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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

四泊目

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楽しかったけど……

 オレは十文字女史と相談して、朝ご飯を作ることにした。
 昨日、山崎が失敗したご飯は、電子炊飯ジャーで保温してある。
 それを使って、お茶漬けを作ることにした。
 お茶漬けならば、多少ご飯が軟らかくても問題ないだろう。
 それに、昨夜はけっこうみんな飲んでいたので、お茶漬けは喜ぶかも知れない。
 昨夜のニジマスの塩焼きが二尾残っていたので、それを女史が手際よくほぐしていった。
 それを炊飯ジャーに投入し、魚の臭い消し用に乾燥ワケギと、出汁として塩昆布を少しだけ入れる。
 そこにごま油を香りつけ程度に入れて、よく混ぜ合わせる。
 そしてかるく炊き直し。
 と言っても、一〇分ずつぐらいで中の様子を見ながら調整する。
 これで炊き込みご飯風になるわけだ。
 もちろん、これだけでも美味そうである。
 これを使い捨てのお椀によそってから、その上から熱々の出汁をかける。
 出汁は、インスタントの松茸のお吸い物を薄めに作ったものを利用した。
 朝から炭は大変なので、ケトルでわかしたお湯をIHコンロに載せた鍋に注ぎ、お吸い物の粉を数袋投入したものだ。
 仕上げは鰹節、白ゴマ、きざみ海苔である。

「……驚くほど美味い……」

 とにかく出汁がいろいろと利いている。
 基本は魚介だ。
 ニジマス、昆布、鰹節、そして松茸のお吸い物も鰹だしなので、方向性は統一されている。
 塩昆布を入れすぎるとしょっぱくなりすぎるので、少なめにしておいて正解だった。
 また、ごま油の香りと、ふりかけた海苔が食欲を誘ってくれる。
 まずそうだったベチョベチョご飯が、充分食べられる物に蘇った。
 それにお湯でふやけるので、量が少なくてもけっこう腹に溜まるはずである。

「ニジマスは他の川魚に比べて臭くなりやすいんだけど、なんとかなったわね。生姜とかあればもっと臭い消しもできたんだけど。でも、大前くんがワケギを持っていて助かったわ」

「女史……」

「なに?」

「実は、弁当用のワサビパックとか持っているんですが……」

「大前くん! あなた、天才じゃないの!?」

「持ってきます!」

 ちなみに、料理のアイデアは女史が出した。
 オレにこんな知識はない。
 しかしながら、塩昆布、鰹節、きざみ海苔、白ゴマ、乾燥ワケギ、ごま油、松茸のお吸い物はオレの在庫だ。
 つまり、まさにオレと女史の合わせ技である。
 ……まあ、おまけして山崎と釣り人2名を入れてやっても良い。

「パックのワサビだけど、やっぱりアクセントになるわね」

「締まりますね、味が」

 2人でお茶漬け片手に、まじめな顔でうなずきあう。

「……大前くん」

「なんでしょう?」

「電子炊飯ジャー……バカにして悪かったわ。これは使えるわね」

「でしょ! 炊き込みご飯も作れますよ!」

「まあ、炊飯ジャーがなかったら、フライパンで炒めてもいいんだけど手間もかかるしね」

「ああ、そうっすね。昨日の焼きおにぎりが残っていたら、それにお吸い物かけてお茶漬けにするだけでも美味いですものね」

「わかってるわね、大前くん。でも、この炊飯ジャーの手軽さを外で使えるのは、大きいわ。アウトランナーPHEV……ちょっと私も興味でたわよ」

「でしょ! この車、遮音性も高いんですが、そのために保温性も高いので冬もなかなか暖かいんですよ」

「そうなのね……。普通のキャンプもいいけど、時間がない時にはスマートキャンプとの合わせ技は検討の余地があるわ」

「でも、女史は免許持っているんですか?」

「持っているわよ。……ペーパーだけど」

「……つーか、それじゃあ、アウトランナーの運転、アウトだんなー……何つって」

「――ぶふっ!」

 試しにかなり苦しい駄洒落を言ってみたが、驚くべき勢いで受けてしまった。
 オヤジさえ言わないレベルなのだが、これでも行けるのか。
 どれだけ駄洒落に弱いんだ、十文字女史!

