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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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さらに子作りもするのは……

 夕方から食事の用意を始めて、食べ終わった頃にはもう日も暮れ始めていた。
 今回の食事は、異世界自炊で一番ちゃんとしていたかもしれない。
 焼き魚は塩焼きと、醤油でいただいた。
 白菜の和え物も初めてにしては、驚くほどうまかった。
 まあ、誰が作ってもうまくできるだろうけど……というツッコミはなしだ。
 とにかく、これだけでご飯が進む進む。
 ご飯はなぜか、ミューがおにぎりにこだわったので面倒ではあった。
 だが、炙った海苔の香りに包まれたおにぎりは、ぬちまーすを使っただけの塩むすびだというのに驚くほどうまかった。
 もちろん、ミューも「おいひ、おいひ」と言いながら、笑みを絶やさず食べていた。
 しかし、どの料理を見ても、ミューは驚くことはなかった。
 むしろどれも知っている風で、なれた手つきで箸を扱って食べていたのだ。
 そして食後には、「玄米茶ないの? ならコーヒーで」とか注文をつける始末である。
 どう考えても、日本文化になれているようにしか思えない。
 「もういいか」と一度、追求をやめたオレだったが、その態度を見ていると、やっぱり気になりはじめてしまう。
 もちろん、食事中にもいろいろ質問を投げてはみた。
 なぜオレと親しくするのかとか、オレのことをなぜよく知っているのか、キャラとの関係……だが、どれもはぐらかすように話してくれない。

「本当はミューも言いたい。けど、言うなと言われている」

「誰から?」

「うん……。いつもいつも助けてくれる、大事な人」

 そう言って、彼女は少し尖った歯を見せながら、嬉しそうにオレに微笑む。
 そんな顔を見せられては、問いつめることもできなくなる。
 結局、またオレはあきらめた。

「……まあ、いいか。ビール呑むか?」

「呑む! いいのか!?」

「え? べつにいいけど……」

「やった!!」

 思いの外、反応がいいミューは、目をキラキラと輝かせる。
 どうやら、ビールの味までわかっているらしい。
 オレは池で冷やしておいたビールを引き上げて、二つの紙コップに注いだ。
 そしてこちらが説明しなくても、「乾杯」を促すので紙コップを合わせてビールを飲んだ。
 最初は楽しく、二人で呑んでいた。
 だが、オレはすぐに後悔し始めた。
 まさに、開けてはいけない扉を開いてしまった感じだった。

「おひ! アウト!」

「お、おお。なんだ?」

「おまえぇ~、ミューのこと忘れてるだろう!」

「忘れてるもなにも……」

「うっひゃーい!」

 完全に酔っていた。
 頬の上だけを真っ赤にした彼女は、椅子の上でその素敵ボディを惜しげもなくすり寄せてくる。
 しかも、今は革の上着などを脱いで、真っ白なシミーズのような下着姿だ。
 理性を破壊する力は、半端ない。
 無論、嬉しいし、このまま押し倒してしまいたい衝動に駆られるのだが、それ以上に酔っ払いの絡み酒に押し倒されそうになっている。

「アウト、おまえぇぇぇ、アウトにゃぁ!」

 そう言いながら、彼女はゲラゲラと笑いながら、オレの頬をツンツンと突っついた。
 かと思うと、今度は顔を近づけて、ジーッと見つめてくる。

「ん? ん? ん~~~? 待つぴょん……ちょっと待つぴょん!」

「な、なんだよ……」

「おまえぇ~、アウトじゃないにゃ!」

「なに言ってんだ、おまえは。つーか、ビールを五〇〇ミリも飲まないうちに酔うなよ……」

「うるひゃいぴょん! アウトのくせに生意気にゃ!」

「お前はジャイアンか……」

「うんにゃ。やっぱりぃ、おまーもアウトにゃ。アウトはぜーんぶ、ミューのものぴょん。だから、おまえぇもぉ、ミューのにゃ!」

 突然、彼女の舌がオレの首筋から耳元まで這っていく。
 ぬらぬらと湿った柔らかい物は、オレにぞわぞわとした感触をゆっくりと伝えてくる。
 おかげでオレは、「あひゃっひゃひゃ!」と奇妙な声をあげていた。

