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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

六泊目

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ガールズトーク後に……

 オレは、眠っている。

「それで、どうしてミヤ様は?」
「うーん。そうねぇ。別に今も『好きか?』と聞かれるとよくわからないんだけどね」

 オレは、寝ている。

「それならどうして許嫁になると仰ったのですか?」
「まあ、一番の理由は、異世界に関わりたかったんだと思うんだぁ。でも、同時にね、アウトさんのことが男性の中で今、一番気になるのもまちがいないんだよ」
「それは、なぜなのでしょうか?」
「えっとね。最初は、アウトさんって本当にダメダメな感じでねぇ」
「ダ、ダメダメ……」
「そう。ダメダメ」

 オレは、目を瞑っている。

「そのころのアウトさん、女の子に声掛けまくりでね。なんかね、ミヤにも色目を使ってきていてね。まあ、ミヤってすごくモテてたので珍しいことではなかったし、アウトさんはダメダメなので興味もなかったので無視してたの」
「そ、そんなにダメダメ言わなくても……」
「ほんとーにダメダメだったんだもん。でもね、それが異世界に行くようになってから、なんかいろいろとやる気出しちゃって、すごーくがんばりだしたの。しかも、妙に仕事も早くなっちゃうし、良いアイデアをだすとか評判になったり」
「そ、そうですか……」
「なのに、今度はミヤに興味なくしちゃったんだよ。なんか、そーなると逆に気になるじゃない?」
「はい……」

 オレは、横になっている。

「しかも、しかもね。妙に私に親切にしてくれたり、優しくしてくれたりするのよ。下心もないのに」
「……それって、いい人ということでは?」
「そうなのよ! それですごくいい人だなって、逆にこっちが興味持っちゃったの。しかも、異世界の話とかしたら、なんかすごく楽しくて。話も合うなぁ~って」
「それで……ですか。確かにアウト様はお優しいです。魔獣に襲われた時も、わたしのことを守ってくれようと矢面に立たれて……」
「おお。アウトさん、戦ったの?」
「いえ。アウト様は戦えないようでしたので、私が魔法で……」
「あははは。アウトさん、しまらないねぇ」

 オレは……オレは……。

「でも、いつも助けてくださいます。わたしの勇者様です」
「おお! その言い方、ファンタジーっぽい! ……うーん。なんかミヤもアウトさんをやっぱり好きなのかもしれないなぁ。アズちゃんにそう言われると、なんか嬉しいし悔しい気がするもの」
「アウト様と話しているミヤ様は、すごく楽しそうですよ」
「……うん。そうだね。楽しいよ」
「しかし、アウト様はなぜ、そんなにダメダメから変わられたのでしょうか」
「ああ、それね! 実は第三の……いや、第一の女がいるらしいのよ!」
「え? まさか他にも許嫁の方が!?」
「それはどうか知らないけど。なんかね、アウトさんから聞いた話だと、異世界ですごくまじめに仕事に取り組むネコ耳ウサギ尻尾の女の子と知り合って、その子に感化されたらしいよ」
「ネコ耳ウサギ尻尾……【獣呪族(しゅうじゅぞく)】ですね……」
「うんうん。そういうのらしいねぇ。ミヤも会ってみたいなぁ。……とにかく、その子のおかげでアウトさんは変わったらしくて、なんとしてももう一回、その子に会いたいんだって」
「それはアウト様にとって重要な方なのですね。……許嫁が増えるということでしょうか?」
「いやぁ~、どうかな。向こうがアウトさんを好きかどうかなんてわからないしね……ね? アウトさん?」

「つーか、お前らオレを寝かす気がねーだろう!」

 オレは思わず上半身を起こして怒鳴った。
 二人がクスクスと笑いだす。

 アウトランナーのラゲッジルームで三人寝るのは、さすがに辛いものがあった。
 だから、オレは座って寝るので、二人は横になって良いと提案した。
 そうしたら反対に、二人からオレこそ横になって寝るべきだと提案されたのだ。
 理由は簡単だ。
 まず、異世界に行くためには、オレがしっかりと睡眠状態にならないといけないと言うこと。
 もう一つは、先にオレが眠れば、二人が安心して眠れるということだった。
 まあ、理屈はわかるので、オレもそれをよしとした。

 しかし、実際には素直に寝かせてくれなかった。
 まず、なぜかミヤはオレに膝枕をしてくれた。
 なぜだかわからないが、してくれた。
 それだけでドキドキとしてしまい、なかなか寝つけなかった。
 さらにアズは、オレの横でオレの腕に抱きつきながら横になったのだ。
 これでリビドーを押さえて眠りにつけとは、いったいどんな拷問だというのか。
 さらにトドメが、ガールズトークである。
 横になったオレのすぐ隣で、オレのことを赤裸々と語ってくれるのである。

