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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

五泊目

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お尻にしたのがバレました。

 目が覚めると、もう目の前でアズの目が開いていた。
 オレが大あくびをすると、アズが柔らかな曲線を描くように眦をさげる。

「おお。おはよう、アズ。どうだ、具合は?」

 オレは、マットから上半身を起こした。
 昨日は、アズの横で寝た。
 さすがにこの雪のふる寒い中、車以外で寝るのは辛い。
 まあ、一緒に寝るのは初めてではないし、アズが怒ることはないと思っていた。
 が、怒るどころか嬉しそうに微笑まれると、胸がつかまれるぐらいかわいさが募る。
 とりあえず、彼女の真っ白なおでこを触ってみると、熱はすっかり下がっていた。
 体力は落ちているだろうが、これで一安心だろう。

「外は寒そうだな……。とりあえず、アズは中で着替えていろ。ああ、下着はそこに干してある」

 オレは前席の方を指した。
 そこには紐で橋渡しされた間に、アズの下着がかかっている。

「――!」

 それを見たアズの顔が、また高熱が出たように赤くなり、弾け飛ぶような勢いで下着――パンティとシミーズのような服――を回収していった。
 そして、こちらを微妙な顔で睨んでくる。
 怒っていいのか、感謝していいのか。複雑な顔をしている。

(……でもかわいい……)

 すでに親ばか状態である。

「あと着替えはこれを使え。……じゃあ、ちょっと外の様子を見てきたりするから」

「…………」

 アズは自分の無防備な姿を隠すように、寝袋へまた潜りこんで、コクリとうなずく。
 やることなすこと、まったくかわいい娘である。

(さて。問題は、ドアが開くかだな……)

 試しに後部座席のドアをそっと開けてみると、なんら張りついている感じもなく開いてくれた。
 下手すれば、ドアのゴムなどが凍ってしまっているのではないかと思ったが、そこは大丈夫だったらしい。
 室内の温度が少し高くなっていたおかげだろうか。
 とりあえず、オレは寒いのを堪えながら車からでると、アルミシートをくぐって洞窟の奥へ行く。
 置きっ放しだったテーブルセットの上のLEDカンテラの電源をいれた。
 外は薄明るいが、雪がまだ降っていて時間感覚が今ひとつわからない。
 オレの体内時計的には朝のような気がするのだが、陽射しの位置も今ひとつつかめない。
 後で洞窟の外にでて確かめてみようと思う。
 ちなみに、体内時計と言えば、オレの体に時差ボケが起きていないと言うことにも気がついた。
 不思議なことに、オレはこちらの世界に来た途端、いろいろとこちらの世界に適合している気がする。

(言葉や文字が本当に不自然にわかるのとかもなあ……)

 と考えて、オレは何か忘れている気がした。
 だが、何を忘れているのか思いだせない。
 文字に関係していた気がするのだが……としばらく悩んだが、そのうち思いだすだろうと放置することにした。

(まずは飯で栄養をつけさせないとな。寒いから鍋だな。もともと鍋のつもりの材料はあるし。それから、その間に薪を探してみよう。まだあるだろう)

 オレはとりあえず、今できることをやることにした。
 まずは、IHコンロに鍋を載せる。
 そこに水を少なめに入れる。
 ネットからの知識で、「野菜から水が出るから、あまり水を入れすぎるな」と仰るのでその通りにしてみる。
 そして必殺の「鍋キューブ」というのを使う。
 要するに、鍋の素でいろいろな出汁などが固めてある魔法のキューブである。
 コイツを溶かすだけで、なんとただの水が白湯スープに早変わりする。
 科学の力は、すごいものである。
 それに持ってきていた白菜を突っこむ。
 調理ばさみがあると便利と、ネットの掲示板が言っていたので持ってきたが、見た目を気にしなければ確かに便利だ。
 なにしろ、まな板がいらない。
 急ぎで作りたかったので、熱が通りやすいように細かく切って鍋に投入。
 それから、もやしを一袋。
 もやしは足が早いので、すべて投入。
 さらにマイタケもいれる。
 ネギも入れたいところだったが、車に入れると車内がネギくさくなるので積むのは断念した。
 具は肉……と行きたいところだが、今回は「鮭の水煮」の缶詰を使う。
 缶詰は缶ゴミが出るのがやっかいだが、保存性が高いので重宝する。
 これを入れて、さらに豆乳をいれる。
 豆乳は封を開けなければ、常温保存できる。
 そこで小さい豆乳のパックをいくつか持ってきていた。
 あとは煮込む。

