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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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肉食系女子だった。

「えーっと、つまり君は……」

「ミューだ。キャラの姉という設定」

「設定ってなんだよ!」

「あ。あの池の近くに止めて」

「人の話を聞けよ!」

「よし。今日はここで車中泊しよう」

「車中泊しようって……。つーか、なんで『車中泊』って言葉を知っているんだよ!」

「よし。アウト、早くテーブルだして」

「会話しろよ、こんちくしょう!」

 オレはミューと名のった、キャラにそっくりながらも、年齢がオレと同じぐらいという、ネコ耳ウサギ尻尾の女性に案内されて、森の中にある池の畔に車を止めた。
 森の中は魔物が夜になるとわいて危険だというイメージがあったが、そこはなぜか魔物が寄ってこない、いわゆる安全地帯だという。
 なんでも池が清らかな魔力を放っていて、魔物が寄ってこないとか何とか。
 よくかわらないが、彼女に言われるまま、そこにテーブルをだした。
 どうもオレは、この手の押しに弱い。

(このマイペースな会話具合、まさにキャラなんだが……姉ならありえなくもないよな……)

 まずはゆっくりと話して、彼女の素性を確認しなくてはならない。
 そう思って椅子に座ったら、まるで当然のごとく横に座って、オレの腕にしがみつきながらしなだれかかってきた。
 香水でもつけているのか、オレの鼻腔は柔らかな柑橘系の香りに包まれた。
 同時に、オレの右腕がふくよかな胸部に包まれる。
 その感触でオレは、ミューがキャラよりも胸が大きいことに気がついた。

「おい……胸が当たっているんだが……」

「うん? アウト、これ好きだろう?」

「…………」

 そう言われると、何も言い返せない。
 もちろん、大好きである。
 こんな柔らかい素敵感触を嫌いな奴なんているはずがない。

(と、ともかく、キャラじゃなさそうだな。こんなデレな奴じゃなかったし)

 それになにより、年齢が違いすぎる。
 さすがに異世界だからと言って、数週間でこんなに育つことはない……と思いたい。
 しかし、オレのことをよく知っているようだから、本当にキャラの姉なのかも知れない。
 でも、だとしたらオレのような平凡な男にキスしたり、迫ってくる理由がわからない。

(もしかして、ビッチなのか? または発情期とかだったり?)

 本気でわからないことだらけである。
 わかっていることは、オレの名前を知っていたのだから、キャラのことを知っているはずだということだ。
 伸びた鼻の下を戻して、オレはミューに向き合った。

「つーか、姉だって言うなら教えてくれ。キャラは無事なのか?」

 オレが崖からダイブした後、あいつは無事に戻れたのか。
 わざわざオレのために戻ってくれたのに、また危険な目に遭わせてしまった。
 オレは、それがずっと気がかりだった。

「ん? ……うん。キャラはもちろん無事だぞ」

「そ、そうかぁ~。ああ、よかった。あのトカゲもやっぱり崖から落ちていたんだなぁ~。安心したぜ」

「トカゲ? 崖?」

 ミューが首を捻る。

「……アウト。こっちに来るの、何度目?」

「え? 三度目だけど?」

「じゃあ、キャラにあったのは一度?」

「ああ。そうだよ」

「ほほう! どうりで」

「どうりで?」

「……キャラのこと、そんなに心配だったのか?」

「ああ、そりゃもう。キャラに会うために、もう一度、ここに来たようなもんだしな」

 ミューが目を見開いたかと思うと、突然嬉しそうにニヤニヤとし始めた。
 もちろん、オレにはまったく意味がわからない。

「なあ。オレ、キャラに会いたいんだよ」

「……なぜ?」

「なんていうかさ、もう少しちゃんと話したり……。つーか、礼が言いたいんだ」

「礼?」

「あいつのおかげで、初めての異世界でも助かったし。それになにより、なんか自分が変われた気がするんだ」

「…………」

「まあ、もちろんまだまだだけど。最近、仕事の調子が良くて。……あいつに期待されているから、がんばらなきゃなって思えてさ」

「……もしかして、アウトはキャラが好きになったのか?」

「すっ!? ……いやいや、好きとか嫌いとかじゃなく……。いや、もちろん、嫌いじゃないぞ。でも、オレはロリコンでもないし! つーか、そういう意味の好きとは違ってだな……」

 なんだか、キャラにそっくりなミューに見つめられたせいで、本人に問い詰められている気分になってしまう。
 ものすごく心臓が早鐘を打ち始める。
 それに対して、ミューは妙に高揚した表情を見せている。
 じっと、見つめる瞳がオレの顔を離さない。
 とてもじゃないが、オレの方は視線を合わせることができない。

「……アウト」

「な、なんだよ……」

「若くてピチピチで……新鮮だ」

「し、新鮮!?」

「うん。……美味そう」

「う、美味そう!?」

「うん。……我慢できない」

「が、我慢!?」

「うん。……今、食べてしまいたい」

「ちょっ!? 目が肉食系女子みたいになっているんですけど!」

「今、食べれば、もしかしたら独り占めできるかもしれない」

「いやいやいやいや。オレ、けっこう量があるから、一人で食べたら腹壊すよ!」

 つい慌てて、よくわからないことをオレまで言ってしまう。

「うん。大丈夫。アウトの量は、よく把握している」

 なんかわからないが、ミューはグイグイとくる。
 しかも、その表情が獲物を見つけた獣……猫のようだ。
 ネコ耳をピクピクと動かし、今にも飛びかかってきそうである。
 オレは思わず怖くなり、彼女から腕を抜いて立ちあがった。

「お、落ちつこう! な! とりあえず、腹が減ったなら飯にしようではないか!」

「……うん。そうだな。わかった。慌てるのは良くない」

 ミューは落ちついたのか、クールダウンした顔を見せて立ちあがった。

「アウト、おにぎりよろしく。ミューは、魚を捕まえてくる。焼いて食べよう」

「お、おお……」

 すっかりミューのペースに乗せられているオレだった。
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