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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

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19/99

まずは謝罪……

※連続更新です。
 前回更新日時:2015/12/04 12:00
 まずオレがやったことは、日時の再確認だ。
 テレビをつけてみたり、サービスエリアの建物の中に行ったりして、日時を確かめた。
 オレが異世界に行っていたのは、三日間だ。
 会社から逃げてきた木曜日の夜から数えたとしても、土曜か日曜になっているはずだった。
 だが、まちがいなく、今は金曜日の深夜三時半を過ぎたところだ。
 日付も確認したがまちがいなく、一日どころか半日も経っていないことになる。
 異世界とかだけでも頭がパンクしそうなのに、その上、この時差をどう理解しろというのだろう。

(そう言えば、あの住職は時空間がどうのと……)

 なにか面倒な説明をしていたような気がしたが、それほど頭の良くないオレにわかるわけもない。
 ともかく、これは事実として受け入れるしかない。
 となると、次に考えたことは、これからどうするかだった。

(……間にあう……のか?)

 オレはガソリンを確認した。
 やはり、きっかりと減っている。
 そのまま、目の前のガソリンスタンドに行って満タンにし、カーナビで行き先を自宅に設定する。
 その間、思いだしたのは、キャラのこと。

 到着を間に合わせたくて、車の中でそわそわする姿。

 足を怪我しているのに、転んでも立ち上がり、懸命に歩む姿。

 そして、「期待している」と言った姿。

(つーか、あきらめたら、あいつに合わす顔がないぞ……)

 オレは逃げるのをやめることにした。


   ◆


 オレは家に帰ると、休む間もなくパソコンを自宅のネットワークに接続して、プリンターで資料の印刷を開始した。
 そして、その間にシャワーを浴びる。
 伸びていた髭も剃り、身なりを整える。
 髪型など、いつもは少しボサボサとした感じにするのだが、今日はムースできっちり固めてみた。
 ワイシャツは、新品をだした。
 さらにいつものスーツを着てみる……が、かなり皺だらけだと気がつく。
 まだ時間はあることを確認して、アイロン掛けをする。
 アイロン掛けなんてしたのは、一年ぶりぐらいではないだろうか。
 そして、資料の最終確認。
 それが終わると、いつもより三〇分以上、早く自宅を出る。
 通勤中の車の中、オレはいつも憂鬱だった。
 音楽をガンガンにならしたりして気分を晴らそうとしていた。
 しかし、今日はいつもより憂鬱ではない。
 もちろん、気は重い。
 これから叱られ、罵られるために行くのだから当たり前だろう。
 だが、これは憂鬱と言うより、緊張に近い。
 気持ちも覚悟も決まっている。
 だから、気分をごまかす音楽はいらない。
 オレは、異世界に行っていた間の情報が欲しくて、ニュース番組を流した。
 ニュース番組をこんなにきっちり聞いたのは、社会人になって初めてではないだろうか。
 いつも「くだらねぇ」「つまらねぇ」と思っていたのだ。
 ところが今日はどうしたことだろうか。
 夜中の出来事に、もの凄く興味をもっているオレがいた。
 そのため会社に着くまでの時間も、いつもより短く感じた。
 オレは鞄と資料の入った封書を持つ。
 会社の正門をくぐった。
 さすがにまだ、出社している人は少ない。
 それでも、エレベータに乗ると一〇人ぐらいがひしめき合う。
 株式上場しているし、このところ収益も伸び、都内のいい場所にそれなりに大きいオフィスビルを持つ会社。
 たぶん、ここに入りたくて落ちたヤツはそれなりにいただろう。
 今まで、オヤジのコネで入った事をあまり深く考えなかったが、改めて思えばなんてすごいことなんだろう。
 キャラは、自分の好まない、あんな危険な仕事を幼い頃からやっていた。
 やるしかなかった。
 それに比べてどうだ、このオレは。
 こんな暖かいオフィスで、ノンビリと適当にしているだけで金をもらって、あんな車まで買ってしまって。
 ここにいること自体、今はすごく恥ずかしく感じてしまう。

(でも、仕事は辞めない。金を稼いでおにぎりとカップラーメンを買うんだ! そして、今度こそあのモフモフ尻尾を思う存分触ってやる!)

 きっと口に出したら、この欲望の方が恥ずかしいかもしれないが気にしない。
 オレは、まっすぐに自分のオフィスに入った。
 すると、すでに出社しているまじめな社員数人が、オレに冷たい視線を向けたり、眉をしかめて見せる。

「おはようございます!」

 その全員に向かって、場違いに明るい挨拶をしてオフィスデスクの間を抜けていく。
 途中、机に鞄を置くと、隣の先輩が「大前、おまえなにやってんだ……」とか話しかけてくるが、手ぶりで「後で」とだけ返事する。
 オレが最初に向かわなければいけないのは、本部長の部屋。
 ガラス張りの部屋のドアは開け放たれて、そこにはオレの上司達である、喜多本部長と野々宮部長、そしてオレの直属の上司で同期の山崎リーダーがあつまり、そろいもそろって眉を顰めて話していた。
 ほぼまちがいなく、オレの犯したミスについてであろう。
 その部屋の入り口にすばやく到着すると、オレは少し抑えた声ながらも、はっきりと声をだす。

「失礼します」

 全員の目がこちらに向く。
 次の瞬間、その視線に、はっきりとした怒りを感じさせる。
 一瞬で全員の双眉がつりあがり、口を強く結んだ。
 しかし、山崎だけが開口する。

「大前、おまえなんで――」

 オレはヤツの気勢を削ぐように、力強く一歩前にでる。
 そして、両手で資料の入った封書を前に突きだしながらも、深々と頭をさげる。

「この度は、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした!」
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