうか。

 嘘をついた。
 見栄を張った。
 ハッタリかました。

 こう考えると、やったことはやはりキャラと出会う前のオレと同じじゃないか。

 仕事が終わったと嘘をついた。
 いい車を買って見栄を張った。
 本当は能力があるとハッタリをかました。

 うん、やっぱ変わらない。
 なのに、オレはなんで……。
 なんで今、こんなに気持ちいいんだろう。

(つーか、答えは簡単だよな……)

 今回のことは、自分のためじゃなかった。
 アズや他の村人たちを守りたかったという大義名分があった。

(まさに大義名分……だけど……)

 わかっている。
 自分の期待を裏切りたくなかっただけなんだ。
 結局、自分のことだけなんだ。

 でもさ。でもだよ。
 大義名分って大事なんだ。
 本当は別に悪いものじゃないんだよ、大義名分。
 行動にちゃんと意味があると言うことなんだ。
 「適当」じゃないと言うことなんだ。

 そしてオレは、チートな異能力がないにしてはがんばった。
 「適当」ではなく、真摯にがんばった。
 結果、成功させた。
 みんなが喜んだ。
 だから、オレも喜んだ。
 やったことは、脇役の悪あがきみたいなものだった。
 決してカッコイイものじゃなかった。
 でも、これはやっぱり、前に進んだということのはずだ。

 だから、素直に喜び、少しぐらいのご褒美を受けとっても罰は当たらないだろう。

「はぁ~……。気持ちいい……」

 思わず心からの声が漏れる。
 オレがいるのは、広い広い露天風呂。
 村の角にある、隙間だらけながら丸太で囲まれた空間に、しっかりとした木材で組まれた湯船が鎮座していた。
 湯船は地面に埋め込まれていて、なにかの土でまるでコンクリートのように隙間が埋められている。
 そこにたゆたゆと満ちているお湯は、裏山の方にあると言う源泉からの掛け流し。
 成分はわからないが、きれいに透きとおり体をゆっくりと温めてくれる。
 裏山から流れてくるまでに程よく冷めているのだろう、少しぬるめで長く入っていてもさほどのぼせなさそうだ。
 普段は村人たちが使っているらしいが、今は功労者たるオレの貸し切り風呂としてくれた。
 なんという贅沢。
 もちろん、村の女性たちがまちがって入ってくるようなラッキースケベ展開はありえない。
 昔のオレなら、そういうラッキースケベ展開を望んだだろう。
 けど、今のオレは、そんなの望んでいない。
 知らない女の裸より、ひとりの静寂を選びたい。
 そういう気分の時もあるよな。

「気持ちいい……」

 思わず言葉にもれる。
 チョロチョロというお湯の流れる音だけが、まるでオレの心音にとってかわるように広がっている。
 浴槽に用意された枕木に頭を乗せれば、目の前には真っ黒な空に……いや。真っ黒じゃないな。
 昔、誰かが言っていたっけ。
 たくさんの星があると、空は真っ黒ではなく勝色(かちいろ)になるって。
 藍染めの色をもっともっと暗くした色を言うそうだ。
 確かにうっすらと青みがかっている様に見える。

(勝色……つーか、「勝った色」って、今のオレにピッタリじゃね?)

 今、視界を埋め尽くすほどの星が空に輝いている。
 ここに来る前に見た、道の駅【川場田園プラザ】の夜空よりも遙かに凄い。
 星降る夜という言葉があるが、ああこれのことかと実感する。

(勝色の空に祝福の星の雨……。こんなオレでもロマンチックな気分になっちまうなぁ……)

 そう考えてオレは思いだす。

――勝色の空に星の雨……ロマンチックじゃん!

 そう言って微笑んだ彼女。
 ああ。「勝色」を教えてくれたのは、昔つきあっていた彼女だ。
 そうか。彼女はこんなすばらしいことをオレに教えてくれていたのか。
 ふと思い出し、もやっとした気持ちが湯気と一緒にわき出てくる。

 今だから思うが、オレは彼女に何もしてあげられなかった気がする。
 つーか、本当にオレは彼女に酷い態度をとっていた。
 もう会うこともないとは思うけど……もし会ったら一言でも謝りたいな。

(元気かな……)

 星の中に、ふと懐かしい顔を思い浮かべる。
 丸いメガネをかけて、地味なイメージのあった彼女。
 ちょっとボーイッシュな口調のくせに、やることは凄く女性っぽかった。

(考えてみたら、きっとオレのためにがんばってくれていたんだろうな……)

 最後はあきれ果てられて捨てられた。
 当時のオレはそれを逆恨みしていたっけ。

 ……ああ。やばい。
 思いだしたら、恥ずかしくてたまらなくなってきた。

 恥ずかしさを流すように、オレはお風呂のお湯を顔にかける。
 お湯を払いながら、顔を上げる。

「……ん?」

 その視線の先に、オレは2つの人影を見つける。
 それは、人生最大のピンチが訪れた瞬間だった。
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