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異世界車中泊物語【アウトランナーPHEV】 作者:芳賀 概夢

一泊目

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モーニングコーヒーと……

 正面に広がる森、その向こうからの暁光。
 柔らかな日差しの熱を感じると、眠っていた体が覚醒していくようだ。
 そして鼻腔に吸いこんだコーヒーの香りも、頭を冴えさせてくれる。
 最近、車でモーニングコーヒーを飲むようになってから、コーヒーがすごく好きになった。
 こうやって開けっ放しの後部(テール)ドアの下に腰かけ、紅日の中で飲むコーヒーがたまらなくよい。
 本当なら、挽きたての香りをこの場で味わいたいぐらいなのだが、豆を挽くのはうるさい。
 せっかくの静かな早朝に、ガリガリとやるのはさすがに気がひける。
 だからオレは、挽いた豆を持ってきて、コーヒーメーカーでドリップすることにしていた。
 今も、荷室(ラゲッジルーム)でコーヒーメーカーが、沸かしたお湯をコーヒー豆に少しずつ注いでいる。
 ぶっちゃけ、電気ケトルがあるから、フィルタさえ用意しておけばコーヒーメーカーはいらないのだ。
 しかし、電気ケトルよりコーヒーメーカーを先に買ってしまっていたので、せっかくだから使わないともったいないだろう。

(つーか、コーヒーメーカーを買った時に、まさか異世界で使うことになるとは思わなかったけどな……)

 しかも、黒髪の美女の代わりに、琥珀色の髪をしたネコウサ娘と車中泊の朝を迎えるなど、誰が想像できようか。
 理想の美人タイプではないが、丸い輪郭が愛らしく、スタイルも良いかわいい女の子だ。
 こんな体験をできただけでも、ラッキーだと思うべきだろう。

「――にゃぴょん!? なんかいい匂い!」

(ただ、食い意地がはってるんだよなぁ……)

「ん? ん? ……おお。おはよう、アウト……むにゅ……」

 相変わらず名前はまちがえられたままだが、垂れ下がったネコ耳と、寝ぼけ眼を腕でこする姿がかわいらしいから、とりあえず「アウト」は「セーフ」とすることにする。

「よう、おはよう。コーヒー飲むか?」

「う~ん……コーヒー(にゃあひぃ)?」

「……おまえ、絶対にわざと間違えているだろう?」

「うにゅ~……。かぁちゃんに、『こうやってまちがえたフリすると、かわいいからモテる』と習った……」

「……かぁちゃん、やり手だな……」

 オレはそう言いながら、ちょうど出来上がったコーヒーを2つの紙コップにそそぐ。
 ただし、片方は少量にして、それを彼女に突きだす。
 できたてで湯気が立っているが、熱くて飲めないほどではない。
 それでも、キャラはまたフーフーしながら、一生懸命飲むのだろう。
 そのシーンを見たくて、オレは少しワクワクする。

「ほれ……」

 キャラは、まだ少しショボショボとしながらも、後部座席の背もたれを器用に乗り越えて、荷室(ラゲッジルーム)に移動してくる。

「ふーぅ、ふーぅ……」

 そして、オレの紙コップを受け取ると、期待通りに一生懸命フーフーしはじめる。
 ネコ耳美少女のフーフー……たまらん愛らしさだ。

「ふーぅ、ふーぅ……」

「…………」

「ふーぅ、ふーぅ……」

「…………」

「アウト……」

「……ん?」

「ちなみに、こうやって『大げさにフーフーした方が、かわいらしくてモテる』とも、かぁちゃんから教わった」

「……うわああああぁぁぁぁぁぁ!!!!! 見事な作戦、授けやがって! おまえのかぁちゃん、こんちくしょう!」

「ふーぅ、ふーぅ……」

「くっ……。オレの男心を弄びやがって!」

「……ということは、キャラをかわいいと思ったということか、アウト」

「なっ、なんという屈辱。一〇歳も年下の小娘に!」

「ふーぅ、ふーぅ……」

「…………」

「ふーぅ……。かわいいか?」

「べ、別に……」

「ふふん。……さて、いただきます。……アツッ! しかも、にがぁ~い!」

――キューン!!

 コーヒーを飲めないその姿に、オレのハートは鷲掴みされた。
 慌てた様子に、顰めた顔まで愛らしい。
 この表情の作り方も、もしやキャラかぁちゃんのレクチャーか?
 ならば、キャラかぁちゃんの作戦は完璧だ。
 しかし、オレはロリコンではない。
 これはあくまで、子供を愛でる大人の愛情である。
 本当である。

「アウト、これ苦くてまずい。こんなまずいのを喜んで飲むなんて、アウトはマゾか?」

「なんてこと言うんだ、貴様。異世界のコーヒー好きの皆さんに謝れ!」

「ごめん」

「……す、素直だな。つーか、これは大人の味だから子供にはわかんねーよ」

「キャラはもう大人。成人した」

「そうか。まあ、それはともかく、ちょっと貸せ」

 オレはキャラから受け取ると、ほんの少しのコーヒーの中に、用意していた秘密兵器を投入した。
 もちろん、この展開は予想通りだ。

「……その茶色い粉はなんだ?」

「非常に甘くおいしくなる魔法の粉だ」

「砂糖か?」

「ふん。そんな単純なもんじゃねーよ」

 そう言いながら、オレはたっぷりの魔法の粉の上にお湯を追加して、スプーンでかき回す。

「魔法の粉……。そういえば、隣のオジサンが、『魔法の粉を使うと、夜の夫婦仲が円満になる』と言っていたが、それか?」

「……かなり違う」

「では、もう一つ見せてくれた、『気分がハイになる』という白い粉の類か?」

「ちゃうわ! つーか、もうそのオジサンと、縁を切れ! 子供に何を教えてんだ!」

「キャラは子供じゃない」

「ああ、わかった、わかった。つーか、そんなお前にぴったりなの、作ってるから待ってろ」

 そして、十分に溶けたのを確認してから、温度を下げるために少しだけ水を足した。
 かき混ぜたスプーンで一口、味を見る。
 ほどよくできたのを確認して、オレはそれをまたキャラに手渡した。

「にゃぴょん!? すごく甘い香りがする!」

「これぞ、簡単カフェ・モカだ。魔法の粉は、インスタント用のココアだ。飲んでみろ」

「……!! にゃぴょん! うまい! カフェ・モカ(かぴょ・にゃか)、うまい!」

「そこまで無理に媚びんでよろしい。……まあ、甘いけど、少しほろ苦くて、ちょっと大人の味だろう? 本当は牛乳があると、さらに美味いんだけどな」

「……ふふふふふ」

「……どうした?」

「この味がわかると言うことは、キャラは大人の階段をやはり登っていたのだ」

「……そうか。よかったな」

 今後も飲ますことがあれば、本当の大人の味を教えるため、コーヒーを少しずつ強めてやろうと、オレは心に誓った。
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