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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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一緒に寝たら……

 オレは疲れた体をベッドに沈めて、暗い部屋で斜めに並ぶ丸太の屋根を見つめていた。
 そして、思考に沈む。
 よく考えてみれば、当たり前だった。
 というか、ぶっちゃけまったく考えていなかった方がどうかしている。
 オレは、どうすれば異世界に行けるのか、どうすれば元に戻れるのかなどを調べることで頭がいっぱいだった。
 確かに、そうなのだ。
 オレは、異世界で普通に時間を過ごしている。
 しかし、元の世界に戻った時は、出発からたぶん時間はほとんど経っていない。
 いや。オレの予想では、まったく時間が経っていないと考えている。
 つまり、元の世界を基準に考えれば、オレだけが周りよりも長い時間を過ごしていることになるわけだ。
 もし、オレが毎週末に一度、異世界で7日間過ごしたとしよう。
 それを1ヶ月くりかえせば、オレだけは2ヶ月の時間が過ぎていることになる。
 極端な話、26才のオレが30年続ければ、オレの同級生は56才だが、オレだけは86才の心身となっているわけだ。

 ミューは誰から聞いたのか知らないが、「うらしまたろう」とオレを表現した。
 しかし、正確には昔話の「浦島太郎」とちがうだろう。
 あの話は、戻ってきた時間が未来だった。
 つまり、周りだけが未来に進んでしまっていた。
 そして最終的に、玉手箱でつじつま合わせされてしまう。
 浦島太郎が過ごした時間は、実際よりも短かったわけだ。
 ところが、オレの場合は実際に過ごした時間が主観的に正しいのだ。
 つまり、オレだけが未来に進んでしまっていると言えるのかも知れない。
 言うなれば、「逆うらしまたろう」と言うところか。
 そして、オレが「逆玉手箱」を手に入れられるとは思えない。
 浦島太郎のように、つじつま合わせができないのだ。

(ただ、別にオレは浦島太郎のように損をしているわけではない……)

 浦島太郎は、心身ともに時間を失ったと言えるが、オレは失ったわけではない。
 言い方を変えれば、「どこで過ごしたのか」というのがちがうだけだ。
 もし、失う物があるとすれば、元の世界の社会的立場かもしれない。

(逆でも何でも、別の世界で別の時間を過ごすという意味では、オレも浦島太郎と同じか……)

 そう思った途端、ふとなにか頭に引っかかる。

(別の世界……外の世界……時間の外……を走る……あれ? つまり……)

――コンコンッ

 ドアのノック音がする。
 オレが返事をするとドアが開き、ミューのネグリジェ姿がそこにあった。
 まあ、オレは今夜、ミューの家に泊めてもらっているので、ミューが来ても不思議はないのだが、「おやすみ」を言ってからしばらく経っている。

「つーか、夜這いか?」

「うん。夜這いだ!」

 そういうと、中に入って扉を閉め、そそくさとベッドにやってくる。
 首の下が大きくVカットされ、谷間が大きく覗く、純白で半分透けている。
 うっすら見える姿は、下着を着けているとは思えない。
 なんか見えてはいけない物が、透けて見えている気がする。
 だが、それをオレは、気のせいということにした。
 うん。気のせいだ。

「安心しろ。隣で寝るだけだ。襲ったりしないぞ」

「……お、おお」

 なんか立場が逆のような気もするが、オレは天井を向いたまま、彼女をなるべく見ないように掛け布団を持ちあげて拒まず入れてやった。
 すると、すかさずすり寄ってくる。
 もちろん、本当ならば大興奮するシチュエーションなのだが、オレの頭の中は別のことでいっぱいだった。
 それになんとなく、ミューと今はしてはいけない気がする。

「……どうした、アウト。胸も揉んでこないなんて」

「おひ。人を節操ない人間みたいに言うな。つーか、そんなことしたら止まらないだろうが」

「うん。それはそれで、ノリでありかなと思っていた。それとも欲情できないほど疲れたか?」

「……まあ、疲れたのは確かだ」

 今日はこの家に来てから、ミューにいろいろと鍛えられた。
 本当に薪割りから、竈に火を入れたり、釣りをしたり、魚を捌いたり、五右衛門風呂みたいな風呂の湯沸かしまでやらされた。
 昔なら、絶対に面倒で自分からやろうとも思わなかったことだったが、なんか覚えることが妙に楽しかった。
 それに、こっちの世界によく来るならば、きっと覚えておいて損はないことだと思えた。

(よく来るなら……か……)

 そうなのだ。
 いろいろ考えたが、結局のところオレはここに来たいと思っている。
 たぶん、来週も再来週も週末になるたびに、オレは来るのではないだろうか。
 それに、滞在期間を長くしすぎなければ、実はそんなに問題ではないのかも知れない。
 ミューの言うとおり、3、4泊、長くても7日間は過ぎない方がいいだろう。

「あ。そうだ。もしかして、ミューはオレが帰る方法を知っているのか?」

「ん? なんで?」

「だってよ、まるですぐに帰れるみたいな言い方してたじゃんか」

「ん? アウトはまだ知らないのか?」

「知らんぞ。まだ(・・)……ね」

 予言者ミューの言葉っぽいが、逆に言うと矛盾している言い方である。
 考えることが苦手で嫌いなオレだが、さすがにこれについてはいろいろと考えている。

「ん~。ミューが教えてもいいが、そうしたらなんか変な感じだ」

「変な感じ? どういうことだ?」

「それはつまり、ミューがアウトに教えると言うことは、アウトは誰に教わったんだろう?」

「……あ~ん? つーか、ミューだろう? なに言ってんだ、お前は」

「む~……。まあいいか。わからないと困るからな」

 そう言うと、ミューは少しオレから離れた。
 オレも顔をミューに向けて話を聞く。

「まず、こっちの世界に来たら、2日間ぐらいは滞在しなくてはならない」

「なんで?」

「そのぐらいこちらにいないと、アウトランナーに魔力がたまらない」

「ま、魔力?」

「うん。アウトのアウトランナーには、魔力を蓄える力がある」

「ガソリンと電気、さらに魔力のハイブリッドだったのか……」

「そして、魔力がたまった状態で、時速100キロ以上の速度で数秒走るか、エンジンが動いている状態で2分以上60キロ以上で連続走行すると、そのスピードのエネルギーも使用して、アウトの異世界転移(シフトチェンジ)能力に作用する」

異世界転移シフトチェンジ……ね。いろいろと詳しいな、ミューは」

「ん? ミューは予言者だから」

「そうか……。ともかく、ありがとう。これで帰れるな」

「……もう帰るのか、アウト」

 ミューの声のトーンが、がくっと下がった。
 ネコ耳までが、しょぼんとたれてしまっている。

「ああ。明日には帰ろうかと思っている。つーか、あと何日も生殺しにオレは堪える自信がない!」

「ん? ん? ……どんとこい?」

「いかないから。……それにオレはまず、やっぱりキャラと会わないとダメだと思うんだ」

「……そうか」

「まあ、キャラは仕事でしばらく帰らないみたいだからな。また会いに来るさ」

「……うん。わかった」

 そう言うと、またミューは俺の所によってくる。
 本当は、ミューにもっと聞きたいことがあった。
 問いただしたいことがあった。
 さすがに、頭の悪いオレでも、なんとなく気がついていることがある。
 だが、なんとなく、ここはこのままにしておいた方がいいと思えた。

「……おやすみ、ミュー」

「うん。おやすみ、アウト」

 オレは心地よい肌触りを腕に感じながら、まどろみの中に沈んでいった。
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