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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

五泊目

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ねっとりと白濁した汁を……

 彼女の不可思議そうな顔に、オレは戸惑った。

「……え? いや、あのさ。意味がわかっている?」

 またかわいく首を傾げる。
 すると今度は、何かに気がついたのか、はっとした顔を見せて微笑を見せる。

〈わたし、二番目の妻でもかまいませんよ? 一番目ではなくては嫌だなどとわがままは言いません〉

「…………え? 二番目!?」

〈はい。年齢的に離れていますから、三番目ぐらいでももちろんかまいません〉

 そこまで来て、やっと意味がわかった。
 そうなのだ。
 ここは異世界で、異世界と言えばお約束の制度があるではないか。

一夫多妻制(ハーレム)……)

 そう言えば、そんな男の夢もありました……。

「質問なんだけど、この世界の人は何人と結婚してもいいの?」

〈アウト様の世界は一人しか結婚できないのですか?〉

 反対に質問されて、オレは力強く首肯する。
 少なくても日本はそうだ。

〈そうですか。わたしの知る限り、男性も女性もお互いに納得すれば、何人と結婚してもかまいません。ただし、結婚後に別の婚姻を行うには、本人と配偶者全員の承認が必要です〉

「お、男だけではなく、女もなのか……。それってけっこう普通なの?」

〈庶民はあまり複数人としたりしません。養えませんし〉

「……そりゃそうか」

〈なので、士族、貴族、そして神降者(エボケーター)ぐらいです。とくに神降者(エボケーター)は、ほぼたくさんの相手を持ちます〉

「エボ? なにそれ? モテるの?」

神降者(エボケーター)の優れた能力を子供に引き継げる可能性がありますし、神降者(エボケーター)の配偶者は優遇されることも多々あります〉

 と、そこまで書いてから少しくらい顔をする。

〈ただ、神降者(エボケーター)の中には配偶者を物のように扱う方もいるようですが〉

「つーか、ひでーな。なんでだよ……」

神降者(エボケーター)、つまり神から見たら、我々はつまらぬ存在なのかも知れません〉

「なんだ、それ! むかつくな!」

〈そうですね。でも、アウト様は違います。すごく、優しい方です〉

「つーか、オレ、そもそもその神降者(エボケーター)とかいうのじゃないし……」

〈もちろんです。アウト様は神降者(エボケーター)ではなく、神の世界から来た神人(しんじん)です。格が違います〉

「……え? そうなの?」

〈はい。神人はほぼ伝説で、実際にいるというのも噂はあれど、実際には見つかっていないと思います〉

(……あれ? でも、キャラはたしか、他にもいるって……)

 オレはキャラとの会話を思いだす。
 確かにキャラは、別の異世界人と会ったと言っていたはずだ。

〈ともかく神人ともなれば、多くの者が妻になりたがるでしょう。もちろん、妻を何人とろうと何の問題もありません〉

「ま、まじか……」

〈アウト様は、わたしのことが嫌いですか? 大人になっても妻にできませんか?〉

 じっときれいなグレーがオレを射るように見つめた。
 おかげでオレは、つい本心をぶっちゃけてしまう。

「そんなわけないだろう! 大歓迎…………あっ!」

 慌てて口を押さえるが、もう遅い。
 これで完全に、アズにオレの本心がバレてしまったはずだ。
 なにしろ、アズが勝ち誇ったように笑みを見せている。
 これは子供の笑みではない。
 まさに大人の女の笑みだ。

「いや、まて。でも、やっぱりアズはオレにはもったいなさ過ぎて……」

〈神人様にもったいないなどというはずはありません〉

「うぐっ……」

〈それに、私と口づけの儀式も行いました〉

「そ、それは非常事態で……」

〈さらに見られました〉

「…………」

 顔を少し赤くしながらも、上目づかいで見つめてくる。
 予想外だった。
 まさか、ここで武器として使ってくるとは思わなかった。

〈わたしの見ましたよね?〉

「……な、なんのこと……」

〈わたし、医者でもない、旦那様になる方以外に見られたら、命を絶ちます〉

「ちょっ、ちょっと!」

 開きなおって、本当に必殺武器にしてきた。
 10才のくせに、なんでこんな「女」な戦い方をしてくるんだ……。
 アズ、恐ろしい子……。

「と、とりあえずだな、そのなんだ……いろいろと前向きには検討するので、せっかくの飯を食わないか?」

「…………」

 じっと、彼女は正面からオレを睨んでくる。
 その睨んだ顔もかわいいのだが、オレはその顔を見られずに顔を背けてしまう。

「…………」

「……ふぅ」

 少しの間を置いて、アズが小さくため息をもらした。
 そしてまたペンを動かす。

〈わかりました。とりあえず詳しい話は、ご飯の後にしましょう〉

「そ、そうだよね! よし、おいしい鍋を食べよう!」

 オレは話題をごまかすように、鍋の蓋を開けた。

「じゃーん。これが豆乳鍋だ! どうだ、うまそ…………あれ?」

 よく見ると、鍋の表面に白い膜のような物が、細かく浮いている。
 ねっとりしたそれは、灰汁を巻きこんでちょっと見た目がよろしくない。
 何だこれはとよく見れば、あれだ。
 ホットミルクの表面できるアレだ。
 湯葉みたいな奴である。
 豆乳をたぶん、早く入れすぎたのだ。
 沸騰させてしまい、固まってしまったのだろう。

「あ、そ、その……見た目は悪いけど、たぶん味に問題はないと思うよ?」

「…………」

 嫌な顔一つせず、アズは微笑してくれる。
 正直なところ、こんな娘、マジに嫁に欲しい。
 しかも、二号さんでも良いし、たまに逢いに来ればよいという、なんとも男のエゴ丸出しの好条件だ。
 なにか大事なことを忘れている気もしたが、オレはもう無駄な抵抗をやめることにしていた。

 ちなみに、「豆乳の投入タイミングをミスった」という駄洒落を言おうと思ったが、相手が十文字女史ではないので心中にとどめておいた……というのは、どうでもいい話かも知れない。
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