挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

3/99

ネコ耳に……

「……ネコ耳?」

 他にどう表現していいかわからないほど、頭の上にあるそれはまちがいなく、琥珀色のネコ耳だった。
 最初はカチューシャかと思って触ってみるが、外れるどころかどう見ても頭と一体化している。
 しかも、触るたびにピンクの唇から「あぅん~」と、妙に艶めかしい声まで漏れる。
 こめかみ当たりの髪をあげてみるが、そこに本来あるはずの耳もない。
 だが、どうしても信じられないオレは、彼女のヒップに手を回す。

(ネコなら尻尾があるはずだ……)

 決して、やましい気持ちじゃない。
 やましさなど少しもない……と言えば、ウソになるが、それよりもどうなっているのかを知りたかった。
 だから、手にそれが触れた時、オレは興奮するよりも、喜んでいたと思う。
 本当にあった。
 そこに、尻尾があったのだ。

「……あれ?」

 しかし、さらに触っていて、少し妙なことに気がついた。
 短い。
 尻尾が異様に短い。

(つーか、これは……もふもふ?)

 オレはお尻をまさぐるのをやめて、体を半分ひっくり返して彼女のお尻をマジマジと見る。
 そこには、確かに尻尾があった。
 ただし、丸い。
 髪の毛と同じ、琥珀色の毛がボールのようについている。
 オレはさらに調べるように尻尾を触ってみる。
 布製ズボンのお尻の上の方には、縦に切れ目が入っていた。
 そして上がボタンでとめてある。
 たぶん、尻尾を通すためのものなのだろう。
 わざわざそんな作りをしていると言うことは、つまりこの尻尾も後から付けたりしたものではないということだ。

(つーか、どう見てもこれ、ウサギの尻尾じゃねー?)

 でも耳は……と思い、視線を顔に戻すと、先ほどまで瞑られていた双眼がパッチリと開いている。
 そこにあるのは、少し猫目気味の赤みを帯びた双眸。
 しかも、かなりつりあがり、褐色の肌でもわかるぐらい頬を真っ赤に染めていた。

「あ……」

「…………」

「つーか、これは……」

「にゃぴょん!? ……なにするか、このエロオヤジ!」

 もの凄い怒声と共に、彼女のパンチがオレの顔面に炸裂した。
 しゃれぬきで、オレの体がぶっ飛ぶ。
 比喩ではなく、地面を転がされた。
 本気で死ぬかと思うぐらいの痛みが全身に走った。
 手で顔を触ると、掌に鼻血がついていた。

「ってな! なにすんだ、テメー!」

「それはこっちの台詞! キャラのお尻、まさぐった!」

「ま、まさぐってねーよ!」

「うそつけ、エロオヤジ!」

「オヤジじゃねー! オレはまだ、26才だぞ!」

「十分、オヤジ!」

「つーか、そういうお前は何才なんだよ!」

「キャラは、鮮度抜群、16才!」

「16だと? なんだよ、ガキじゃん! つーか、ガキのケツなんて興味ねーし。オレはだいたい、ケツより胸の方が――」

「胸!? キャラの胸まで触った!?」

「えっ!?」

「にゃぴょん! もう、オマエ、許さない!」

「つーか、『にゃぴょん』って、言葉までネコとウサギが混ざってんのかよ!」

「うるさい! とにかく、キャラの体を触った罪は重い。これは神が謝ってきても許さないレベル!」

「レベルたけーな!」

「償いとしてオマエの命、このキャラ様がもらう!」

 そう言うと、彼女は腰に手を当てた。
 そこに握られていたのは、大きめのナイフ。
 片手で突きだされた剣先が、オレの方を真っ直ぐに狙う。

(まさかナイフを持っていたとは……尻に夢中で気がつかなかった!)

 ギラッと光る刃は、それが本物の金属であることを疑わせない。
 非常に痛そうである。たぶん、刺されたら死ぬね。
 しかも、逃げ切るのは、かなり難しそうだ。

「まっ、まあ……つーか、落ちつけよな……」

「うるさい! キャラは………うぐっ……」

 言葉の途中で、彼女はいきなり膝を折る。
 そして、まるで糸が切れたように、地面にへたってしまう。
 今まで気力で保っていたのが限界に来たのか、顔色さえ悪く見えた。

「おい。つーか、おまえ。大丈夫なの――」


――ぐうううぅぅぅぅ~~~~!


 オレの言葉を遮ったのは、アニメでしか聞いたことがないような腹の虫の鳴き声。
 そのあまりの立派な鳴き声に、彼女は顔を真っ赤にまた染める。

「……もしかして、おまえ……腹、減ってんじゃね?」

「…………」

「カップラーメンならあるけど、食うか?」

「く、食うかって……それ食べ物の名前か?」

「おお。そりゃーもちろん、食べ物だ」

「……く、くれるのか? 金はないぞ」

「そんじゃさ、いろいろと触っちゃった、お詫びっつーことで、ひとつ……な?」

「…………」

「…………」

「……しょ、しょーがない。それで手を打つ!」

 オレは自分用に買っておいた朝飯を犠牲にし、自分の命を守ることができた。
 それはカップラーメンが、神様の謝罪に勝った歴史的瞬間だった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