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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

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異世界には行きたかった。

 ――土曜日の午前中。

 オレはホームセンターやキャンプ用品店などを周り、車中泊グッズ購入予定メモに記載した商品を見て回った。
 救急箱、食器セット、調理器具、調味料セット……いろいろとそろえた。
 また、椅子がセットになった、コンパクトに折りたためるフォールディングテーブル。
 それから、小型のIHコンロも買っていった。
 最初はガスコンロにしようかと思ったが、ガスカートリッジがなくなると使えなくなってしまう。
 それにIHコンロの方が、「火がないところに煙が出ている!」とか言って、またキャラが驚くところが見られるかも知れない。
 小型のセラミックヒーターも購入。
 向こうで夜中、寒い時にエアコンをつけようとしたが、「エンジン音とかいうのがうるさい。魔物が寄ってくるかもしれない」とキャラに怒られた。
 セラミックヒーターなら、アウトランナーの電気で使えるからエンジンをかけておかないで済む。
 これでばっちりだ。
 それから、インシュレーターマットというのも買ってみた。
 バルブを開けるだけで空気が入りこみ、膨らむエアマットだ。
 非常にコンパクトにたためるし、空気注入が簡単である。
 正直、こういうものがあるなんて知らなかった。
 でも、荷室(ラゲッジルーム)に大人二人はちょっと狭い。
 かなり体を寄せあって寝ないといけない。

(つーか、なんでキャラも車中泊する前提で考えているんだ、オレは!)

 妄想で興奮する高校生なみの頭に、ちょっと自己嫌悪する。
 最後に、オレは大事な物を手に取った。

(このサイズでいいかな……)

 それは三合炊きぐらいの小型電子炊飯ジャー。
 オレは今度、キャラに「おにぎりとラーメンをたっぷり持っていく」と約束した。
 しかし、考えてみれば、すぐに会えるとは限らない。
 そうなれば、ラーメンはともかく、おにぎりは腐ってしまう。
 それなら、米を持っていって向こうで炊いて、おにぎりを作ってやればいいと気がついた。
 海苔とふりかけ、あと具材は缶詰で持っていく。
 これで炊きたてご飯を使った、あったかおにぎりが作れるはずだ。

(つーか、おにぎりなんて作ったことねーな……。練習しとくか……)

 その他、細かい物をいろいろと用意する。
 ちょっと寝るときに荷物が置けなくなる気がするが、その時はビニールシートとかおいて外に出すか。
 まあ、なんとかなるだろう。
 準備は整った。
 さっそく今夜、オレはまた異世界に旅立つことにした。


   ◆


 ……ところが、異世界は遠かった。
 遠いというのは、ちょっと違うかも知れない。
 だが、簡単には行くことが出来なかった。

 とりあえず、あの住職の言葉を信じるならば、「車」は一つのキーになっていると思う。

――その【狐使い】たちが術を施した車があれば、問題なくいける

 狐がどうした、術とは何だと、いろいろとツッコミどころはあるが、とりあえずアウトランナーが関係あるということはわかった。
 なにしろ異世界への移動は、車で寝ている最中に行われた。
 そこで自宅の駐車場に止めてあったアウトランナーに乗りこみ、土曜の夜はそこで寝てみた。

 そして――。

 車の中で目が覚めると、目の前にいたのは……ネコウサ娘!

 ……ではなく、怪訝な目をした自分の母親だった。

 かわいい顔を見たかったのに、自分の母親とは非常にショックだ。
 もちろん、母親には理由を問い詰められたが、そこは適当にごまかした。
 いくら家族でも「異世界に行こうと思って車で寝ていた」とか言ったら、その日のうちに病院に連れていかれてしまうかもしれない。

 ならばと、もう一度、日曜日に足柄SA(サービスエリア)まで足を伸ばしてみた。
 もしかしたら、ここが特別なパワースポットってやつなのかもしれない。
 ちょうどいいので、前回は食べられなかった【わっばめし】を夕飯に食べて、風呂に入ってから寝てみた。
 そして、スマートフォンの目覚ましで朝の六時ぐらいに起きると、そこは……異世界!

