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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

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心地よい期待に……

 夕方には、大きな森の目の前についていた。
 これが最後の森だ。
 それはまるで、木々が創りだす壁のようだった。
 近くで見ても、とても車で入れるような場所ではない。
 左右を見ても山間にあり、回り込むのは大変そうだ。
 結局、ここからはキャラが徒歩で行くしかないのだろう。
 俺たちは予定通り、森の手前で車中泊することにした。
 といっても、森の近くは危険だから、少し離れた森から流れ出る川の近くに車をとめていた。
 後は寝て、朝にキャラが出発すればいいだけだ。
 食事は尽きてしまったが、一日ぐらいならば我慢できるだろう。

 ……と思っていたら、キャラは我慢が出来なかったらしい。

 すぐにもどるようなことを言って姿を消したかと思ったら、怪我した足を水に濡らしてまで、なんと魚を何匹も串刺しにして運んできたのだ。
 オレが、シートアレンジして寝床を作ったり、風呂に入れないので沸かしたお湯で体を拭いて着替えたりしていた、その短い時間でのことである。
 すでにナイフで、はらわたも抜いてあるようだ。
 そのサバイバル能力に、さすが野生児と感心する。
 その魚がなんなのか俺には分からなかったが、パッと見てニジマスなどににている気がする。
 ニジマスの塩焼きなど食べたことはないが、想像したら無性に腹が減ってきた。
 さっきまで食べなくてもいいと思っていたのに、現金なことである。

「木の枝、いっぱい拾ってきて」

「お、おお。了解」

 オレはキャラ隊長の指示通り、木の枝を適当に拾ってきた。
 食べさせてもらえるなら、何でもしますと頑張った。
 ……が、すぐに怒られた。

「生木はダメ。燃えにくい。乾燥しているのだけ」

「お、おお。了解」

 薪が集まると、魔石というのを使って火をつけた。
 少し先のとがった魔石2つの先端を合わせるだけ。
 それだけで、簡単にそこに炎が生まれた。
 てっきり、木をゴリゴリして摩擦で火をつけるのかと思っていたら拍子抜けだ。
 それでも、直火で串焼きなど初めての体験で、少なからず興奮した。
 その上、焼いた魚は美味かった。マジに!
 塩もなかったのでそのまま食べたのだが、それでも驚くほどに美味かったのだ。

「とれたてをその場で焼いて食べるのが一番美味い」

「お、おお。納得」

 皮はパリパリ。
 熱々でホロホロと魚の身がほぐれ、口に甘味が広がっていく。
 ジュワッと歯茎の裏まで広がるほどの脂も旨みが強い。
 P泊だとどうしても自炊などできないから、その付近の名物などを店で食べることになる。
 しかし、オレはこの魚を食べながら、その場で調理して食べるというキャンプの良さを知った。
 今まで「キャンプなんて面倒」という考えしかなかったが、苦労して食べる喜びもあるのだ。

(よし。調味料と調理具を積むか。……でも、直火できるところはすくないし、だからと言って炭火コンロは場所をとるし、後始末が……。ガスコンロでいいか。でも、ガスカートリッジを……あっ! つーか、アウトランナーならIHコンロで鉄板焼きできるな。あれなら場所をとらないで済むぞ!)

 オレはまた車中泊グッズ購入予定のメモに書き足した。
 帰れるかどうかもわからないというのに、購入予定ばかりが増えていく。
 最初は逃げてきて、戻りたくなどなかった。
 この購入メモもなんとなく書いていただけだ。
 でも、今では戻ってからのことを本気で考えている。

(つーか、現金だな、オレ……)

 飯を食った後、オレはキャラにも体を拭くことと、着替えをすすめた。
 着替えはオレの紺のスウェット生地のパジャマと、ティーシャツだった。
 さすがに下着はなかったので、それだけは洗って乾くまではノーパンとなった。
 もちろん、16才のネコウサ娘がノーパンであることなど、まったく気にもとめなかった。
 しかも、ノーブラであっても、何の問題もなかった。
 胸元の先など気にならなかったし、ズボンの下を想像したりもしなければ、焚き火の側に干した下着に目を奪われることもなかった。

(相手は子供、相手は子供、相手は子供……)

 本当に大丈夫だった……のだが、念のためにキャラには早く電気毛布にくるまってもらうことにした。
 本当に念のためであり、オレにやましさはかけらもない。
 彼女はソファベッドのようになった助手席側で、昨日と同じように寝転んだ。
 そしてまた、顔だけ毛布から見せながらオレを見ていた。

「アウトは一緒に寝ないのか?」

 不意にかけられたキャラの言葉に一瞬、ドキッとする。
 が、その「一緒」が「同時」というだけの意味だと気がつき、かるく咳払いで動揺を隠す。

「おお。ちょっと仕事しようかと思ってな」

 オレは運転席の後ろの席を昨日とは逆にたたんでいた。
 助手席側は後部座席とくっついてソファベッドになっていたが、運手席の後ろの席は潰されて荷室(ラゲッジルーム)とフラットになっている。
 オレは、その少しだけ広くなった荷室(ラゲッジルーム)に座っていた。
 膝に電気布団をたたんで台を作り、その上にパソコンを置いた。
 もちろん、パソコンの電源はアウトランナーからとっている。
 ちょっとしたモバイルオフィスというわけだ。
 さらにオレの周辺には、いくつかの資料が広げられている。
 会社から出る時、嫌がらせとして持ちだした資料だ。
 そして業務用パソコンも持ちだしてしまっている。
 ぶっちゃけ、これは犯罪に当たるだろう。
 でも、あの時はそんなことどうでもいい……そう思っていたのだ。

「もう締め切りも過ぎちゃってるし、帰れるのかもわからないけどさ……。なんつーか、けじめって言うのかな。やり残した仕事、できるだけやってみようかな……なんてな」

 なんとも気恥ずかしくなり、語尾で笑ってごまかしてみる。
 だが、キャラは笑わない。

「……そうか。ガンバレ。仕事ができるようになって、お金をたくさん稼いでほしい。キャラは、そのお金でおにぎりとカップラーメンをたくさん買ってきてくれることを期待している」

「ぶっ! 勝手なこと言いやがって。……まあ、期待してろ」

「うん」

「あ……つーか、すまん。電気もつけっぱなしだし、横でカタカタ音がしたら、眠れないよな」

「大丈夫。キャラはどんな状態でも眠れる。問題ない」

 彼女は言葉の通り、程なく眠った。
 その寝顔を見ながら、ふと「成長に期待する」と言って笑った彼女の顔を思いだす。
 ずっとオレは、「期待」はただの「プレッシャー」だと思っていた。
 相手の身勝手な思いに過ぎないと思っていた。
 だから、「期待」をかけられた時、オレは嫌な気分しか味わったことがない。
 しかし、オレがコイツからされた「期待」は、そうじゃなかった。
 「成果」ではなく「成長」にかけられた「期待」。
 それはなんというか、意欲のわく心地のいいエネルギーなのだ。
 期待に応えたいという気持ちが、胸の奥からわいてくる。
 それは、まちがいなくオレの「力」になっていた。
 そのせいなのだろうか。
 狭い室内に、辛い体勢での作業にもかかわらず、仕事がすごくはかどる。

(……なんか調子いいな……)

 資料のまとめ、レポート化など、そんなオレの大嫌いな単純作業を妙にクリアになった頭がすごい勢いで処理していく。
 そして、疲れてきたら、キャラの寝顔をしばらく見る。
 それだけで、「もう少しがんばろう」という気持ちがわいてくるのであった。
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