「ちょ、ちょっとやめてよね。お茶漬け、吹きだしたらどうするのよ……」

「す、すいません」

「それから、私がこういうのに弱いっていうのは……内緒にしてよ」

「うっす」

 ちょうどその時だった。
 テントから人が出始めた。
 まず出てきたのは、山崎だった。
 こちらを見て「おはよう」と言った途端、顔が少し固まる。

(うむ。すまん、山崎。オレは女史と非常に楽しく過ごさせてもらったが、これ以上は望まないから許せ!)

 心でそう訴えるが、たぶん山崎には届いていないだろう。
 その後、続々とテントからでてくる。
 男どもはいつまで酒を飲んでいたのだろうか?
 カップルは、昨夜はお楽しみだったのだろうか?
 そして……あれ?

「つーか、神寺さんはまだ寝ているんですかね?」

 とオレが女史に聞いた途端、神寺さんが寝ていたテントの入り口が開いた。
 そこに現れたのは、ヒラヒラのついたピンクのかわいらしいパジャマ姿。
 どうやら寝ぼけているのか、舌っ足らずに「おひゃにょう」とか言いながら、眠気眼を手の甲でさすっている。
 その様子はかわいらしいのだが、まずいのは四つん這いになっていることだろう。
 パジャマの広がった首元から、ちょっと胸元が覗けてしまっている。

「うほっ!」

 そんな神寺さんを狙っていた、Aさん(仮名)とBくん(仮名)が興奮気味な顔を見せる。
 山崎さえ顔を赤くし、カップルの片割れまで鼻息を荒くして相方に叩かれる。

「神寺さん、あなたパジャマよ!」

「…………え?」

 慌てて注意した女史の声で、神寺さんは数秒の間を置いてやっと眼を覚ます。
 そして、自分の姿に気がついて、短い悲鳴をあげると、テントの中にモグラ叩きのモグラのごとくすばやく隠れていった。

(そういや、四つん這いになったアズの胸元も見ちゃったっけ……)

 オレは異世界のことを思いだす。
 なんだか、今の神寺さんの胸元より、アズの時の方がドキドキした気がする。
 確かに今の神寺さんもかわいらしかったが、かわいらしさではアズの勝ちだ。
 それに胸の魅力という意味では、ミューの勝ちだ。
 あのすばらしい張りのある感触に勝てる胸はそうそうないだろう。
 そんな邪なことを考えていたせいか、オレは神寺さんの姿をつい冷めた目で見てしまっていた。

「……大前くんは、神寺さんに興味はないの?」

 そんなオレの態度を変に感じたのか、女史が少し睨むように尋ねてきた。
 興味がないわけではないが、まあ「興味がある」というほどでもないし、下手に言ってエロい目で見ていたとか思われたくもない。
 というか、邪なことを考えていたことには変わりないのだが……そこは言わなくてもいいことである。

「いや、まあ、かわいい後輩ぐらいにしか思ってませんが」

「……ふーん、そう……」

 納得したのか、背中を向ける女史。
 さらに横で「本当だろうな」と念を押すようなモブ2人が一瞥くれる。
 さらにさらに、山崎まで嫉妬を感じさせる視線。

「……さあ、みんな。十文字さんがわざわざ、みんなのために朝ご飯を作ってくれてるぞ。さらさらと食べられるお茶漬けだ。美味いぞ!」

 オレは場をごまかすために、きびきびと動いてお茶漬けをよそっては配った。
 お茶漬けは好評で、なんとかその場の雰囲気はお茶漬けの温かさで、ほっとした雰囲気になった。

出汁(・・)の利いたホット(・・・)な茶漬けでホット(・・・)一息したんだし(出汁)……」

「――ぷっ!」

 オレが横で小声でもらしたら、女史は小走りで車の陰に消えていった。
 自分で言っておいて何だが、何が面白いのか全くわからない。
 しかし、戻ってきた時、スゴイ顔で睨んで来たので、小声で「ごめんちゃづけ」と謝ったら、また小走りに車の陰に消えていった。
 しばらくあとで、こっそりと「お願いだからやめて。言うなら二人だけの時にして」と頼まれたので、その後は言うのを一切やめた。
 うん。楽しんですいませんでした……。
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