 ……ではなく、やはり足柄SA(サービスエリア)だった。

 オレはそこから慌てて帰路について、そのまま出社した。
 遠いので、遅刻寸前となってしまった。
 さすがにこの前のミスをした上に、遅刻とかしたらアウトだろう。
 危ないところだった。

 ともかく、異世界には行けなくなってしまったのだ。
 だが、なんとかして行きたい。
 こういう場合、どうしたらいいのだろうかと悩んだ。
 そういえば、ライトノベルなどには異世界に行く話がたくさんある。
 もしかしたら、参考になるかもしれないと思い、いくつか買って読んでみることにした。
 結構多いのは、死にかけるパターンだ。
 もしくは、死んで転生するパターンとかだ。
 確かにオレは、戻ってくるときに死にかけていた。
 なにしろ、車ごと崖にダイブしたのだ。
 ならば、同じようにこちらでもダイブすれば、異世界に行けるのではないかと思った。
 だが、もっとよく考えたら、最初に異世界に行った時、そんな危ないことはしていなかった。
 だいたい、異世界に行けず、本当に死んだら困る。

(つーか、この現象に名前を付けるか……)

 ちょっとした逃避的思考かもしれないが、「異世界に行く」現象に名前をつけようと考えた。
 頭の中で整理していても、「異世界に行く現象」と長ったらしく言うより、「ワープ」とか「トリップ」とか、なんか名前をつけたほうがわかりやすい。

(そういえば、あの住職、オレのことを「シフター」とか呼んでいたよな……)

 そのことを思い出して、オレは「異世界とこの世界の間を移動すること」を「シフトチェンジ」と名づけることにした。
 まあ、「シフト」だけでもいいような気がしたが、車に乗って行うので語呂合わせだ。
 ちなみに、「異世界に行く」のが「シフトダウン」で、「この世界に戻る」のが「シフトアップ」と呼ぶことにした。
 かっこいい。
 名前をつけたら、すごくかっこいい気がしてきた。
 読み漁った、ラノベの主人公になった気分だ。

(……うん。つーか、たぶん、どーでもいいことなのはわかっているんだけどね)

 ただ、おかげで、大事なことを思いだしたのだ。
 というか、こんな大事なことに、今まで気がつかなかったのが、さすがオレだ。

(あの住職に、シフトチェンジの方法をきけばいいんじゃんか!)

 異世界に行けたのは、あの住職がオレに何かしたからだ。
 あの住職に聞けば、シフトチェンジの仕方がわかるに違いない。
 だから、オレはあの住職がいた【九鬼寺(くがみでら)】を目指した。

 ……ところが、たどり着けないのだ。

 目の前に見えるのに、そちらに近づけない。
 ナビの地図にあの寺のある小さな山は載っていない。
 どう走っても、あの寺に近づけないのだ。
 しかも、どんなに周囲を回りこむように走っても、なぜか遠目に見えるのは、寺の正面側だけなのだ。
 どこに行っても、側面や裏面を見ることができない。
 いや。
 それどころか、オレはこともあろうことに寺を見失った。
 動かず、そこにあったはずの寺が、道を周りこんで来たら、小さな山ごと、どこにも見えなくなっていたのだ。
 正直、ぞっとした。
 だが、それ以上に、がっかりした。

 こうしてオレは、異世界に行けないまま、一週間を過ごしてしまっていた。
 そしていつしか、異世界は夢物語だったと考え始めた。

 ――でも。
 それでも、キャラの言葉と笑顔だけは、オレの心にずっと残っている。
 だから、たとえ彼女が幻だったとしても、オレはオレに期待することをやめない。
 オレはオレの期待に応えるために走る。
 これからもアウトランナーと共に、前を向いて――。
 ご読了いただきありがとうございます。
 ぜひ、続きもお読みいただければと思います。

 車の購入記念に書き始めましたが、ベースは車旅行というテーマに基づき話を考え始めました。
 その中でも大切にしたのが、帰路です。
 車旅行は楽しいですが、どんな楽しくてもいつかは家に帰らなければならない。これは守ろうと思いました。
 転生や転移して逃避ややり直しではなく、ブームへのアンチテーゼ的に、あくまで今の人生をよりよくしていこうという話です。
 逃避ではなく挑戦の話です。
 そのために、このような「行きて帰りし物語」となりました。

 ほかにもアンチテーゼ的な要素はあります。

 たとえば、俺様最強チートはなく、あくまで主人公は弱い存在です。
 単純にハーレムができて、多くの女の子に囲まれるのもやめました。
 異世界に行くのにも、リスクを背負わせました。
 現実世界でのシチュエーションも大事にしました。
 異世界でも、結局は現実と変わらないんだという雰囲気を作りました。
 単純なまったりものでも、冒険活劇でもない話を目指しました。

 これからもいろいろなタイプの女性が出てきて、アウトを盛り上げていきます。
 お付き合いいただければ幸いです。
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