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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

七泊目

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アズの決心が……

 結婚する2人のために行われる祭事。
 ある意味で、主役に酷な内容だった。
 夫は祝われる顔として、ずっと自宅で来客者から祝い酒を受けなければならない。
 つまり、それはオレだ。
 オレは、こちらの祝い用の服だという大ぶりなシルクのような肌触りの着物を着せられた。
 それも真っ赤っか。
 周りは、なんだか知らないがカラフルな花で飾られ、さらに花冠までかぶせられている。

(つーか、お姫様かよ……)

 そんなちょっと恥ずかしくなるような姿をして、アズの家の応接間で座っていると、1人ずつ小さなおちょこのような皿に酒を持ってくる。
 「本日は、おめでとうございます」みたいなことを言うので、オレはそれを「ありがとうございます」と皿を受けとり、飲み干して返杯する。
 それだけなのだが、村の大人全員から受けとるというのは、正直苦行である。
 まだ、半分ぐらいらしいが、すでに手とか疲れてきたし、何よりもお腹がヤバイ。
 さすがに今回は、酒ではなく水でごまかしている。
 だが、水をガポガポと呑むのもなかなか苦痛だ。
 これは、絶対に腹を壊す。
 大事な瞬間にトイレにこもっていましたでは笑い事では済まない。
 しかし、ここでやめたりして、敵に勘ぐられるわけにはいかない。

(つーか、目が笑っていないんだよな……)

 アズパパから紹介されたカスラという男性は、50ぐらいの初老と呼ぶにはまだ早い感じの男性だった。
 背筋がピンと伸びた恰幅のいい紳士に見える。
 常に微笑を絶やさず、非常に物腰の柔らかな感じで好感が持てそうなタイプに見えた。
 しかし、オレは気がついてしまった。
 オレとアズが結婚すると、アズパパから話があった時に、あの目の奥にオレに対する憎悪がわいていた。
 オレは、別に殺気を感じられる武道の達人とかではない。
 しかし、自分対する憎しみというのは、やはり感じられるものだ。
 その憎悪は一瞬で消えたというか、沈んでいったのだが、オレの中では預言書が事実だという実感となった。
 彼はオレにつきっきりで、世話をやいてくれている。
 今は、何も変なことをするつもりはないだろう。
 もちろん、預言書に書いてあることが、100%ではないこともわかっている。
 何かの拍子に歴史が代わり、この微笑男性のカスラが、オレに毒を盛ることだって考えられる。
 危険は、オレにもある。
 しかし、やはりオレよりも危険なのは、アズ、そしてその身代わりになっているミヤだろう。

(この人がここにいるかぎり、心配はないだろうけど……)

 この祭事で嫁は、森の神が宿るという一軒家で一晩中、誰とも会わずに過ごさなければならない。
 そこで身を清めて、翌朝に迎えに来た夫となる者と一番に逢う。
 過去のしがらみ(要するに男関係)を浄めて真っ白となった身に、あらためてそこで夫が口づけすることで婚姻が成立するわけである。
 つまり、嫁の方もみんなが周りで楽しそうにお祭り騒ぎをしているのに、1人寂しく家に閉じこもっていなければならないわけなのだ。

(本当に、当事者に優しくない儀式だな……)

 まあ、祭事なんてものはそんなものなのかもしれない。
 オレの世界の結婚式だって、考えてみれば新郎新婦は準備から本番まで、誰よりも大忙しだ。

(つーか、今のところは気がつかれてないようだな……)

 この作戦を知っているのは、オレとアズとミヤ、アズパパ、アズママ、そして親衛隊の2名と、村の守備隊で2名だけである。
 これ以上、下手に広めては、カスラに気がつかれる可能性もある。
 念のため、村にはいつもより強い結界が張られていた。
 これも結婚式があるからという理由で、特に違和感なく施行できた。
 なにしろ新婦は2度も攫われているのだ。
 用心して当たり前である。
 だが、カスラは知らないだろうが、守備隊は戦闘配置にすでについていた。
 これで不意打ちはないはずだ。
 そして、さらにもうアズは別の部屋に匿ってあり、儀式の一軒家にはミヤが入っている。
 あとはこのまま祭事をこなして、みんなが寝静まる夜を待つだけであった。


   ◆


 祭りが終わった時、オレはやはり腹を壊していた。
 そりゃそうだろう。
 あれだけ水を呑まされれば、お腹の中はタッポンタッポンだ。
 しばらくトイレにこもって、出てきた時にはぐったりだった。

「大丈夫ですか、婿様」

 心配そうにカスラが声をかけてくれた。
 本当に何も知らなければ、優しいいい人にしか見えない。

「ああ、すいません。たぶん……」

「しかし、驚きました。あれだけ呑んでも、ぜんぜん酔っていらっしゃいませんね」

 想定内の質問だ。

「ええ。神の国の人間は、お酒に酔うこともないですし、毒も効かないんですよ」

「おお。そうでしたか。さすが、神人(しんじん)様はすばらしい力をお持ちだ……」

 もちろん、嘘であるが、これで言い訳も立つし、オレを毒薬で殺すこともしなくなるだろう。
 これで狙いは、アズに定まる。
 危険だが、むしろ相手の目的がハッキリしている方が読みやすい。
 オレはその場を離れて自分の部屋に戻ると言って去った。
 その後、アズの様子を見に行く。
 彼女は、1人で大人しく閉め切った部屋に一人でいた。
 そこは、オレが借りている客間だった。

「とりあえず終わったよ……お腹痛いけど……」

〈こちらに。治癒魔法をかけます〉

「いや。やめとこ。つーか、魔法って感知されるとか言ってなかったけ? ばれたらまずいし」

〈あ。そうですね……すいません〉

 仕方がないことだが、アズは元気がない。
 何とか慰めたいところだが、いい言葉も見つからない。

「…………」

 オレが口ごもると、アズはまた電子ペーパーにペンを走らす。

〈この結婚式が、本当にわたしとミヤ様2人と、アウト様の結婚式だったらどんなに幸せなことでしょう〉

 なんかのフラグでも立ちそうな台詞である。
 ここはフラグを折るような台詞を言いたいところだが……思いつかん。

「つーか、10年立って、アズがまだオレのことを好きだったら結婚しような」

 迷ったあげくにそう言ってから、「むしろ、これ完全にフラグじゃね?」と内心で突っこむ。

〈10年後も好きに決まっています! わたしはもうアウト様のものなのです! でも〉

 そこで一度切ってから、アズはまたペンを走らす。

〈ミヤ様は10年も待たせては可哀想です。すぐにでも結婚してあげてください〉

 予想外の意見に、オレが戸惑ってしまう。
 だが、ここは空気を読むところだ。
 最近のオレは、すっかりそういうことができる男になってしまった。

「……そうだな。これが終わったら、ミヤと話してみるよ」

 言ってしまってから、「これもフラグじゃね?」と後悔した。
 なんか完全に流れがアウトコースである。
 先が見えてしまうかのようだ。

「…………」

 少し不安を見せたオレに、目の前の青髪の美少女が笑みを見せる。
 きっと元気づけようとしてくれているのだろう。


 ――オレはその時、そう思ってしまった。
 その笑みにある決心が隠れていることなど、オレにはまったく見通せなかったのである。
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