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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

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甘酸っぱさを感じながら……

 オレは気がついたら、荷室(ラゲッジルーム)で横たわって寝落ちしていた。
 荷室(ラゲッジルーム)の床は硬いため、かなり体が痛い。
 やはり、マットとかあると便利だなと思う。
 しかし、普通のマットは場所をとる。
 いいマットがないか、元の世界に帰れたら探してみることにしよう。
 ちなみに寒さの方は、電気毛布がかけられていたから大丈夫だった。
 どうやら、キャラがかけてくれたらしい。
 書類もパソコンも邪魔にならないように端にどけてあった。
 礼を言おうと周りを見るが、キャラが車の中にいない。
 確かにもう日が昇っているが、そんなに早くに出発したのだろうか。
 オレは慌てて起き上がり、辺りを見まわす。
 と、フロントガラスの向こうで、こちらに向かって歩いているキャラの姿があった。
 耳をピンとしながら、顔をニコニコとさせ、何か両手一杯に抱えてきている。
 真っ赤な丸い果実……どうみてもリンゴだ。
 オレはドアを開けて、脱いでいた靴を履いて迎えにでる。

「おはよう、アウト。森でおいしそうなリンゴを採ってきた」

 やはり、リンゴだった。
 しかし、たぶん「リンゴ」という言葉ではないのだろう。
 オレの中で勝手にそう変換されているのではないだろうか。

(つーか、あの住職が「異世界と適合する」とか言っていた気がしたし……たぶん、オレの頭の中で日本語として解釈されているだけなんだろうなぁ)

 そんなことを考えながら、オレはさしだされたリンゴを受けとった。
 持った感じも、香りも、やはりリンゴだ。
 甘酸っぱさに鼻孔がくすぐられ、思わず喉を鳴らしてしまう。

「ありがとう……つーか、お前は足を怪我してるのに歩き回るなよ!」

「ん。もうほとんど大丈夫。獣呪族(じゅうじゅぞく)は丈夫で、怪我の治りが早い」

 確かにもうかなり普通に歩いているし、足首の腫れもほぼ引いている。

「かなり楽。アウトのおかげ」

「……なんで?」

「車で運んでくれたから、足を使わずに済んだ。おかげで回復が早かった」

「ああ。なるほど。それはよかった。……つーか、『じゅーじゅーぞく』ってなんだ?」

 どうもオレの世界にない言葉は、うまく変換されないらしい。
 知らない言葉は、イメージが出てこないのだ。

「獣呪族は、獣の呪いを受けた一族」

「獣の呪い……」

「そう。大昔、一族のご先祖様たちは、とある山林の神さまに『狩りで獣を殺しすぎだ』と怒りを買った。そして、『動物の気持ちを思い知るがよい』と、その血に呪いをかけられた」

「…………」

 リンゴを荷室(ラゲッジルーム)に転がしながら、静かに話すキャラを見て、オレは「地雷を踏んだ」と後悔した。
 キャラは最初から「そういう種族」なんだとばかり、オレは思いこんでいた。
 しかし、この話からすれば、本来は普通の人間と言うことになる。
 それが呪われたせいで、動物の特徴を持つ姿になってしまったというのだ。
 このパターンは、物語によくあるパターンではないか。
 呪われた一族だと周りから迫害され、いじめられて、友達もできず、いい仕事にもなかなかつけず苦労した……。
 きっとこの配達の仕事も、やっともらえた仕事なのだろう。
 だから、仕事のありがたみ、期待されるありがたみをあれだけよくわかっていたのだ。
 そうだ。そうに違いない。

「呪いの血を継いだ者には、動物の特徴的な一部が現れる」

 そう言ってキャラは、うつむき加減にネコ耳をかるく触れる。
 その表情に影が落ちた気がした。
 オレはなにか慰める言葉を探るが、いい言葉を思いつけない。

「そう。これは呪われた血の証……」

「そ、そんなこと――」

「いわば、チャームポイント!」

「――ない……え? チャームポイント?」

「うん。動物の耳や尻尾がついていると、似合っていればみんな「かわいい」とチヤホヤしてくれる」

「で、でも、呪い……」

「うん。呪われてラッキー、みたいな」

「ら、らっき~?」

「なにしろ、運動能力アップ、回復力アップ、人によっては五感アップ、そして可愛さアップ。それなのに基本は人間のままと、いいこと尽くめ」

「……つーか、それじゃ、神様にとって罰を与えたことにならないんじゃ……」

「ご先祖様、最初は『困った』と騒いだ。でも、よく考えたら、『別によくね?』と……」

「軽いな、ご先祖様……」

「うむ。でも一応、ご先祖様も獣を殺しすぎたことは反省した。けど、呪いが気に入ってしまったので、神様の前ではわざと反省したそぶりを見せず暮らして……現在に至る」

「つーか、神様……謀られてるじゃねーか……」

「そうとも言う。……それよりリンゴ、食べよう」

 そう言うと、持っていたリンゴの表面をキュッキュッと軽く手で擦ってから、キャラはそのまま齧りついた。
 さすがワイルドで、少し果汁が飛ぶが、おかまいなしだ。
 切って食べるつもりがないと知り、オレもキャラのマネをして、持っていたリンゴをそのまま齧った。
 ジュンと果汁(ジュース)が歯茎を伝ってあふれ、口の中に濃い甘さと、わずかな酸味が広がる。

「やばうま! シャキシャキ! つーか、なにこれ!?」

「りんご」

「うん、わりぃ、知ってる。そうじゃなくて、めっちゃうまいリンゴだなってこと」

「この辺りすごくいい土地。実りも豊富で、今年は特に良い」

「おお。そうなのか」

 オレは夢中でリンゴをかじった。
 考えてみれば、丸かじりするのは生まれて初めてかもしれない。
 それどころか、リンゴの皮を食べた記憶さえないし、食べる部分とは認識していなかった。
 こんな皮までうまいリンゴが自然にできるとは、恐るべし自然と見直した。
 元の世界に戻ったら、リンゴ狩りとかもやってみるかと思ってしまう。

「ところでアウト。キャラはそろそろ行くが、アウトはこれからどうする?」

「もごっ……」

 オレは噛んでいたリンゴを慌てて呑みこむ。

「お、おお。つーか、もう行くのか?」

「そろそろでないと間にあわない」

「そうか。オレは……どうするかな。考えてみれば当てがあるわけでもないし」

「元の世界に戻る方法がわかるまで、どこか町にでも行って、仕事を探さないと、お腹が空いて困る」

「……まあな。じゃあ、近くの町の場所、教えてくれよ」

「ん? ちょっと口で説明しにくい。……二日ほど、ここで待てるか?」

「え?」

「用事を終わらせたら、ここに戻ってきて、案内してやる」

「いや~。さすがにそれは悪いってか……」

「車で送ってもらったお礼。送ってもらわなければ間にあわなかった。だから、次はキャラが案内する」

「つーか、ありがいたいけど……」

「ここは割と安全。キャラが戻るまで、一人でさびしいか?」

「オレは子供か!」

「ああ。独り身でさびしいのには慣れているんだったな、アウトは」

「なんでだよ! 一応、それなりの青春は過ごしてたぞ!」

「見栄」

「決めつけるな! つーか、モテモテだったぞ!」

「話、盛ってる」

「盛ってねー! つーか、こっちにも『盛ってる』って言い方あるの!?」

「じゃあ、待ってて。行ってくる」

「うおおおいいい! 会話、ぶっちぎるな、こんちくしょう!」

 結局、オレはキャラの言うとおり、ここでアウトランナーとともに数日過ごすことにした。
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