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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

五泊目

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まだ子供だけど……

 今回は、さすがに手強かった。
 謝っても謝っても、寝袋から出てこなかった。
 このままでは埒があかない。
 引いてダメなので、押してみることにする。
 オレは鍋が載っているテーブルの席に座って、大きな大きなため息をつく。

「アズ。つーか、お前、あのままだとマジヤバかったんだぞ」

 少しドスを利かせた低い声を作る。
 ちょっと芝居くさいが仕方がない。

「あのまま熱が下がらなかったら命だって危なかった。オレだって苦肉の策だったんだ」

「…………」

 少しだけ寝袋がもぞっと動く。

「アズが知ったら嫌われることを覚悟してでも、オレはアズを助けたかったんだ。……でも、まあ仕方ない」

 ここで一拍の間を置く。

「悲しいけど、もうオレはアズに嫌われてしまったんだな。まあ、しょうがないよな、こんな変態ダメ男じゃ」

「…………」

 寝袋の入り口から、ちょろっと青い髪が覗くが、オレは気がつかないフリ。

「せめてアズに温かい鍋でも食べてもらおうと思って、がんばっておいしいのを作ってみたんだけど……。もう大嫌いになったオレの作った飯なんて食いたくないよな……」

 ここで顔を両手で覆って下を向いてみる。

「…………」

 モゾモゾガサガサという音がする。
 天岩戸が開いたようだ。
 でも、まだ顔を上げない。
 しばらく待っていると、アズが俺の前の席に座る気配がする。
 ここだなと、オレは顔をゆっくりと上げた。
 すると顔をそらしているが、湯気のでる鍋の向こうでアズの青い髪が見えていた。

「……アズ、許してくれるのか?」

「…………」

 するとアズは、横を向いたまま、片手を広げて、もう片手でペンを持つ形にして動かしてみせる。

「……ああ。書くものか」

 オレは車に戻って、あるアイテムをとってきた。
 アズにあげようと思って買っておいた、手書きできる電子ペーパーである。
 消す時にしか電気を使わないため、消費電力が少ないモデルだ。
 それをアズに手渡す。

〈なんで逃げたんですか?〉

 アズは視線を今度はさげたまま、電子ペーパーをオレに突きだした。
 一瞬、何のことかわからなかったが、前回のことだとすぐに思いだす。

「ああ。あれはその……急用……いや、ごめん。それは卑怯だな」

「…………」

 オレは異世界に来る前に考えていたとおりのことを告白する。

「正直さ、まずこの世界にずっといるというのは怖かったんだ。アズと結婚したらそうしなければならないだろう?」

〈なぜ怖いんですか?〉

 オレの回答に興味を持ったのか、アズがその顔を訝しげにあげた。
 どんなにかわいく、きれいでも、まだまだ幼い子供の顔だ。
 それなのに、精神年齢の高さのせいだろうか。
 どこか大人の雰囲気も持っている。
 特にその視線に、非常に強い力を感じるのだ。
 今度は、オレが少し視線をそらしてしまう。

「うーん。やっぱりさ、オレの世界はこっちじゃないんだよ。最初は自分の世界から逃げてこっちに来たんだけど、でも……こっちにきたおかげで、元の世界もなんか好きになってきたんだ」

「…………」

 しばらく考えてから、アズがペンを走らす。

〈わたしは、アウト様を縛ったりしません。何日かごとでもかまっていただければ充分です〉

「いや、でもね……それでも、アズと結婚はできない」

「――!」

 アズのグレーの明眸がこぼれるのではないかと言うほど見開かれ、そしてすぐに涙を浮かべだす。
 もうその泣き顔は、子供が泣きじゃくるような顔には見えない。
 まさに「女」の泣き顔に見える。
 おかげでオレは超大慌てだ。

「いや、ちょっと待って。つーか、アズのことは好きだよ。ものすごくかわいいとも思っている! いや、まじ!」

「…………」

「でもね、オレの世界の結婚は、20才からしかできないんだよ」

 もちろん嘘だけど、正直なところオレはこれが精一杯だった。
 ぶっちゃけアズはかわいいし、こんな子に好かれて嫌な人間なんていないだろう。
 そして、将来は美人になる保証もある。
 その美人度は、十文字女史を超えていると思う。
 まさに、超一級の逸材。
 そんな彼女をこっちにいられないオレがキープするとか、神に対する冒涜じゃないかとまで思う。
 しかも、来た時に必ず会えるとは限らないのだ。
 さらに、やはり年齢が離れている。
 何年か経った時、たとえば久々にあったオレに幻滅するということもありえる。
 そしてオレは何より、そのシーンを見たくないのだ。
 がっかりされたくない。

「…………」

 彼女がまだ書きたいようなので、電子ペーパーの消し方を教える。
 するとすぐにまたペンを走らせる。

〈こちらの世界なら、15才で成人して結婚できます〉

「でも、20才で成人するオレの世界観からいうと、15才はまだまだ子供にしか見えないんだよ。子供と結婚するわけにはいかないだろう?」

〈それならば、二〇才まで待ちます〉

「オレが待てないで、その間に他の人と結婚してしまうかも知れないだろう?」

 オレのその言葉を聞いた途端、彼女が首を傾げる。
 そして上目づかいに少し考えてから、またペンを走らせる。

〈それがどうしたんですか?〉
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