 この状態で眠れる男は、どう考えても精神疾患があるのではないかと思えるほどおかしい。
 オレとて、何とか眠りにつこうと努力はしてみたものの、触覚や聴覚、さらに嗅覚まで敏感に反応してしまい、とてもじゃないが眠るどころか落ちつくこともできやしない。

「申し訳ございません、アウト様。きっとミヤ様が私に気を使ってくださったのだと思います」

 アズも体を起こして、かるく頭をさげる。

「早く帰って両親に会いたい想いもありますが、同時にこちらの世界から帰るのも少し寂しいのです。楽しかったので」
「じゃあ、アズちゃん。一度、帰ってからご両親に挨拶して、こちらで暮らしたら良いんじゃない?」
「……いえ、ミヤ様。それはやめておきます。今なら、アウト様の不安がすごく良くわかります」

 アズは少しだけ寂しく笑って見せた。
 その思慮深い笑顔は、とても年齢にそぐわない気がした。

「別の世界にずっと住むのは、やはり自分の居場所ではない不安感があります。魔力も弱く、よく知っている場所も人もいない、知らない文化に囲まれた、まったく違う環境。それはもしかしたら、慣れることもできるのかもしれません。しかし、心のどこかで『ここではない』『ここにいてはいけない』という声が聞こえる気がするのです」

 オレは思わずアズに深くうなずいた。
 アズと同じ不安をオレも感じていたのでよくわかる。
 言語が変換され、まるで異世界の住人になっているのに、どこか長居してはいけない気がしてしまうのだ。

「つーか、ホームシックみたいなものかもしれないけどな。実際、何度か行っている内に、その感覚も薄れてきた気がするし」
「そうですか。それではまた、こちらの世界に遊びに連れてきてくださいませ、アウト様」
「もちろんだよ。でも、その前にまずちゃんと、一度戻らないとな……」

 オレはあえて「元の場所と時間に」という言葉を濁して言わなかった。
 なんとなく、今日も異世界に移動することはできる気がする。
 しかし、できることならアズを元の場所と時間に戻してやりたい。
 少なくともこちらで過ごした日数分ぐらいのズレであって欲しい。

「大丈夫ですよ、アウト様」

 アズがオレに顔を近づけ、瞳の奥を覗きこむように見る。
 LEDルームライトの光が、グレーの瞳に反射して妙にキラキラとしているように見えた。

「わたし、誘導してみます」
「誘導?」

 どうやらアズには、オレの心配事などお見通しだったようだ。
 しかし、「誘導」の意味がわからない。

「アウト様が世界を渡る時、夢で呼ばれているのかもしれないという話がありました。もし、そうならば想いの力で飛び先が決まっているのではないかと思います」
「……なるほど?」
「ならば、わたしが魔力を乗せて自分の想いをあの場所に向けてみようと思います。ただ、時間は翌日あたりが良いですね」
「つーか、そんなこと、できるの?」
「わかりません。ただ、呼ばれた時と場所に跳ぶなら、わたしがこちらから呼んでもできるのかもしれないと考えておりました」

 アズはオレよりもよっぽどいろいろと考えているのかもしれない。
 オレなんて、心配はしていたけど「なんとかなる」程度しか考えていなかったのだ。

「でも、それだとアズが寝ちゃうとダメなのかな?」
「いえ。それだとわたしが万が一、寝てしまうと困ってしまいます。ですので、寝る前にアウトランナーに(まじな)いをかけておこうかと思っておりました」
「アズちゃん、なんかすごいね! まさに魔法のプリンセス!」

 ミヤが感動したようになぜか拍手をする。
 というか、「魔法のプリンセス」って言いまわし、なんか古くないだろうか。

「まあ、そういうことなら、アズちゃんに魔法をかけてもらって、もうみんなで雑魚寝しましょうか。アウトさん、えっちなことは我慢ですよぉ」
「任せろ! 異世界に行ってから、オレの自制心はかなり鍛えられているからな!」
「……それ、ヘタレってことですかぁ?」
「ちげぇーよ、こんちくしょう!」

 やっぱりオレは壁により掛かり、座って寝ることにした。
 まるで当たり前のように、ミヤが俺の脚を枕にした。
 アズまでも、それをマネして枕にしてきた。

(けっこう重いんだぞ、頭って……)

 でも、そんな二人をどかすこともできず、オレも眠りにつくのだった。


 ――そして、異世界転移(シフトチェンジ)は発生したのである。
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