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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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異世界で和食を作り……

「ただいま。四尾ほど捕まえてきた」

「はやっ! ってか、すげっ!」

 ちょっと遅れた昼食……というより、太陽の角度から感覚的には三時ぐらいだろうか。
 オレが電子ジャーでご飯を炊き始め、おかずを用意している間だった。
 それだけの間に、彼女はオレが渡した買い物用のビニール袋に捕まえた魚を入れて持って帰ってきた。
 キャラもすごかったが、このネコウサ娘もかなりワイルドだ。

「夏に獲れるカキマスだ。うまい」

 そう言いながら、彼女は袋の中を見せてくれた。
 ナイフで刺して捕まえたのか、ちょっと血だらけだが、一見すると、キラキラとした鱗をしており、ニジマスのように見える。
 正直、魚の見分けなどつかないので、かなり適当判定だが、少なくとも食べるのに抵抗がある奇天烈な形の魚とかではない。
 むしろ、普通にニジマスだ。

「また脳内変換なのか、ネーミングが一緒なのか……。でも、カキマスって、カキ……マス……カキ……ああ。もしかして、夏期のマスってことか?」

「マスカキじゃないぞ」

「わかっとるわ! つーか、女の子がそんなこと言っちゃダメ!」

「アウト、純情だな」

「意味、知ってるの!?」

「じゃあ、捌くか」

「無視かよ!!」

「アウト、包丁」

「え? おお。ちょっと待って……って、なんで包丁持っているって知ってんだよ!」

「まな板も」

「あ、ああ。はいはい……って、だからなんで――」

「ミューに知らないことはないのだ」

「……そっ、そっすか……」

 なんか言い返す言葉が見つからなかった。

(つーか、やっぱり変だろう……)

 オレが包丁やまな板を持っていることなど、キャラさえ知らないはずだ。
 なにしろ、あの時には持っていなかった。
 それなのに、どうしてミューはそれを知っているのだろうか。

「じゃあ、捌くから、アウトは炭の用意よろしく」

「え? 炭なんて持ってきてないけど?」

「ん……そうか」

(あれ? 持っている物を知っていたわけではないのか?)

「じゃあ、薪を集めて」

 そう言われてオレは、やっと会話ペースをつかめそうなチャンスを見つけた。
 オレは口元で指を振りながら、「ちっちっちっ」と口をならす。
 この未開のワイルドネコウサ娘に、キャラと同じような驚愕を味あわせてやろうではないか。
 科学の粋を集めた、スマートキャンプという物を教えてやらなくてはなるまい。

「ミューくん。薪なんて必要ないのさ。何しろオレには、アウトランナーから作られる電――」

「なに言っている、アウト。魚を焼くならIHより直火に決まっている」

「……え?」

「時間がない時はまだしも、時間があるなら手間をかけると決めた……いや、決まっている」

「い、いや、それより、なんでIHまで知ってんの!?」

「……ふふふ。実は、ミューには予知能力があるのだ! だから、アウトの言うことは、あらかじめわかってしまうのだぁ!」

「……あ。魚を捌くとこ見せてもらっていいか?」

「にゃぴょん!? ミューの重大告白を無視した!? ちゃんと人の話を聞かないといけないぞ、アウト」

「おまえが言うな! つーか、そんな与太話、まともに聞いてられっか!」

「まあ、信じられないのも無理はない。よし、許してやろう」

「ありがとうよ、こんちくしょう!」

「ところで、もしかしてアウトは魚の捌き方を知りたかったりするのか?」

「おお。これからも、ちょくちょく、こっちに来るかもしれんから、覚えておくと便利そうだろう。ちょっと勉強しときたくてよ」

「うんうん。そうかそうか。教えて進ぜよう」

「なんで、そんなに嬉しそうで偉そうなのか知らんが、よろしく頼む」

 会話のテンポは、完全にキャラだった。
 むしろ、キャラよりもノリがよくなっている気がする。
 キャラとはまだ数日だけのつきあいということもあり、親しくなり始めた友達という感じだった。
 しかし、ミューとはすでに幼馴染か、はたまた家族かみたいな、親しみのある空気ができている。
 少なくとも、ミューの俺に対する態度に壁を全く感じない。
 本当にキャラではないのだろうか。
 それに、どうしてこんなにいろいろと知っているのだろうか。
 本当に予知能力?
 まさか、そんな馬鹿な……。