 オレはその間に、外に行って薪を拾う。
 雪はかなり積もっていた。
 足がずっぽりと埋まってしまう。
 一応、靴の替えは持ってきているのだが、足がしもやけになりそうだ。
 急いで20センチほど掘り下げて枯れ木を探す。
 軍手はつけているが、あっという間にびしょびしょになる。
 ぶっちゃけ寒くてやばいし、ほとんど見つけられない。

(太陽は……あっちか……)

 あまり薪を見つけることはできず、オレは早々に退散することになった。
 ただ、雪は弱まっているし、遠い空が晴れてきているようだったのが幸いだ。
 もう少ししたら、やんでくれるかもしれない。
 そう期待しながら、洞窟に戻るとアズが着替えて外にでていた。
 俺が持ってきた予備のダウンジャケットもちゃんと着込んでいる。

「アズ、まだ熱が下がったばかりだから、体冷やすなよ」

「…………」

 アズは微笑して、大丈夫というように両手で拳をつくって握りしめる。
 しかし、昨夜の苦しそうな様子を見ているオレとしては、まだまだ心配だ。

「油断するなよ、アズ。お前、熱が下がらなくて大変だったんだぞ。本当に心配だったんだからな!」

「…………」

 心配されたことが嬉しいのか、ちょっと微笑するアズ。
 その様子も愛らしい。

「おいおい。つーか、笑い事じゃなかったんだからな。意識ももうろうとしていて、水も飲めないし。なんとか解熱剤をいれることで熱をさげて、やっと水も飲んで落ち着けて眠れるようになって……」

「…………?」

 なぜかアズが首を傾げる。
 どこか腑に落ちなさそうな表情だ。
 オレも何を悩んでいるのかわからず、思わず眉を顰める。

「どうした、アズ?」

「…………」

 アズはなぜか唇に指を当てて悩む。
 オレは自分が何か変なことを言ったかと、自分の台詞を思い返す。

(つーか、変なことを言ったつもりは……言ったつもりは………………あああっ!!)

 オレは気がついた。
 気がついてしまったが、とぼけられるはずだ。
 アズが気がつくはずがない。

「――!」

 突然、アズが車の中に入っていった。
 そして、すぐに戻ってきた時に持っていたのは、ある薬箱と、その中に入っていたはずの説明書。
 それはオレが昨夜、使い方を再確認するために読んで、そのまま横に放置していた説明書。
 初めての人でも、図解入りでわかりやすく書いてある説明書。
 図解は、足を曲げてお尻を突きだし、そこに座薬を入れるものだ。
 多少抽象化してあるが、わかる人にはすぐわかる。
 アズはそれを広げて、オレに指さして詰め寄ってくる。

「…………!?」

「……そ、それはだね……」

 勘が良すぎるのは、こういう時に困る。
 「水が飲めない」のに、解熱剤を「いれる」ってどこに? と、そこに気がつくアズは本当に頭が良い。
 そして、着替え中にたぶん見つけた説明書。
 最初はなんだかわからなかったはずの説明書に、その答えを見いだす名推理。
 そこは当てちゃダメだろう。

「そ、それは……か、関係ない……本当だ……」

 オレの動揺したあからさまな嘘など、この天才的勘を持つアズに通用するわけがない。

「…………!?#!%&@※☆?!」

 アズの顔が真っ赤を通りこして灼熱に燃えあがる。
 昨夜の熱がかわいく感じるぐらい、高熱で燃えさかっているようだ。
 そして脱兎のごとく車に戻り、寝袋中に入りこんだ。
 まさに穴があれば入りたいである。

(穴……*…………って、いかん!)

 昨夜の記憶がプレイバックされそうになり、オレは慌てて打ち消した。

「ア、アズ……あれは治療だから」

――プルプルプル!

 寝袋ごと震えるように揺れた。

「み、見てないし、触ってもないし……」

――プルプルプル!

「ご…………ごめん…………」

――プルプルプル!

 いくら謝っても、凄い勢いで拒絶されてしまう。
 とうとう許してもらえる前に、鍋ができあがってしまったのだった。
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