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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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ヘタレでした。

〈ぶきみだよね?〉

「……ん? なにが?」

 オレは手帳に書いてある質問の意味が本気で分からず、首をひねってしまった。
 ぶきみなものなんて、どこにあった?
 トカゲ怪獣のことか?
 オレが悩んでいると、アズはまたペンを走らす。

〈光ったり、子供なのにおとなになったり、わたし、ぶきみでしょう?〉

「はあ? そんなわけあるか! ぶきみどころか、こんなにきれいじゃねーか!」

 思わず怒るように返してしまった。

「つーかさ、さっきの光とか、大人になったりとかって、魔法なんだろう?」

 興奮気味のオレの迫力に、アズは目をぱちくりとしてからコクリ。
 オレはガッツポーズ。

「うううっ…………うおおおおっ! やっぱり魔法キタァァァァァー!」

 思わず雄たけびをあげてしまう。
 アズが横で怯えるように驚くが、この興奮は止められない。

「つーかさ、せっかく如何にも剣と魔法の異世界に来たっていうのに、物足らなかったんだよ! こっちきて見た剣と言えば、ナイフみたいなので、戦うどころか、魚さばいたり、リンゴ切ったりしていたし。魔法っぽいのって、せいぜい火打石程度だったもんな! あんなのマッチでもライターでもいいわけだしさ!」

 そう。オレは内心で求めていたのだ。
 いかにもファンタジーな魔法を。
 もちろん、最初に出会った【キャラ】が悪いわけではない。
 キャラは、自分でも魔法が使えないと言っていたから仕方ないのだ。
 それにキャラは、もう見た目がファンタジーだからよし。
 あれでよし!
 まあ、昨夜の風景もファンタジーだったが……どちらかというと、メルヘンチックだった。
 オレは、剣と魔法のファンタジーみたいなのを求めていたのだ。

「うんうん。魔法イイネ……魔法最こ――ウガッ!」

 喜び過ぎて跳ねたら、頭ぶつけた。
 アウトランダーの開いたテールドアに頭突き。
 目から火花が飛び散るとは、これか。
 重い頭痛のように、ジンジンと痛みだす。

(つーか、ガキか俺は……恥ずかしい……)

 オレは頭を押さえて、ラゲッジルームに上半身を倒れこませる。
 もちろん、赤面中の顔は隠す。
 何度目だろうか、穴があったら入りたいと思ったのは。

「いててて……」

「…………」

 慌ててアズが這い寄り、頭をなでなでとしてくれる。
 オレのことを嗤ったりもしないで心配してくれるとは……本当にいい娘やなぁ。
 それだけに、ちょっと自虐的になってしまうのは、やはりオレの性根の問題か。

「あ、あはは……いてて……。『いたいの、いたいの、とんでけー』とかやられている気分だな。ガキだね、オレは。恥ずかしいよ、ほんと……」

「…………?」

「……ん? どうした?」

 なんか横目で見ると、頬に手を当てて何か悩んでいる。

「……!」

 と、いきなり両手でパンとならして、妙に納得したように深くうなずいた。
 何だろうと思っていると、また彼女はオレの頭に手をのせる。

「……いたいの、いたいの、とんでけー」

「――あぅっ!?」

 ゾクゾクゾクとする快感が、今度は頭の天辺から走って背筋を通り抜ける。
 その瞬間、心臓まで鷲掴みにされたように潰され、我ながら気持ち悪い声をだしてしまった。
 同時に、彼女の体がまた少し輝きを強める。
 そして、彼女の手が「とんでけー」と同時に頭から離れたとき、痛みはまったくなくなっていた。

「……おお。おお……すげー。痛くない。ありが――!?」

「――!?」

 ゆっくりと顔を上げると、すぐ目の前にアズのオレを見つめる顔がある。
 その距離、15センチほど。
 そんな目の前に、美少女の顔がある。
 しかも、オレの体は先ほどから、アズの声のせいで媚薬にでもやられたように興奮気味だ。
 思わず、音を鳴らして唾を呑む。
 対するアズも、少し様子が違う。
 明らかに透ける肌を紅潮させて、少し輝きのあるグレーの瞳をまったくそらさずに俺の目に向けてきている。

「…………」

 彼女がそっと目を閉じた。
 かるく近づいてくる、整った顔。
 それは明らかに、待っている(・・・・・)

(えっ? えっ? えっ? これは、ちょっと、もしかして……)

 別にキスをしたことがないわけではない。
 しかし、オレは今、ファーストキッスの時などとは比べものにならないぐらい緊張している。
 心臓が早鐘を打つように……ああ、この感じなのねと、実感。

(い、いいのかな……いいよな……求めてるし……大人だし……)

 と思ってから、オレはさっきの彼女の言葉を思いだす。

――子供なのにおとなになったり

 つまり、もともと子供なのだ。
 求めに応えたら、たぶんオレはとまらない。
 今のオレ、たぶん自制心をなくす自信がある。
 最後までいくね。
 性犯罪者になる自信あるね。
 そうしたら、どうするの?
 責任とるの?
 こっちで暮らすの?

「…………」

 なんかいろいろと考えてたら、動けなくなった。
 難しいことを考えるのが苦手なのだ。
 だからオレは、見なかったことにした。
 逃げるのは得意なのだ。

「……あ、ありがとな、アズ。魔法で治してくれたんだなぁー。すげーなぁー」

「――!?」

 オレが棒読み台詞で頭を撫でると、アズは瞼を開けた後、ぽかーんとする。

「いやぁ~。しかし、驚いたなー。つーか、あのトカゲ、他にも出てこないよなぁ。それとも移動した方がいいかなー」

 まったく気がついていませんというように、オレは視線と話題をそらしてみた。
 いや、もうマジ、かなり理性が限界。
 男性としての欲求が不満大爆発。
 一人だったら、もうなんか始めていたね……何とは言わないけど。
 よく耐えたよ、オレ。
 でも、今は顔さえ見ることができない。
 見たら抱きしめたくなる。

「とりあえず、もう少し安全そうな場所をさが――!?」

 突然、後ろからしがみつかれる。
 背中に当たるやわらかい感触。
 そして、耳元に背後から寄せられる唇。
 そこからもれる息。
 それが、オレを狂わせた。

「……アウトのヘタレ!」

「――あひゃ!?」

 耳から体内に入った、彼女の魔力のこもった妖麗な声は、オレの全身を骨抜きにした。
 それはたとえではなく、まさに骨が抜かれたように力が抜けてしまう。
 そうヘタレ(・・・)てしまったのだ。
 オレは上半身をなんとか荷室(ラゲッジルーム)に乗せるが、足腰に力が入らずその場にへたりこむ。

「あ、あれ……な、なにこれ……」

「…………」

 明らかに怒気が立ちのぼるアズは、車の奥の方に行って後ろを向けて体育座り。
 その背中には、「怒っていますからね! ぷんぷん!」と書いてある。

「あ、あの……アズさ……ん……ちょっ……つーか……これは……」

「…………」

 はい、無視されました!

 それから10分ぐらい後に、アズが子供の姿に戻るまで、オレはずっとその場で放置プレイされていたのである。
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