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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

二泊目

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オアシス車中泊。

 夜になると涼しくなってきた。
 というより、かなり寒くなってきた。
 砂漠って、昼と夜の温度差が激しいっていう話は聞いたことがあったような、なかったような。
 でも、昼間との寒暖差は夏から冬に変わったかのようだ。
 オレは飯の片づけをした後、すぐにシートアレンジを変更した。
 助手席を倒して、後部座席とつなげる。
 運転席側の後部座席は、前に倒してフラットにし、荷室(ラゲッジルーム)とつなげてインシュレーターマットを半分に折っておいた。
 購入したインシュレーターマットは、幅180センチはある。
 大人二人が優に眠れるサイズで、荷室(ラゲッジルーム)より少し幅が長い。
 しかし、アウトランナーの荷室(ラゲッジルーム)にはタイヤハウス(後部タイヤの出っぱり)が左右にあるため、真ん中あたりは100センチ程度しかとれない。
 いくら大人と子供でも、かなり体を寄せあわなければならない。
 そこで少女には、マットの上に寝てもらうことにした。
 オレは助手席側に寝る。
 まあ、それでもかなり近い位置で寝ることには変わりないが、外で寝るよりはマシだと納得してもらうしかない。

「……ってことでいいかな?」

「…………」

 説明するも、彼女は少しだけ眉を顰めた。
 そして、荷室(ラゲッジルーム)を見てから、ふりかえってかるく首を傾げる。
 どうやら、納得していただけない様子だ。
 やはり、いたいけな美少女としては、見知らぬ男との車中泊は危険を感じるのだろう。
 きっと彼女の親も、これだけかわいい娘ならば、常日頃から「知らないイケメンと車中泊してはいけません」と言い聞かせているはずだ。
 ならば、オレを警戒してもおかしくはない。
 むしろ、警戒する方が正しい。

「…………」

 彼女は、ひょいと荷室(ラゲッジルーム)に腰かけ、どこか優雅に靴を脱ぐと足の砂をかるく叩く。
 なんと行儀がいい子だと感心していると、彼女は奥へ入って助手席の背もたれを持ちあげようとする。

「あ、ああ。そのままじゃ動かないぞ」

 オレは助手席側のドアを開けて、助手席のリクライニングを元に戻す。
 すると彼女は、垂れ下がった袖の手で、倒されていない後部座席の背もたれを指した。
 そこまでされれば、オレも察する。

「……つーか、元に戻せってことね」

「…………」

 まるで当然とばかりに、コクリとうなずかれれば、オレとしても言葉はない。
 もう一度、言おう。
 オレのようなイケメンなら、警戒されるのは仕方ないのだ。
 絶対に、きもいとか、不細工だから警戒されているわけではない。
 イケメンだからだ。

 ……そう思わないとやるせない。

(つーか、オレは外でレジャーシートと寝袋か。電気毛布だけ延長ケーブルで引っぱってくれば死なない……よな?)

 なぜだか、「オレの車なのになんでオレが外で寝るんだ! 不条理だ! 待遇改善を申し立てる!」というような不満はでなかった。
 目の前の少女が望むなら、仕方ないと思えてしまう。
 もしかして、これがカリスマってヤツなのだろうか。
 これといって命令されているわけでもないのに、オレは逆らえずに彼女のペースに引きずられている気がする。

「これでいいのか?」

「…………」

 少女がコクリとうなずく。
 マットは荷室(ラゲッジルーム)いっぱいに広げられた。
 少女1人が寝るには充分な広さである。
 とりあえず、オレは歯磨きとトイレを済ます。
 トイレはちょっと離れた木の陰ですました。
 彼女にも「これはティッシュで口とか拭く用、こっちはトイレットペーパーでトイレで拭く時用、こっちはキッチンペーパーで……」とさりげなさを装って説明してある。
 さっきふと、姿をくらました時、トイレットペーパーがなくなっていたので用は済ませているのだろう。
 というわけで、あとは寝るだけだ。
 ちなみに、この辺りに魔物はでないらしい。
 オレが独り言のように「魔物とかでないよなぁ」と言ったら、少女がコクリとうなずいてくれた。
 まあ、地元民(ジモティ)が言うのだからまちがいないだろう。
 魔物ではないにしても、蛇とか蠍とかでたらどうしようという不安もあるが、今のところは見ていない。

(今後はテントも積んでおくべきか。でも、もう荷物はつめなさそうだしな……)

 オレは寝袋(シュラフ)をだした。
 そして平らそうな場所にレジャーシートを移動した。
 その様子を荷室(ラゲッジルーム)から少女が見ている。
 ひょこっとでた頭から伸びる青い髪が、さらさらと風に流れる様子は、もうそれだけで絵になる。
 そう言えば、肩甲骨を隠すほどの長髪が、いつの間に乾いたのだろうか。
 かるくウェーブがかかっているようで、ふわふわとしている。
 本当にどこか、メルヘンの国のお姫様のようだ。
 姿を見るだけで、「なんでも、この子の言うとおりにしてあげよう」とか思ってしまう自分がいた。

「んじゃ、オレはここで寝るから。なにかあれば声をかけてくれ」

「…………」

 すると、なぜかまた首を傾げる彼女。
 瞳を見開き、「なんで?」の顔。
 オレはなにが不思議なのかよくわからなかったが、とりあえず「おやすみ」と告げようとした。
 だが、彼女が俺を呼んだ。
 長く垂れ下がった袖をふりながら、コイコイとしている。
 その愛らしさに、オレはもう反射的に彼女に近寄った。

「……どーした?」

「…………」

 彼女は四つん這いでマットの中央にあたりに移動した。
 そして、その姿勢のままこちらを向き、袖をふって「おいでおいで」をする。
 だぼっとしたティーシャツのため、襟首が大きく開いてしまっている。
 そこから覗ける谷間はないが、オレは思わず目を背けてしまう。

「い、いや、あの……つーか、なんなの?」

「…………」

 今度は正座を崩し、お尻を床につけてペタンと座ると、目の前のマットをポンポンと叩いた。
 そこまでされれば、さすがのオレも気がつく。

「……え? 一緒に寝るの?」

「…………」

 彼女はコクリとうなずいた。

「――!!」

 が、途端、今度はグレーの目をハッとさせ、口元に手を当てる。
 眦が下がる。
 表情が曇る。
 オレは瞬間的に察する。

「ち、違う! 別に一緒に寝るのが嫌なわけじゃねーぞ。つーか、むしろ、お前の方が、オレなんかと一緒に寝ていいのかってのが……」

「…………」

 これまた「なんで?」と首を傾げる。
 彼女は最初から、このつもりだったわけだ。
 考えてみれば、当たり前である。
 こんな遠慮深い少女が、持ち主をないがしろにして自分だけ、良い場所に寝ることなど考えるわけがないのだ。
 要するに、オレの早とちりだったらしい。

「そ、そんじゃ、まあ……オレもそちらにおじゃまします」

「…………」

「……あ。つーか、オレの車か」

 オレがかるく笑うと、彼女も口元に両手をあてて笑う。
 声というより、くっくっくっと息をもらす笑い方。
 柔らかい笑顔を見せながら、彼女は肩を揺すっていた。
 なんとかわいいことだろうか。
 そしてかわいいだけではなく、どこか笑い方に優雅さまで感じさせる。

 オレはその日、少女と触れあうぐらいの距離で車中泊した。
 正直言えば、つきあっていた彼女と初めて寝た時よりも緊張していた。
 でも、不思議と横から寝息が聞こえてきた途端、オレも緊張が取れて深い眠りに落ちていった。
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