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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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元の世界へ逃げだしました。

 少し整理しよう。

 オレは彼女を助けるために、口うつしで水を飲ませた。
 それは彼女の種族にとっては、婚約の意味がある大事な儀式だった。
 しかも、10才以上なら有効らしい。
 都道府県の条例によっては、よくわからないけど、もしかしたら死刑になる行為かもしれない。
 でも、ここではセーフだ。

 しかも、彼女はなぜかオレを好いてくれている。
 はっきり「好き」とは言われていないけど、ほぼまちがいないと思う。
 なにしろ、キスを求められたし、婚約自体も喜んでいて前向きだ。
 仕事もできず、収入も低く、かつて「つまらない」「期待外れ」と言われて恋人に捨てられたことのあるオレみたいなのが、どうして好かれたのか疑問ではある。
 それにまだ子供だ。
 しばらくしたら、気の迷いだったと思いはじめるかも知れない。
 だが、まあ、それは百歩譲ってよしとしよう。

 問題はオレの方だ。
 確かにアズは、めちゃめちゃかわいく、美人で、大きくなったらスタイルも抜群になることは確認している。
 しかも、性格も優しく、素直ないい子。
 まだ若いから、今から教育すれば、まさにオレ好みの女に育つかも知れない。
 欠点は会話の難しさだが、そんなことは大した問題ではない。
 どうにでもなる話だ。
 料理・家事などはわからないが、姫という立場なら、それさえも問題ならない可能性大である。
 あと、夫婦生活が始まるのに何年も待たなければいけない事ぐらいだが、別にオレはかわいい彼女を愛でるのも大好きだ。
 つまり、ほぼパーフェクト。
 たぶん、これ以上の条件は、今後一切オレの生涯に現れないと断言できるほどの好条件である。

(だけど……)

 そう、「だけど」だ。
 まず、親が心配する。
 むかつくこともある親だが、まあなんというかさすがに、車ごとなくなっての完全に失踪状態はまずい気がする。
 車のローンも押しつけることになるし、せっかくクビにならないようにした仕事もクビになる。
 それに、ここで暮らしていけるのだろうか?
 姫と結婚すると、オレは王子?
 でも、魔法なんか使えないし。
 それに、お米とか食べられなさそうだしなぁ。
 ネットもないし、大好きなエロ動画も見られない。
 まだ、車中泊旅行も始めたばかりで、行ってみたい道の駅もまだたくさんある。

(だけど、そんなことより、一番の問題は……アズパパだ)

 まあ、今まであげた理由なんて、本気になればどうにでもなる話かも知れない。
 しかし、これだけはどうにもならない。
 よくマンガなんかで、「お嫁にください」と相手の親に挨拶へ行くと、むこうの親父さんにボコボコにされるなんていう話もある。
 それでも挫けずに何度もアタックをかけてると、こちらの本気に根気負けした親父さんから、「勝手にしろ! その代わりうちの娘を泣かしたら承知しないぞ!」とか言われて、結婚を認められたりする。
 ドラマだよなぁ、あるよなぁ、あるある……。

(……ねーよ!!)

 うん、ないね。
 そんなドラマチックな展開あるわけがないよね。

(つーか、あのアズパパに限ってはありえないな……)

 なにしろ、いきなり四肢を切りとる気が満々である。
 手足がなくなったら、もうアタックどころではない。
 本気で命がピンチだ。

(…………うん。逃げよう!)

 何度も言うが、オレは逃げるのが得意だ。
 キャラと出会ってから、嫌なことから逃げるのはやめようと思ったが、命がピンチで危険でデンジャラスだから逃げるのは、さすがに除外だろう。
 逃げないと決めたのは、試練を乗り越えて未来につなげるため。
 でも、乗り越えられない試練に、未来などない。
 うん、だから正しい。
 結婚という重責から逃げる言い訳ではないはずだ。

(……すまん、アズ……)

 オレはベッドから立ちあがって、窓を開けてみた。
 幸い人影はない。
 窓から外にでて、そのままアウトランナーのある場所へ。
 電子ロックを開けると、ピピッとなってサイドミラーが展開し始める。
 その様子が、「おかえり」と言っているようだ。

(ああ、ただいま。実はね、殺されるかもしれないんだよね……)

 そんなことをアウトランナーに脳内で語りながらも、オレはイグニッションスイッチを押す。
 電源が投入される。
 幸い、まだ電池が残っているので静かに発車。
 村の中の地面は、ある程度整備されていて外よりも遙かに走りやすい。
 おかげで静かに村の中央路にでることができた。
 その時、ふと背後にざわめきがあがった気がした。
 たぶん、気がつかれたと思い、オレはアクセルをべた踏みする。

「――アウト、待って!」

 一瞬、アズの声が聞こえた気がした。
 実際、背筋に快感が走った。
 待ちそうになった。
 思わずアクセルを緩めてしまう。
 しかし、もうキスしたことは、アズパパに伝わっているはずだ。
 待ったら、死刑確定である。
 アズの言葉に負けるわけに行かない。
 アズの言うことを聞かないにはどうしたらいい?

 ……そうだ!

 そもそも、オレの本当の名前は「アウト」じゃない。
 そうなんだ、違う。
 だから、言うことを聞かなくていいはずだ。
 そう思ったら、束縛が取れたようにアクセルを踏みこめた。
 コンピューターが働き、スリップを抑えながら急加速するアウトランナー。
 夜なので人通りもない。
 ライトは、ハイビーム。
 オレは、そのまま出口まで真っ直ぐ進む。
 あっという間にエンジンとモーターのハイブリッド走行で時速八〇キロを超え始める。
 九〇……一〇〇……となって、あの大きな岩が見えてきた。
 あの下にトンネルがあるはずと思い見つめる。

(……つーか、トンネルどこ!?)

 そこに、あの黒くて四角いトンネルは見た当たらない。
 ただの岩肌があるだけだ。

(――つーか、あれ魔法で開いたんだった!)

 スッカリ忘れていた。
 やばい。
 どうする?
 逃げ道を探すか?
 というよりも、まずは急ブレーキを――

 そこでオレの意識は、真っ白な光に包まれていった。
 車の慣性も失われ、すべてが停止した空間。
 覚えがある感覚。

(ああ、これは元世帰還(シフトアップ)だ……)

 そう思ったのを最後に、オレの意識は失われていった。
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