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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

七泊目

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可能性の扉を……

 数時間前までの喧噪は、嘘のようだった。
 祭事は終わり、村は夜の閑寂さに沈んだ。
 【言霊(チャーム)族】の人々が静かに暮らす唯一の隠れ村。
 その村を夜のとばりと、フクロウの声が包む。
 いや。それが本当にフクロウの声なのかどうかはわからない。
 異世界なのだから、もしかしたら別の動物なのかもしれない。

 そう。
 ここはオレとミヤにとって、異世界なのだ。

 もし、この状態でオレたちが死んだら、いったいどうなるのだろうか?
 死んだあと……魂は別世界では転生できずに彷徨ってしまうとか?
 元の世界ではどういう扱い? いなかったことにされたりして?
 そう考えると、不思議と無性に怖くなる。
 きっと元の世界で死んでも、この世界で死んでもなんら変わらない、それは理解しているつもりだ。
 そもそも霊魂やら、転生やらなんて本当は信じていない。
 信じていないのに、つい考えてしまい、得体の知れない不安が心ののしかかる。

 1ヶ月前のオレが、こんなプレッシャーを受けたら、まちがいなく逃げだしていたところだろう。
 だが、今のオレは踏みとどまっている。
 悪い逃げ癖は、あまり鎌首をあげてこない。
 オレには、使命……いや、そんなカッコイイものじゃないな。
 オレには、役目がある。
 アズを助けて、ミヤを無事に元の世界に戻すという役目だ。
 それを果たすまでは、絶対に逃げるわけにはいかない。
 もうすぐ、夜陰にまぎれて、黒幕のカスラがこちらにやってくるとしてもだ。

(つーか、やっぱり先に捕まえた方がいいと思うんだが……)

 アズ(本当はミヤ)が禊ぎを行っている家の影に隠れながら、オレはあらためてそう思った。
 だが、預言書には襲う前に使えた場合は、証拠がなく(しら)を切られるとと書いてあった。
 あくまでも、アズを襲うところを現行犯逮捕しなければならない。
 だからオレは、こうしてアズパパと親衛隊の先鋭2名で、ミヤのいる建物の裏側に隠れていた。
 この建物は、いわばワンルームで、入り口は正面にしかない。
 窓は人が入れるようなサイズではないため、入り口から入るしかないのだ。
 ドアの鍵はかけられていない。
 それも風習だ。
 昔は、このような神事を穢すような奴はいなかったからだろう。
 そして、4人で無言のまま待つこと一時間ほどだった。
 その足音は、預言書の通りの時間にやってきた。
 こちらは、念のため早めに来ていたのだが、今のところ「予定通り」ということらしい。
 ジャリジャリという音が、暗闇に響く。
 入り口に続く道は、砂利道になっている。
 オレたちは、そっと横に回って正面をうかがう。
 建物の入り口に置かれた松明に照らされ、一つの影が長く伸びているのがうかがえる。
 その影の正体が男なのか、女なのか、大人なのか、子供なのか、それは判断できない。
 だが、ここまで預言書通りならば、まずまちがいなくカスラであろう。
 ドアをノックする小さな音がする。
 そして、かすれるような小さな声。

「イータ様。起きておいでですか。儀式中、申し訳ございません。カスラでございます。非常事態が起きたため参りました」

 まちがいなくカスラの声だった。

「…………」

 返事はない。
 もちろん、寝たふりである。
 ミヤは布団をかぶって横になっているはずだ。

「…………」

 ギギとドアの開く音がする。
 家の中に入る足音。
 正面に回り込むオレたち。
 ドアを勢いよく開けて踏みこむ。
 ベッドの上には、アズではなくミヤ。
 その布団を上げて、驚いた顔のカスラ。
 手には、短刀が握られている。

「カスラ!」

 こちらに気がつき、カスラは慌ててミヤを引っぱりこみ、刃をその喉元に当てる。
 真っ白なシルクのような薄い生地の下で、大きな胸が揺れて彼女はとらわれの身となった。
 まさにそこまで、預言書の通りだった。

「カスラ……信じていたのだぞ。まさか貴様がイータの誘拐を計っていたとは……」

「な、なぜ……」

「神人であるアウト様は、偉大な予言者なのだ。貴様の所行を予言されていたのだ。しかし、どうしてもワシは信じられなかった。だから、確かめるために……」

 オレ、アズパパ、そして親衛隊の兵士が二名。
 兵士は革の軽装備を身に纏いながら、二人とも短めの片手剣を持っている。
 さすがにこれは、逃げられないはずだ。
 そして、カスラもそれは瞬時に悟っただろう。
 ミヤの腕を後ろに回してキメながら、カスラがベッドの横に立つ。
 刃は相変わらず、のど仏につけられたままである。

「くっ……なんてことだ……」

 悔しさのにじむ言葉でさえ、預言書に書かれている通りだ。

「…………」

 オレはずっと悩んでいたが、未だに答えが出ないでいる。
 ここで、オレがもし別の行動をとったらどうなるのか。
 もしかしたら、預言書と違う流れになり、ミヤに怪我をさせなくて済むかもしれない。
 だが、その逆にミヤが死んでしまう歴史になってしまうかもしれない。

(クソッ!)

 結局、オレは動けなかった。

「…………」

 そんなオレの葛藤を見抜いたように、ミヤがオレに微笑する。
 まるでオレを慰めるように。
 その途端、カスラが叫ぶ。

「こんなはずでは……娘、貴様がイータ様の身代わりなどにならなければ!」

 カスラのもつ短刀が、ミヤに向かって閃いた。
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