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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

三泊目

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キャラではなく……

 アウトランナーPHEVは、時速80キロ以上でエンジンが回り出す。
 もしくは、急加速したときにも、エンジンがモーターをアシストするように回り出す。
 今がまさにそれだ。
 メーターがグインッとエコエリアから飛びだし、力強く大地を蹴って急加速しだしていた。
 草むらをものともせず、速度はグイグイとあがっていく。
 時速100キロ以上。
 逃げている人影の方に駆けている。
 向こうもこちらに気がついたのか、こちらの方に方向を少し変えて逃げてくる。
 茶色いフード付きの外套をかぶっていて、容姿どころか性別もわからないが、かなり足が速いことだけはわかった。
 それでももちろん、アウトランナーの方が早い。
 オレはその人を少し追い抜いて、車を急ブレーキで止めた。
 急いで、助手席のドアを開けようとする。
 が、逃げてきた人物は、なんと自分でドアを開けてすばやく乗りこんでくる。

「――だして!」

 その女性の声に、オレは少しパニックになりながらも、とにかくアクセルを踏んづけた。
 車を走らせる。
 マッドブラックの肌をした巨大なカバが、すごい勢いで追いついてくる。
 慌てて時速六〇キロぐらいまで引っぱるが、それでもまだ追いつかれそうだ。
 サイのように中央にある角がこちらに向けられている。
 あんな物で突かれたら、ひとたまりもない。

「大丈夫。そのまま真っ直ぐ!」

 オレに指示を飛ばした彼女は、自分のウェストバッグに手を突っ込む。
 取り出したのは、小さな液体の入った瓶。
 さらに、脚の横につけていた棒状の道具を手にする。
 それを一瞬で、小型のボウガンにする。
 もう片方の脚から取り出したのは矢。
 その鏃に瓶を取りつけてボウガンにセットする。

「速度を少し落として、アウト!」

「了解!」

 有無を言わさぬ口調に、パニックも忘れて返事をする。
 オレは少しアクセルを緩める。
 すると、彼女はパワーウィンドウを開けて、そこからひょいと背後を向きながら箱乗りした。
 そしてボウガンを構え、すばやく放つ。
 ルームミラーで見えた、一瞬。
 それは、カバの額に矢があたり、何かが弾けるシーン。
 とたん、カバのような生き物が、大きな呻き声を上げる。
 アウトランナーと同じぐらいの全長が、前のめりに前転する。
 さらに呻き声。
 そして起き上がると、そのまま退散して行く。

「……もう大丈夫」

 箱乗り状態から席に戻った彼女の言葉に、オレはアクセルからブレーキに踏みかえた。
 回生ブレーキがかかりながら、アウトランナーはゆっくりと止まる。
 同時に、頭のパニックも少しとまる。
 オレは知っている。
 この声の持主を。

「さすがアウト、いいところに来るから助かる」

「……お前、キャ――」

「――アウト!」

 唐突に、彼女が椅子の上に膝立ちするようにし、オレに向かって抱きついてくる。
 かと思ったら、いきなり顔をつかまれ、オレの唇が奪われてしまう。
 しかも、ディープな感じで舌まで入ってくる。

「――!?」

 再び、パニック。
 ぬめっとした舌が、オレの舌に絡みついた後、上あごをなめるようにして離れる。

「……うん。別れたのが三日前。こんなに早く戻ってくるとは思わなかった。助かった、アウト」

 彼女はゆっくりと顔を離し、そう言いながら深くかぶっていたフードをとった。
 そこに現れたのは、褐色の肌と琥珀色の短めの髪とネコ耳。
 それは、知っている顔……じゃない?

(あれ? 似ているけど……)

 目の前にいたのは、少し頬を赤く染めたキャラそっくりの顔。
 ピンクの唇や、そこに見える八重歯、長い睫などはまるっきりキャラである。
 あまり表情がでない様子もそっくりだ。
 しかし、丸みを帯びた輪郭は少しだけ鋭くなり、子供っぽさが抜けていた。
 どう見ても二十歳代の女性に見える。
 それに、オレと彼女はディープなキスするような仲ではなかった。
 なのに、彼女はオレを「アウト」と呼ぶし、車のドアを開けてパワーウィンドウまで操作した。
 どう考えても、彼女はオレと車を知っている。
 でも、違う。
 大混乱だ。

(ネコ耳もあるし……あ、尻尾は……)

 オレは、ほとんど無意識に彼女のお尻に手を伸ばした。
 すると、そこにはモフモフとしたウサギの尻尾があった。

「うんっ……」

 彼女から色っぽい声がもれて、初めて気がつく。
 パニクっていて、それが痴漢行為だという意識がなかった。

「うわああっ! すいません!」

「……うむ。アウトはすぐ発情する。でも、助けてもらって嬉しいし。また……するか?」

「また? ……ちょっ、待って、服に手をかけないでいいから!」

 キャラに似た顔の女性が、見たこともないような潤んだ瞳でオレを見ている。
 混乱しすぎて、頭が破裂しそうだ。

「……つーか、キャラだよ……な? でも、どう見ても年取っていて……」

「ん? キャラって……年? アウト、なにを……」

 オレの問いに怪訝な顔をして、彼女はじっと見つめてくる。
 そしてしばらくすると、パンッと手を叩いて見せた。

「あっ! そうか、そうか。なるほど!」

「……へっ?」

 彼女は、ウンウンと一人で何度も首を縦に振った。
 オレはまったくよく変わらないが、彼女は何かわかったらしい。

「な、なんなんだよ。お前、いったい……」

「わたしは、【ミュー】。よろしく、アウト」

「え? ミュー? なんでオレの名前を……」

「ん? んん……それは……そうだ! ミューはキャラの姉なのだ」

「嘘つけ! 今、『そうだ』と思いっきり思いついて言ってただろう!」

 オレの大混乱は、まだ続く。
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