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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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名を聞いて……

 翌朝は、ロールパンを用意した。
 これにチーズを挟みたいが、普通のチーズは保冷が難しい。
 そこで思いついたのは、おつまみスモークチーズである。
 コンビニで見ていて、これなら常温保存ができると気がついた。
 それをフライパンで少し熱する。
 さらにコンビーフの缶詰。
 これも少し加熱した方が美味い。
 そして、これらをロールパンに挟んで食べる。
 初めてやってみたのだが、意外にいける。
 目の前の美少女も、最初は物珍しそうな顔をしていたが、嬉しそうに食べている。
 これにコーヒー(彼女はココア)、それにカップスープが朝食のメニューだ。
 昨夜はおにぎり、そして今日はパン。
 メニューとしては、少し寂しい感じもする。
 しかし、通常のキャンプと違い、車中泊での食事は外食が基本。
 調理をするにしても、このようにかなり手軽なものになってしまう場合が多い。

 それは、ともかくだ。
 食事をしながら、オレはあることに頭を悩ませていた。
 それは、自己紹介をするべきかどうかである。

 一つ屋根(?)の下で一夜を共にした(?)というのに、オレはこの少女の名前も知らない。
 そして、彼女は俺の名前を知らない。
 もちろん、オレから名前を名のるのはいいとしてだ。
 問題は、彼女が話せないのだとすれば、彼女を困らせることになるということだ。
 一応、ペンと手帳を用意したが、オレが彼女の書く字を読める保証はどこにもない。
 もし、「これに書いて」と渡したのに読めなければ、なんとも対応に困りそうだと思ったのだ。

 ……ところが、実際に書いてもらったら、それはとりこし苦労だった。
 彼女の書いた文字は、見たこともない文字なのに、不思議と読むことができた。

 ――【アズゥラ】

 ちょっと発音が難しい名前だった。
 思わず「言いにくいから、『アズ』でもいいか?」と聞いたら、彼女は嫌な顔をせずにコクリ。
 本当にいい子である。

 ちなみにオレは、「アウト」と名のった。
 本名で名のらなかったのは、もしかしたら彼女経由で、キャラにオレの名前が届くかも知れないからだ。
 あの人の話を聞かないネコウサ娘は、きっとオレの本名など覚えていないだろう。
 下手すれば、「アウト」も覚えておらず、「ラーメン」「おにぎり」しか記憶にないかも知れないが……。

 ともかく、オレはアズとのコミュニケーションで紙が使えることがわかった。
 つまり、話さないのではなく、話せないのだろう。
 一方、オレは話せるし読めるのだが、なぜか字が書けなかった。
 まあ、今は喋ればいいので問題はない。
 次にオレは、まずどちらに向かうべきかを聞いてみた。
 すると彼女は、オアシスの壁の外に行き、ある方向を指さした。
 しかし、その方向に何も見えない。

「で、目的地まで歩きで何日?」

 オレの質問に、彼女は少し悩んでから、両手の指をすべて立てた。
 確認したところ、歩いて10日間と言うことらしい。
 1時間で5キロメートル……いや、道の悪さから4キロとしよう。
 1日、例えば7時間歩いたとして、28キロ……わかりにくいから30キロメートルとして、10日間で300キロということか?
 ガソリンはまだあるから、あと400キロは走るだろう。
 ただ、エアコンを使うことを考えて、燃費を抑える必要がある。
 ならば、時速50キロぐらいで走ったとして、6時間ぐらいで到着。
 ただし、その目安が必ずしも正しいとは限らない。

(つーか、この距離をこの子、歩ききろうとしたのか。何の装備もなく……)

 もちろん、理由の予想はつく。
 こんな美少女が、手枷がつけられていて、荷物もなく砂漠を歩いていたと考えれば、まずまちがいなく「逃亡中」だったのだろう。
 きっと人攫いにあったのだ。
 こんなかわいい少女だから、充分に考えられる。
 そして、どうやってなのかわからないが逃げてきた。
 砂漠を装備もなく逃げるのなんて自殺行為だが、たぶんそれしか方法はなかったのであろう。

 本当、偶然にも彼女を見つけられてよかったと思う。
 こんな美少女が死んだら、この異世界の価値がワンランクぐらい下がったかも知れない。
 彼女が死ぬなどもってのほかである。
 オレは是が非でも、安全な場所へ送り届けたい。
 とりあえずオレは、アウトランナーに乗せて彼女が示す方に走ることにした。


   ◆


 4時間ぐらい走ると、目の前に森が見えてきた。
 砂漠地帯の終わりのようだった。
 ガソリンは予想よりも残っている。
 一定速度で止まらず走っていたおかげかも知れない。
 俺たちは森の入り口で一度止まり、昼飯にすることにした。
 昼はカップラーメン。
 アズは最初、とまどいながらも食べ始めていた。
 彼女にとってはかなり不思議な食べ物だったらしく、何度も首を捻りながらも食べていた。
 とは言え、まずかったわけでもなさそうで、スープまできれいに飲み干していた。

(うーん。野菜が足らないなぁ……)

 野菜はどうしても傷みやすいので、冷蔵庫がないとほぼ貯蔵しておけないのが難点だ。
 もちろん、今まで砂漠地帯で現地調達もできなかったのだから仕方がない。
 目の前の森には、食べられる野菜類などはあるのだろうか。
 とはいえ、オレはそれを判別できないから、どちらにしてもどうしようもないのだが。

(山菜とかキノコとか図鑑でも買ってみるかな……。異世界と一緒ならだけど)

 その日は、その場で一夜を過ごすことになった。
 もうゴールは目の前だと思うし、森には道らしきものもあり、アズ曰くなんとか通れるとのこと。
 だけど、速度はだすことができない。
 午後から出発して、万が一にでも夜になるのはまずい。
 やはり夜になると魔物が出るらしいのだ。
 だから、今夜はここで寝て、明日の朝一番に出発することにしたのである。

 しかし、その夜。
 オレは大変なものを見てしまう。
 そしてオレは、ここが異世界であると改めて実感することになるのだった。
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