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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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彼女の両親と……

 もうすぐ夕暮れ。
 斜陽に照らされた、切り立った岩山の間に、大きな岩がドーンと存在していた。
 高さは、たぶん六階建てのビルぐらいあるだろう。
 横幅は、アウトランナーが4〜5台ぐらいならんで入れそうだ。
 周りと同じ黒ずんだ岩肌で、影になる部分には深緑の苔が貼りついている。
 長き光陰を重ねて鎮座している感じで、まさに動かざること山の如し。
 とてもではないが、人間が動かせるレベルの物ではない。
 オレはその岩の前に車を止めて降りると、半分呆けたようにそれを見上げていた。

 この向こうに、アズの村があるという。

 だが、この岩肌を登るのだろうかと、ぞっとした。
 そんな俺に対して、元の自分の服に戻ったアズは、スタスタと岩の前に向かって立った。
 そして、小さく何かを呟く。
 何を言ったのかわからないが、わずかに聞こえた声で、耳に息をかけられたようなくすぐったさを感じる。
 と思った矢先、アズの正面に変化が現れた。
 岩肌に黒いシミが広がったかと思うと、それはじわじわと広がっていき、最後は正方形の形となる。
 見れば、反対側の景色が見てとれる。
 トンネルができていた。

「おお! 魔法、ワンダホ!」

 感嘆。
 こういうのを見ると、異世界に来た感じがする。
 トンネルのサイズは、馬車とか通ることを考えているのだろうか。
 かなり大きく、アウトランナーでも余裕で通れる。
 俺たちはアウトランナーに乗りこみ、トンネルをくぐっていく。
 距離にして4、50メートル程度すすむと、真っ黒なトンネルが終わって眩い景色が一気に広がった。
 けっこう奥は広いらしい。
 まっすぐと道が伸び、たぶん少なくとも数百メートルぐらいは伸びている。
 その路の周りに、簡素な木造二階建ての家が並んでいた。

「ここがアズの――うおっ!?」

 オレは慌ててブレーキを踏んだ。
 突如、槍を持った男たちが現れて、車を囲んできたのだ。
 その数、20人以上。
 どう見ても、こちらを威嚇している。
 だが、その顔は怖がっているように見え、かなりへっぴり腰だった。
 大方、オレ様の内側からあふれる迫力にビビッていたんだろう……などということがあるわけなく、黒光りに赤いラインのアウトランナーにビビッていたのだろう。

 とにかく、口々に「なんだ、それは」「動いてるぞ」「何者だ!?」と激しく問いかけながら、槍の刃先を向けてくる。
 頼むから車に傷をつけてくれるなよ……などと思うが、それよりもよく考えたら、オレの命が危なくないか?
 しかし、オレのそんな心配をよそに、気がついたらアズが平然と車から降りていた。

「なっ、なんだ貴様は!?」

 誰何する槍男たちに、彼女は目立たないよう頭に巻いていたタオルを外して見せる。
 広がる美しい青い髪。
 すると、その周囲の様子が一変する。

「――ひ、姫!?」

 その場にいた全員が、口々に「姫!」と叫んで、驚きと喜びの顔を見せ、歓喜にわきはじめたのだ。
 一斉に人波が、ドバッとアウトランナーによりそうになる。
 それに対して、すぐにアズが片手をふった。
 とたん、はたと気がついた顔をして、人波が離れる。
 彼らは、まるで道を挟むように、次々と端により、両ひざ立ちで、腕を胸でクロスさせた。
 たぶん、アズに敬意を示しているのだろう。
 その後は、まるで凱旋パレードである。
 騒ぎを聞きつけた人々が次々と外に出てきて、数百メートルはある中央路に並んで、両ひざ立ちの壁を作っていく。
 最終的には、400人ぐらいいたんじゃなかろうか。
 特徴的だったのは、全員が青系の髪をしていたことだろう。
 だが、ぱっと見てアズより鮮やかな青をしている髪色はない。
 どちらかと言えば、ほとんどが青っぽい黒というか、紺という感じの色が多いようだ。
 そんな青い髪ばかりが、道の両サイドを飾る風景は、まさに壮観だった。
 開けた窓からアズが手をふるたび、「姫様!」と呼び声が上がる。
 超大人気である。

「アズ……つーか、姫さんだったの?」

 アズは、コクリと照れくさそうにうなずいた。


  ◆


 オレは路の突き当たりにある、もっとも大きな家の中に招かれた。
 確かに大きな家で、他の家の五倍ぐらいの大きさはある。
 しかし、言い方を変えればその程度で、「姫」と呼ばれる者が住むには簡素に見えた。
 姫と行っても、小さな村の話ということなのだろうか。
 部屋に入ると、そこには年配のいかつい男性と、アズよりも少し暗い青髪の女性が待っていた。

「イータ!」

 年配の男性が喜びの声をあげると、アズは2人に駆けよった。
 そして、涙ながらに熱い抱擁を交わす。
 たぶん、2人はアズの両親なのだろう。
 それは、女性の方を見ればわかる。
 彼女はかなりの美人で、まさにアズが大きくなれば、あのように美しく育つだろうと思わせる容姿だ。
 クリーム色の布でできた、体に巻きつけるような服を着ている。
 アズも同じ服装をすれば、まちがいなく誰もが親子だと認めることだろう。

(……つーか、昨夜のアズの方が美人だったな)

 それに対して、男性の方は「義理の父とか?」と疑いたくなるぐらい似ていない。
 四角く力強い輪郭に、ワイルドな顎鬚、なめし皮のベストから覗く筋肉隆々の四肢。
 もし、本当の父親ならば、アズはどのパーツももらっていないはずだ。
 幸いなことだろうと思う。

「イータよ、いったい何があったのだ。そして、その者は……」

 男――アズパパは、オレを一瞥だけしてから、またアズに視線を戻した。
 なんかけがらわしいものでも見るような視線で不愉快だったが、それよりも気になるのは「イータ」と呼ばれていたアズだ。

(もしかして、アズって苗字の方か?)

 怪訝に思っていると、アズもこちらにふりかえる。
 もちろん、アズパパとは違って嫌悪感があるものではない。
 たぶん「ちょっと待ってて。後で説明するね」みたいな視線だろう。
 オレがかるくうなずくと、アズはニッコリと笑って返す。
 なんとなくだが、オレもアズの顔色が読めるようになってきたようだ。

 アズは両親に顔を戻すと、両手を2人に向ける。
 すると、両親とも片手ずつアズと手をかざすようにくっつけた。
 しばしの間、3人とも目をつむる。

「……そうか。誘拐はやつらが……。しかし、逃げられて幸いだった。そして……」

 アズパパがオレに歩み寄ってくる。
 近づけば近づくほど迫力が増す。
 背丈はオレより20センチぐらい高いだろうか。
 横幅なんて、オレの1.5倍はあるだろう。
 そんないかつい男が、オレの目の前までやってくる。
 そして、ギロッと目を剥いてオレをにらんだ。
 オレは、超逃げだしたくなった。
 下手すれば、いい年してチビるレベルだ。

「おい、きさま……」

「なななななななんだよ……」

「きさま……よくも……よくも娘を……」

「いい、いや、まて。落ち着け!」

「こんなかわいい娘を……」

「か、可愛いからって、やましいことは少しし――」

「娘を助けてくれて、本当にありがとう!」

「――つーか、礼なのかよ! お約束だな、こんちくしょう!」

 アズパパは両ひざをついて、頭をさげてきたのだった。
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