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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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期待を胸に戻ります。

 オレは働いた。
 いや、もう、それはばっちり働いた……働かされた。
 ミューに、あれや、これやとやらされた。
 とはいえ、ミューの実家で朝も昼もご馳走になってしまったし、その飯は非常に美味だったし、欠片も文句はないのだが。
 しかも、両方ともミューの手料理とくれば、文句どころかありがたいぐらいだ。
 味をほめた時のミューのかわいさが、さらなるご褒美をもらっておつりがでた気分だ。
 おかげで俺は、ミューと離れたくないと思ってしまい、帰れなくなりつつある。
 でも、オレは帰らなければならない。
 昼飯をとってしばらくしてから、オレはミューとアウトランナーで村から出て、ちょっとした平原に出た。
 速度をだして走りやすい場所だと、ミューが案内してくれたのだ。
 村からもわりあい近く、歩きならショートカットできるので村まで十数分程度だろう。
 平原は横幅はさほど広くなく、向こう側には林が見える。
 ただ、縦方向に非常に長く、遠くに赤い岩肌の山が見えていた。
 ここなら確かに、簡単に時速100キロ出せそうである。
 オレは、フロントガラスの向こうの地面を観る。

(……やっぱりあるな……)

 地面を抉るようにしてできた、とても太い轍。
 まるで、18インチのタイヤがつけたような跡。
 それが草を蹴るように、まっすぐとのびていた。
 しかし、オレはそれを口にはしない。
 たぶん、なんとなくだが直感した。
 今は、はっきりとさせなくていいのだ。

「案内、ありがとな、ミュー」

「ん? 気にするな。でも、キャラにあえなくて残念だったな」

「……まあ、すぐに会えるだろうから問題ないさ」

「そうか」

 そう微笑んだミューが、持っていたバッグから本のような物を一冊とりだした。
 何かの茶色い革でできたカバーで、全面に魔法陣を思わす模様が描かれている。
 その上から、真っ黒い厚いベルトが十字に走っている。
 そして、そのベルトの中央には、南京錠のような鍵がついていた。

「はいこれ、持っていけ」

「……つーか、なんだ、それ?」

 受けとって、重さに驚く。
 厚みは、普通のA4ノートの4~5倍はあるようだが、横から見ると1枚1枚の紙の厚みがかなりあるので、それほどページ数はないのだろう。
 やはり、革のカバーやベルトと鍵の重さだろう。

「それは預言書だ。このタイミングで渡すことになっていたらしい」

「……はい?」

「簡単に言えば、日記だ」

「いや、待て。なんでおまえの日記が預言書なんだよ!」

「その日記には、ある(まじな)いがかけられていてる」

「つーか、お前は話を聞けよ!」

「これが鍵だ」

 彼女は銀の鍵をよこす。
 本当に小さい、非常に簡単そうな物だった。

「帰ったら読むと良い。ただし、その預言書を読むと……」

「……老人になるとか言わないよな?」

「それは見てからのお楽しみ」

「うわー! ぜってーなんかあるのに、中が気になるじゃねーかよ、こんちくしょう!」

 もしかしたら、玉手箱を受け取った浦島太郎はこんな気分だったのかもしれない。

「それから後ろに置いた茶色の革マントは、持っていくといい。ミューのお手製だ」

「マジで! いいのか、そんなにいろいろもらって……」

「うん。もらってくれ。こっちに来る時は忘れずに持ってきてくれ」

 そう言うと、ミューは慣れた感じで車から降りた。
 そして、外を歩いて運転席側にまわってくるので、オレは窓を開けた。

「いろいろサンキューな、ミュー」

 オレが窓から手をだすと、ミューがその手を両手で包みこむ。

「うん。また早く来い」

「ああ。……つーか、一つ聞きたいんだけど」

「ん?」

「あのさ、ミューは結婚しているのか?」

 オレの手を包むミューの左手の薬指に、ダイヤの指輪が見えていた。
 それなりに立派そうな指輪である。
 気がついたのは、昨日。
 オレはそれから、その指輪が気になって気になって仕方なかった。
 なにしろ、ミューの母親の薬指に、指輪はなかったのだから。

「……ふふふ。気になるか、アウト」

 オレの視線が指輪に向いていることに気がつき、ミューは勝ち誇ったように笑った。
 琥珀色のネコ耳をピクピクと動かしながら、指輪を頬に大切そうにあてた。

「なんと給料3ヶ月分だ!」

「3ヶ月分! ってか、3ヶ月分でそんな立派な物を買えるとは……」

「ふふふ……。我が旦那様に畏れいったか」

「いった、いった」

「……アウト、嫉妬したか?」

「いや、別に」

「即答か、こんちきしょう!」

「こら。女の子がそんな言葉使うんじゃありません!」

「少しは嫉妬するべき!」

「なーんで、オレが嫉妬しなきゃならん」

「む~……」

 膨れた顔から目線を外して、オレは正面を見た。
 そして、ハンドルを両手で握り、シフトレバーをドライブに入れてから、横目でミューを一瞥する。

「つーか、期待して待ってろって」

「……ん?」

「オレもがんばって、そのぐらいの物が買えるぐらい稼げるようになってやるから」

「……うん。期待して待ってる」

 キャラと同じ、心地よい期待感。
 それを受けとり、俺は後ろ髪を引かれながらも、自分の世界に戻るためアクセルを踏みこんだ。
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