挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

五泊目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

70/99

そしてオレは、少女を連れ去った。

 オレは絶対、帰ったら【神寺(かみでら) (みや)】さんに自慢してやろうと思った。
 魔法ってすごいんだぞ、と。
 なにしろ、アズが唱えただけで目の前の雪が蒸発して消え、地面が顔をだし、あっという間に道ができたのだから。
 この力が合ったら、除雪車も必要ないし、屋根の雪下ろしで事故死などの痛ましい事件も起きないだろう。
 本当にすばらしい力なのだ。
 とはいえ、彼女の力は特別強いらしい。
 強すぎて、自分でコントロールしきれず、彼女は気楽に話すことさえできなくなってしまっている。
 もっと魔法をコントロールできるようになっていれば、こんなにたやすく誘拐されることもなかっただろう。
 しかし、うまく調整できない彼女は、下手に魔法をしようすると、相手を簡単に殺してしまうかもしれない。
 前に来た時、「光よ、壁になって守れ」と唱えただけで、彼女はあれだけ獰猛な魔獣を斃すことができた。
 人間なんか、簡単に消し飛んでしまうかもしれない。
 正直、アズを誘拐するような不埒ものは、殺されても仕方がないとは思う。
 しかし、だからと言ってアズに「()っちゃえ!」などと言うことは、口が裂けても言えない。

(でもなあ、今回もかなりヤバかったみたいだし、なんか考えないといけないよなぁ……)

 雪の中で倒れた時、アズも死を覚悟したという。
 本当に助けられて良かったと思う。

「…………?」

 運転席で思いふけるオレの顔をアズが助手席から心配そうに覗きこんだ。
 オレは「なんでもない」と笑い、それからアウトランナーのアクセルを踏んだ。
 スタッドレスではないノーマルタイヤは、アズが作ってくれた土の道をしっかりと噛みしめて走っていた。


   ◆


 しばらく走ると、雪がほぼなくなっていた。
 ただ、周りは相変わらずの平原だった。
 所々に、大きな岩山があるが、それを避けるように遠回りしながら進む。

(つーか、雪がなくなってマジで助かったわ)

 元の世界に戻ったら、タイヤチェーンでも買っておくべきかなとも思うが、正直なところスペース的にそろそろ辛い。
 やはり、ルーフキャリアなどを載せるべきだろうか。
 だが先日、ルーフテントなる製品も見つけてしまった。
 なんと車の屋根の上に、ポップアップ式のテントができるという商品なのだ。
 睡眠スペースとしては非常に便利かも知れないが、この不用心な異世界では少し不安でもある。
 まあ、どちらにしても魔力が溜まるまで、あと1日ぐらいは必要なはずだ。

「――!」

 オレがいろいろと思考に囚われていた時だった。
 突然、アズがオレの肩をトントンと叩いた。
 そして、助手席側の窓の方を指さす。

「……なんだ?」

 オレは車を止めて、アズの指す景色を確認した。
 すると、そこには3匹の馬が見えた。
 その馬には、もちろん人が乗っている。

「ん? なんだ? ……あ、つーか、アズの知り合い?」

 アズは思いっきり頭を横にプルプルとふるった。
 そして眼窩に怖れを含んだ瞳で、騎乗している者たちを睨んでいる。

「……もしかして、あいつらが誘拐犯?」

「…………」

 アズは力強くうなずいた。

「そ、それは……逃げないとやばそうだな!」

 オレは、アクセルを開けた。
 そのオレの動きに気がついたのか、3騎ともにこちらへ向かって走りだす。
 もしかして、アズを追跡してきたのだろうか。
 それとも雪原を抜けるルートは実は限られていて、ずっと見張っていたとか?
 はたまた、ただの偶然というのもあるかもしれない。
 とにかく、騎乗している者達が危険な奴らで、こちらを狙っていることだけはまちがいないだろう。
 昨日からバッテリーを使っていたことと、やはり寒さが原因で早めにバッテリーが切れてエンジンがかかる。
 だが、今はパワーが欲しいからちょうど良い。
 エンジンを唸らせて走り抜ける。
 ただ、知らない道は怖い。
 馬は時速5、60キロぐらいだと聞いたことがある。
 まあ、それも条件が良ければだろう。
 それにそんなには長く持続できないはずだ。
 こちらが70キロもだせば、ついてこられないはずである。

(ふりきれるはず!)

 オレはそう計算して運転していた。
 たが、忘れていたのだ。
 ここは異世界。
 魔法がある世界なのだ。

「――うぎゃあ!」

 突然、目の前に火の玉が落下した。
 オレは、慌ててハンドルを切る。
 ちらっと見る、ルームミラー。
 さらにもう1つ、奴らの1人が炎の玉を頭上に掲げている。

「それ、やばい!」

 オレはハンドルを右に切る。
 運良く読みが当たる。
 うまいこと、炎の玉は地面に沈む。
 しかし、かなりヤバかった。
 ただ、奴らの目的は、アズの捕獲。
 こちらを殺すつもりはないはずだ。
 微妙に位置をずらして、撃っているのかも知れない。

(つーか、なんとか、ふりきらないと……)

 オレは道が悪い中、ぎりぎりまでスピードをあげる。
 かなり距離を離していける。
 平原はいつの間にか、木々と大きめの岩石が並ぶ景色が変わっていた。
 道が限られてしまい、真っ直ぐには進めない。
 だが、まだ時速60キロ以上は出せている。

「もう……追ってこないか?」

「…………」

 いつのまにか、後ろに馬の姿はなかった。
 かなり引き離したのだろう。
 これでやっと一安心。

 ……と思った、矢先だった。

 走り抜けた後ろの巨岩の影から、先ほどの誘拐犯達が突如、姿を見せたのだ。
 馬でしか通れないショートカットでもあったのだろうか。
 先回りこそ、ぎりぎりされなかったが、またすぐ後ろにつかれてしまう。

「しつけーな!」

 なんとかふりきりたいところだが、道が狭くてこれ以上は速度がでない。
 もしかしたら、オレたちはこの道にうまいこと追いこまれたのかも知れない。
 サイドミラーに赤い光が写る。
 たぶん、火の玉。
 避けるような道幅はない。
 万事休す。

「――光よ!」

 アズが言葉を放った。
 いつもの快感を伴うアズの声か脳髄まで響く。
 途端、彼女の体が光を放ち始める。
 そうだ。
 アズの魔法の壁なら、相手の攻撃を避けられるかも知れない。
 相手が止ってくれれば、光の壁で殺すこともないはず。

「――!?」

 だが、光の壁が作られることはなかった。
 なんとアズの光が、あっという間に失われていったのだ。
 もしかして、まだ体調が悪いせいだろうか?
 それとも、雪を溶かした時に力を使い切った?
 その答えを知る余裕などなかった。
 社内にまで、真っ赤な光が入りこむ。

「――死ぬううぅぅぅ……うっ!?」

 刹那、無音が世界を覆った。
 視界が真っ白に包まれた。
 すべての停止。

(こ、これは……!?)

 なんと、元界帰還(シフトアップ)が起きたのである。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