挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/99

怪我したネコウサ娘を……

「ごちそうさま!」

 異世界にも「ごちそうさま」があるんだと思いながら、オレはとりあえずカップラーメンの入れ物を受けとった。
 そりゃもう見事に、スープも一滴残らず飲み干している。
 まあ、とりあえず車中泊の基本なので、ゴミは持って帰ろうと、ビニール袋にしまいこんだ。

「ところでさ、なんで日本語わかるの?」

 満腹で幸せそうな顔のキャラに、オレは非常に基本的な事を質問してみた。
 どうみても、彼女は日本人には見えない。
 肩まで届く琥珀色の髪、薄いながら褐色の肌、少し赤系の瞳、さらに牙のような鋭い歯まで生やし、ネコ耳とウサギ尻尾まである日本人は、少なくてもいないだろう。
 見た目そっくりならば、秋葉原あたりに行けばいそうだけど。

「にゃほんご? なにそれ? わからないけど?」

「つーか、オレと話してるじゃん!」

「ん? ん? ……話してる、うん」

「日本語で話してるじゃん!」

「ん? 話しているのは、いわゆるオバ・ザ・クセン語」

「おばさんくさい語? どこの国の言葉?」

「オバ・ザ・クセン語。同盟系はみんな、これ」

「同盟系?」

「うん。【黒の血脈】同盟国」

「……黒の血脈って……つーか、ここどこよ?」

「ここ? 第十位盟主国【ヘミュン】の端の方」

「どこやねん、それ!……って、オレ、その何とか語を話してるの?」

「オバ・ザ・クセン語、話してるぞ?」

「……まじで?」

「なに言ってるんだ、オマエ?」

 キャラに奇異な目で見られるが、むしろオレがそんな目でオマエを見たい。
 だが、たぶん「奇異」なのは、オレの方なのだろう。
 なにしろ、まちがいなく、オレの方が来訪者なのだから。

「なあ、ところでさ――」

「――ぬぬぬっ!?」

 突然、彼女は自分が座っていた、荷室(ラゲッジ)マットをポンポンと叩きだした。
 そして、低く唸りながら車内の内装をキョロキョロと観察し始め、ボディのあちこちをノックするように叩きだす。

――コンコン

――コンコン

――コンコン

 一通り叩いた後、彼女はワナワナと震える口を動かし始める。

「にゃ、にゃぴょん!? こ、この小さな建物、不思議な材料、使ってる!?」

「今さらかよ!」

「腹減ってて、気がつかなかった!」

「脳と腹が直結しすぎだろうが! それに建物じゃねーよ。乗り物だよ。車だよ、く・る・ま」

「にゃぴょん!? これが、車!? かっこ悪い!」

「なんだと、こんちくしょう!」

「そう言えば……これ……」

「電気ケトル?」

「火もないのに、お湯を沸かした!」

「つーか、これも今さらかよ!」

「しかも、あっという間に、お湯にした!」

「その『あっという間』も、腹ぺこを我慢できなかっただろ、お前は……」

「こんな……こんな魔法の道具、持っているなんて……」

 まるで恐れるようにネコ耳を倒し、上半身を引いて片手で口を押さえてみせる。

「オ、オマエ……何者!?」

「散々、オレから飯を奪っといて、今さら(おのの)くな!」

 こいつのマイペースさの方が、オレには恐ろしい。
 だが、まあ、確かにまだ自己紹介もしていなかった。

「オレが何者って言われても……。説明しても理解してもらえるかなぁ。……よーするに、こことは違う別の遠い世界からやってきたというか……」

「ああ。異世界から来たのか」

「理解早っ! つーか、いきなり冷静になっているし! 異世界って知ってるのかよ!」

「うん。この前、異世界から来た人と話した」

「えーっ!? オレ以外にもいるの!?」

「うん。まあ、こんな変な車、乗っていなかったけど」

「変じゃねぇよ! つーかそれならその人に合わせてくれよ! 帰り方を教えもらうから!」

「その人も帰れないって言っていた。異世界に行くのは、もの凄く難しいと言っていた。すごい力がいるって」

「……え? そうなの? オレ、寝て起きたら、異世界に来ていたんだけど……」

「オマエ、器用だな……」

「簡単な単語になったな、オレのすごい力……」

「それに、キャラは仕事があるから戻れない」

「仕事?」

「そう。仕事。キャラは配達人」

 そう言いながら、彼女はお腹につけていた小さなポシェットをポンと叩いた。
 横二〇センチぐらい、縦は一〇センチぐらいしかない。
 しかし、ベージュの革製のようで、なかなか丈夫そうに見えた。

「この中の書状を期日までに届ける。それが仕事」

「……それがなんでまた、腹ぺこで倒れてたんだ?」

「時間を短縮しようと、近道をした。でも、そこは魔物が出る場所だった」

「魔物……スライムとかそういのう?」

「スライム? それは知らないけど、襲ってきたのはリビングデッド」

「リビングデッド……って、ゾンビじゃん! そっちのが怖いじゃんか!」

「大丈夫。たぶん、こっちには来ない。たくさんいたけど」

「たくさんいたのか……」

「キャラは足が速いので、なんとか逃げられた。でも、とっさに襲われたので食べ物の入った鞄、落としてしまった」

「なるほど……」

「さて。世話になった。もう行く」

 そう言うと、キャラは荷室(ラゲッジルーム)からピョンと飛び降りる。
 とたん、「いたっ!」と左足を押さえて、体を前屈みにする。
 顔が苦悶で歪んでしまっている。

「ど、どうした? 足か? ブーツ、脱いでみろ」

 オレは問答無用で、彼女の左のブーツを脱がす。
 その間にも痛がっていたが、それもそのはずだった。
 (くるぶし)の上あたりがひどく腫れ上がっている。

「これ、足首、くじいたんじゃねーのか!?」

「へ、平気。これぐらい……」

「平気なわけねーだろうが! つーか、とにかくちょっと、そこに座ってろ!」

 オレはキャラを荷室(ラゲッジルーム)に座りなおさせた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