「うふ。うふふふ……。おいひぃ」

 舌なめずり。
 ちょっと……いや、かなり怖い。
 また、目の色が肉食系女子……というより、肉食獣のようになっている。
 貞操の危機を感じる。貞操なんてないけど……。

「……よひ! 決めたぞぉ~。来るのだ、アウト!」

 ひょいと、ミューは立ちあがった。
 途端、彼女がフラッとしていたので、オレも慌てて立ちあがって支えた。
 だが、そのオレの腕を思いもしないような強い力で彼女が握りしめた。
 むしろ、オレの方がフラッとさせられる。
 かと思うと、そのままオレをアウトランナーの開けっ放しになっていた荷室(ラゲッジルーム)に引っぱっていく。
 そこには車中泊するためのマットもすでに敷いてある。
 まさに、あとは寝るだけ状態だ。

「あ、あの――うおっ!?」

 嫌な予感を感じるのと同時に、なんとオレはミューに軽々とお姫様だっこされてしまった。

(オレの体重、六五キロぐらいあるんだぞ!?)

 そして、そのままアウトランナーの中にできた、ベッドルームに投げこまれてしまう。
 いくらアルミシートとマットがあっても、それほど厚いわけではない。
 ケツから落ちたものの、かなり痛い。

「つつっ……。おい! いきなりな――うぎゃぁ!」

 気がつけば、マウントとられています。
 完全に馬乗りです。
 しかも、天井が低い中、シミーズを器用に脱ぎました。
 そして、そのシミーズがアウト君の顔の横に。
 香ります! 車内が発情期の雌猫の香りに満たされます!
 まさに車内は、愛の巣と化そうとしています!
 ピンチ! アウト君ピンチです!

(つーか、パニクって第三者視点だ! 俺の自我、もう逃避したぞ!)

「こりゃぁ、アウトォ~~~。ミューは寂しいんだぞ!」

「は、はい?」

「いくらぁ、アウトがぁ、『外』を走るからってぇ……」

「そ、そと? なんのこと――」

「うりゅちゃい! かちゃちばかりのぉ、けっきょんはもういいのにゃ!」

「お、おまえ、もう舌がまわらなく……」

「うん! 子作りするぞ!」

「――って、おい! なに、そこだけハッキリ言ってんの!?」

「ん? もうにゃんかいもちてるじゃにゃいかぁ~。でみょ、にゃかはみゃだにゃしぃ~」

「はい? つーか、ここ外だぞ! 誰かに見られたりしたら……」

「ん? だいじょーびゅ! まわりはぁ、木、木、木……木ばかりぃぴょん! うふふふ……」

 確かに周りは、すでに闇に埋もれている。
 そして、LEDランタンの光が届くところに見えるのは、確かに木の影だけだ。
 人気など、どこにもない。
 それどころか、動物の影もない。

「こんな夜の森にぃ……だぁーれもこなーい! あびゅな~い、あびゅな~いからねぇ~」

「え? 危ないの!?」

「ん? ここはぁ、へーきぴょーん! くすくすにゃ」

「つーか、おまえ、さっきから『にゃ』と『ぴょん』混ざりすぎだろう!」

「……うふふふ……ここならぁ、じゃまはいらないにゃぁ」

「話聞け……ちょっ、待て……誰か助け……」

「ん? 助けなんてぇ、だーれもこないぴょ~ん! そしてぇ、ここからはぁ、にげられないにゃぁ。池からはなれるとぉ、魔物ぉ……あびゅない、あびゅない」

「……うわあああぁぁ! もしかして、最初から罠にはまっていたのかぁ!?」

「さあ~……アウトォ……」

「ま、待って……お、おちつ――」

「かくごだにゃ~~~!」

「い……いやあああぁぁぁぁ~~~~~!」

 オレの心象世界で、一輪の紅い花が手折られた……。
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