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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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逃げずに楽しむため、オレはまたP泊します。

※前回更新日時:2015/12/30 13:00
 気がついてから見えたのは、朝焼けに少しだけ色づいていた空。
 舗装された広い道路と、コンクリートのちょっとしゃれた建物、それに木々……。
 もちろん、多くの自動車が並び、中にはキャンピングカーも混ざっている。
 ここは、元の世界。
 異界遷移(シフトダウン)に使った、千葉県にある【道の駅しょうなん】だった。
 日時を確認してみるが、やはりP泊した翌早朝だった。

(……頭、いてぇ……)

 オレは頭をかるく抑えながら、なんとか外にでる。
 まだ、キーンと冷えるような寒さが身体を包む。

(もう一回、温泉に入ってから帰ろう……)

 温泉施設オープンには、まだ時間がある。
 オレはもう一度、車に戻って二度寝した。
 耳に残る、あの悲しそうな声を消すために……。


   ◆


――あれから5日後の金曜日。

「おまえ、いったいどうしたんだよ?」

 昼休みにたまたま、上司の山崎と飯屋がかぶった。
 カウンター席に座って蕎麦をすすっていたら、隣に座ったとたんに放った言葉がそれだった。
 オレは質問の意味がわからず、顔を顰めたまま蕎麦をすすり続ける。

「最近、お前まじめに仕事してるだろう。まあ、積極的に何かやるわけじゃないけどさ」

「……つーか、まじめに仕事するのは、別に悪いことじゃねーだろう」

 上司と言っても、山崎とは同期。
 最初の一年ぐらいは、他の数人と一緒によく合コンや遊びにいったりもした仲だった。
 だから、会社の外では未だにタメ口である。

「そりゃな。ただ、突然だったから、どーしたのかとか思うだろう。前はさ、仕事があっても、一日ネット見たりとか、ぼーっとしていたりとか、してたじゃんか。まるっきり給料泥棒の典型だったのに」

「……まあな」

 酷い言われようだが、まったく言い返せない。
 確かに仕事なんてしないで放置していたこともあった。
 我慢しかねた別の人にやってもらったことさえあった。
 仕事の締め切りとか聞いても、「だいたいその辺」みたいな感覚だった。

「そんなお前が、なんか妙に仕事を片づけるのが早くなって納期遅れないし、ミスも少ないし、仕事もよく覚えるようになったし……」

「……いいことじゃねーかよ、やっぱ」

「いや。気持ち悪いだろうが。今週もスタートダッシュが凄まじいし。風邪で休んでいた、神寺さんのたまっていた分の仕事まで片づけたんだろう? まあ、昨日、今日となんかペースダウンして落ちついた気もするがな」

 実は、オレもそれは感じていた。
 なぜか異世界から戻ってくると、妙に集中力が上がるのだ。
 人の話を聞いても上の空だったオレが、話を聞いているだけで要点がなんとなくわかるようになった。
 記憶力まで冴え渡る。
 仕事をしても、集中が非常に長く続くのだ。
 まさに、「これ」と思った物しか見えなくなる。
 おかげで仕事中は、異世界のことを考えることもなかった。
 だが、昨日の木曜日あたりから、また異世界のことが気になり始めた。
 同時に、妙にいろいろなアイデアなどを思いつく。
 仕事のことに関してもだが、車中泊グッズとかのアイデアなども、次から次へとわいてでる。
 おかげで、昨日も帰りに買い物をしたが、今日もいろいろと買いこみたい物ができてしまった。