(……まあ、わからんことを考えても仕方ないな)

 悩んでもわからないので放棄した。
 オレの逃げ癖は、こんな異常事態でもしっかり発揮された。


   ◆


 ミューは丁寧に魚の捌き方を教えてくれた。
 初めてやったが、正直なところ、かなり気持ち悪い。
 魚料理してくれる世の女性たちは、もしかしてみんなこんなことをやってくれているのだろうか。
 いや、魚屋がやってくれるというのも聞いたことがある。
 そういえば昔、つきあっていた彼女が、新鮮な魚が売っていたからと、焼き魚を出してくれたことがあった。
 その時に内心で「せっかくの手料理なのに、焼き魚なんて焼くだけじゃんか」と思っていたことを心から詫びたくなった。
 今考えると、本当にオレって嫌な奴だったと思う。
 昔のオレが目の前にいたら、たぶんオレはその後頭部に蹴りを入れるだろう。
 いや。今もヘタレでダメな奴ってところは一緒だが。
 それでも過去を後悔するぐらいには、成長していると思いたい。
 ついこの前まで、悪いのは全部オレ以外だと思っていたし。
 それに比べたら、大きな進歩……だよな?

 それから薪を集めて火をつけた。
 近くに別のキャンパーがいたのか、炭が落ちていたらしく、ミューが拾ってきた。
 ミューは丁寧に炭に火をつけるコツや、いろいろなことを教えてくれた。
 食事は、焼き魚とおにぎり、それに白菜と塩昆布の和え物だ。
 【道の駅はが】で買ってきた白菜を食べやすい大きさに切る。
 それを畳めて便利なシリコンボールに入れて、そこに塩辛さはあまりないが旨みの強い沖縄の「ぬちまーす」という塩を少しいれて、よくもんだ。
 たまたまお土産にもらったものだが、塩昆布の塩気が強いので、ちょうど良かった。
 しばらく置いておき、出てきた水分をよく切る。
 そのあと、塩昆布とごま油、白煎りごまを適当にいれて混ぜる。
 ミューに辛いものは平気かと聞いたら、「少しなら」というので、アクセントに輪切りにした鷹の爪も投入。
 オレでもできる白菜の和え物の出来上がりである。
 白菜を買った後、実はインターネットで調べておいたのが、さっそく役に立った。
 さらに最後に、電気ケトルでお湯を沸かして、インスタント味噌汁を用意。
 完璧なる和食メニューの完成である。
 たぶん、オレの車中泊キャンプの食事の中で、最高の出来栄えだ。

「初めて作った白菜の和え物もうまそうだろう?」

「うんうん。アウトの初めて、うまそうだ」

「ちょっ! その言い方、やめて……」

「おにぎり、焼き魚、白菜の和え物、味噌汁……うんうん。すばらしい。あ、しょうゆはある?」

「え? あ、あるよ」

「うん、よし。あとは大根おろしとか、ポン酢とかあると楽しめたかもしれない」

「え? あ、ああ、そうだな……って、おまえ、ファンタジー世界の住人じゃねーだろう! ぜってー日本人だ!」

「そんなことはない。れっきとした異世界の、可愛いネコ耳に、プリティなウサギ尻尾がある、かなりの美女だ」

「自分で盛りすぎで、ますます怪しいわ! その耳、実はコスプレだろう!」

「あ、こら……あっ……耳はダメ……だ……」

「つーか、その尻尾もアクセサリーかなんかだろう!」

「んっ……そこは……おし……」

「ええい、正体を現せ、コスプレ娘!」

「あ、んっ…………だ、だから…………チガウ!」

 ものすごい勢いで、拳が脳天に落ちてきた。
 かなりの衝撃に、オレは頭を抱えてしゃがみこむ。

「はぁ~……。まったく。そういうのは食事の後。せっかくの食事が冷める」

 なんかすごく怒られた。
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