挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

13/99

力を与えてくれるから……


 ――つまらない。

 その感情は、いつ生まれたのだろう。
 たぶん、兄貴が入った高校に、オレが入れなかった……そのころから強くなった気がする。
 オレを見る親の視線が変わった気がした。
 兄貴の接し方が変わった気がした。
 どこか、オレはもう「終わった」という雰囲気を感じていた。

 そこからだろう。
 オレは、漠然と高校生活を送り始めた。
 部活もやらなかった。
 これといった趣味もなかった。
 勉強も適当にしかやらなかった。

 大学には行ったが、友達に誘われるまま、よく遊びにいった。
 合コンにも、よく参加した。
 彼女もできたことがあったが、すぐに別れた。
 考えてみれば、それほど親しい男友達もいなかった。
 漠然と生きて、漠然と他人と接していたオレなど、誰も面白いと思わなかったのだろう。
 事実、彼女にふられた時に言われた言葉は、「期待外れだった」という一言。

 そうだ。
 期待されていなかったのではない。
 期待をされるのが怖かった。
 期待を裏切るのが怖かった。
 だから、期待されないようにしてきたのだ。

 大学を出て就職をした。
 半分、オヤジのコネみたいなものだった。
 その職場でも、オレは漠然と仕事をしていた。
 頼まれたことしかやらなかった。
 その内、頼まれたことをやることさえ、ばからしく感じていた。
 適当に、適当に……二年間ほど過ごしてきた。
 もちろん、そんなオレが昇進するはずもなく、同期がプロジェクトを任されたり、リーダー職に就いている中で、オレだけが置き去りにされていた。

 そんなある日。
 オレは、仕事であのトラブルを起こしてしまった。

 仕事をやらなかった。
 それだけのことだと思っていた。
 でも、そうじゃない。

 オレはキャラが車を出ていく前から、ハンドルに額をつけて腕で顔を覆ったまま、顔をあげずに考えていた。

 キャラの言葉に、本当に腹が立った。
 そして悔しく、恥ずかしかった。
 だが、どうしてなのかわからなかった。
 いや。わかりたくなくて、イライラとしていたのだ。

 期待というプレッシャーに潰されたのは自分。
 一度潰されてから、逃げていたのも自分。
 立ち向かわず、何もやらなかったのも自分。
 だけど、誰かに言ってほしい。

 「お前は悪くない」と認めてほしい。

 「お前の言うとおりだ」と同意してほしい。

 「期待した奴が悪いんだ」とかばってほしい。

 でも、それを言ってくれる奴が、自分の世界にはいかった。
 それなら、別の世界なら……逃げてきた異世界なら、そう言ってくれる奴がいるのではないか。
 だからこそ、オレはこの世界に来たのではないのか。
 そう期待した(・・・・)っていいじゃないか。
 そして、オレはきっと、キャラがそう言ってくれると、勝手に期待していた(・・・・・・)のかもしれない。

(うわああああぁぁぁぁ……。もしかしてオレ……最悪じゃねぇ?)

 突然、冷静に自己分析してしまい、恥ずかしさに死にそうになった。
 自分の思った通りのことを言ってくれないからと言って、怪我をした10才も年下の女の子を怒鳴りつけた上に、追い出したのだ。
 しかも、もうすぐ夕方になり、これから危険になっていくというのに。

(…………)

 オレはガバッと顔をあげた。
 もうすでに、キャラは100メートル以上先の方を歩いている。
 よくもあの腫れた足で、あのペースで進めるものだと感心してしまう。
 と思っていた矢先、キャラが倒れた。
 捻挫した方の足を抑えながら、なんとか苦労して立ちあがる。
 そしてまた、まっすぐに歩み始める。

(……本当に最悪だ、オレ)

 オレと違い、逃げずに戦っているキャラ。
 ああ。そうか。
 その背中を見て突然、わかった。
 進むって、こういうことなのか。

 顔を前に向けた。
 そして、アクセルを踏みこむ。
 車は静かに前に進み始め、そしてあっという間にキャラの横に追いついた。
 そして、ゆっくりゆっくり並走する。
 もちろん、いくら静かだとはいえ、キャラはこちらに気がついているはずである。
 しかし、横を見ようともしない。
 完全無視だ。

(…………)

 オレは意を決して、窓をおろすと声をかける。

「よお。やっぱ、乗せてってやるよ」

「……いい」

 キャラはこちらを見ずに冷たく答える。

「つーか、間に合わないんだろう? しかたないから――」

「断る」

 とりつく島もない。
 当たり前と言えば、当たり前の態度だろう。
 オレは仕方なく、アクセルを少しだけ踏みこんだ。
 そして、アウトランナーをキャラの少し前で停めて、車から降りた。

「乗らないんだな?」

「乗らない」

 最後の問いも冷たい回答。
 顔をあげることもない。

「よーし。わかった。つーか、そっちがそういう態度ならば、これだけは言っておく!」

 オレは両足をきっちり揃えて背筋を伸ばし、そして思いっきり頭を垂れた。

「ごめんなさい!」

 一〇〇メートル先まで聞こえたのではないかというほど、腹の底から声をだした。
 さすがのキャラも足をとめる。
 声が大きければいいというわけではないけど、なんか気合を入れて謝ったらこうなった。
 自分的に、ここまで気持ちを込めた謝罪は、今までなかったと思う。
 だが、それだけに恥ずかしさがすさまじく、頭を下げたままあげられない。

「その、なんというか、ほぼ八つ当たりだった! 大人としてはずかしい! 子供にあたるなんて最悪! それに、その、なんだ。キャラの言うことは、すごくもっともで、でも、子供に言われたと思ったら、ついかっとなって。オレがダメなのはオレのせいだし。よく考えたら励ましてもらっていたわけで。でも、子供に励まされたと思ったら、なんかほら……とにかく、すまん!」

 まさに支離滅裂だった。
 とにかく何か言わなければと口を動かしたけど、なんか恥ずかしさで、言い訳がましくなった。
 むしろ、黙っていた方が男らしかったのではないだろうか。
 でも、ついキャラの反応が怖くて、口がとまらなくなってしまった。

「…………」

 しばらくの沈黙が辛い。
 判決がでるまで、オレはずっと頭をさげたまま待つ。

「……ふうぅ~」

 キャラが大きなため息をついた。
 そして、オレの横を抜けて前に歩きだす。

 判決は、有罪だった……。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