「しかも、前は何を言われようが、マイペースな感じのお前が、妙に周りに会わせている気もするし……」

「……それはまあ。なんつーか、オレよりマイペースな奴に会って、いろいろと考えたことは確かだ」

 そうなのだ。
 キャラもアズも、タイプは違うのだが、非常にマイペースという共通点があった。
 こっちの話を聞かないし、いつの間にか向こうのペースに乗せられてしまう。
 コントロールできないノリみたいなのが、2人にはあった。
 オレもマイペースだが、あの2人のとは違う。
 オレのマイペースは、周りを無視するマイペースだ。
 それに対して、2人のマイペースは、周りを巻きこんで乗せるマイペースだ。
 言い換えれば、静と動。
 オレのマイペースは何も生まないし変わらないが、あいつらのマイペースは周りを良くも悪くも変化させる。
 この前、温泉に入りながら、そんなことに気がついた。
 そして、そんなことをまじめに考えるようになった、自分に驚いていた。

「……なあ、やっぱり女か?」

「げほっ……」

 オレは口に入れていた蕎麦を吹きだしそうになった。
 ちょうど2人のことを考えていた最中だったので動揺してしまう。

「やっぱり女か! 男がここまで変わる理由は、普通は女しかねーよな。最初は、この前の失敗を後悔してかと思ったが、お前があのぐらいで変わるとは思えなくてよ」

「……酷い言われようだな、こんちくしょう」

「結婚でも考えているのか?」

「ゲホッ、ゲホッ!」

「うわっ! きたねー! 動揺しすぎだ、大前!」

 蕎麦を吹きだしてしまった口をおしぼりで拭いた。
 動揺した単語は、もちろん「結婚」だ。
 オレが逃げてきて、そしてたぶん相手を傷つけてしまったであろう原因。
 本当にあの時、オレは逃げる必要があったのだろうか。
 逃げずに、ちゃんと話し合うべきだったのではないだろうか。
 頭の中でアズの「待って」という言葉が結局は消えず、オレはそのことをずっと後悔しながら考えていた。

(キャラ……オレ、成長できてねーよな……)

 やっぱりオレは、もう一度、キャラに礼を言いたいし、アズに謝りたい。
 もう異世界に行くのはやめようかと思ったけど、オレは行くべきなのだ。
 最初は逃げるために異世界に行った。
 だが、今度は逃げないために異世界に行く。
 そして、興味本位ではなく、必要だからオレは異世界に行くのだ。

「なあ。来週末の連休に同僚達とキャンプ行くんだけど、お前も行くか?」

 久々の山崎からのお誘いだった。
 ここしばらく、オレは職場の面子からは孤立していたから、かなり珍しいことだ。
 山崎もリーダーとして、孤立しているオレのことを気づかっているのかもしれない。

(まあ、前回の仕事の借りもあるからなぁ……)

 オレは最後の蕎麦を口に放りこんでから、水を一気に飲み干した。
 そして席を立つ。

「来週末の連休な。……考えとくよ」

「考えとくって……どうせ週末とか暇じゃないのか? なにやってるんだよ」

 少し揶揄気味の山崎。
 だから、オレも少しからかうことにした。

「週末か? アウトランナーでP泊して、ちょっと異世界にな」

「はあぁ? 異世界?」

「そう。異世界車中泊旅行だよ……お先に!」

 怪訝な顔の山崎を置き去りにして、オレは店を出た。

(よし! 午後の仕事を片づけたら、出かける準備だ!)

 オレの頭は、今夜の行き先選定でいっぱいだった。
 楽しい週末が、また始まるのだ……。
 ご読了いただきありがとうございます。
 まことに感謝いたします。

 二泊目ですが、一泊目とは逆です。
 一泊目は、逃げるために異世界に行きました。
 それに対して、二泊目は異世界から逃げてきました。
 どこに行こうが嫌なことはあるもので、異世界に逃げたからと行って解決できるわけではない。
 逃げても解決できない。
 解決したいなら、自分からチャレンジしていくしかない……というのが、ベースにあるテーマとなっています。

 次回、三泊目は頑張れば希望があるのではないかという予見です。
 四泊目は、嫌な現状でも改善できることがあるかもしれないという希望です。

 もちろん、頑張ったからと言って必ず希望があるとは言いませんが、頑張らないと希望は生まれないものです。
 そんな行き詰まりの先にある希望を探していただけると幸いです。
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