第8章:「若き賢人」
イオとルージュ、2人が戦い終えた時には他の教師たちも一息ついていた。
もちろん襲撃者達の遺体は傍にあったが。
「まったく、しんどいな」
戦い終えた教師たちは疲労の色を見せ始めていた。
その頃、イオを含めた4人は校長を探しに走っていた。
「校長先生に用があるみたいだけど、なにかあったのかい?」
イオが3人に尋ねる。
「うん、とっても重大なことがね」
ヴェントは答えた。
「あ、あれじゃない?」
声を上げたネピアの指さす方向には数人の生徒と校長が立っていた。
「校長!お怪我はありませんか?」
イオが駆け寄った。
生徒たちは怯えきっている。
それもそうだ、とルージュは思った。
「大丈夫だ」
校長はそう答えたが、体にはいくつか傷を負っていた。
おそらく生徒たちをかばいながら戦ったのだろう。
中には深そうな傷もある。
「他はもう終わったのか?」
校長は続けた。
学園のグラウンドは静けさに包まれている。
それはまるで波が去った後の静寂であった。
後に何か控えていそうな。
「ええ、おそらくですが」
そう言いながらイオは生徒たちを校内に誘導し始めた。
「校長先生!話があるんです」
「校長先生は怪我してるから、その話はまたの機会に・・・」
イオがヴェントに話し始めたが、ヴェントは止まらなかった。
「これはほんの序章に過ぎないんだ!この後にもっとたくさんの敵が入ってくるんだよ!しかもそれが1週間後なんだ!」
「なぜ君がそんなことを知っているんだね?」
説明の仕方に困っているヴェントのもとにルージュが歩を進める。
「その敵はヴェントと接触したらしいですよ。何らかの能力を使って」
「おお、君は・・・黒の―――」
「ルージュと言います」
「ふむ、ルージュ君、その話に確証はあるのかね?」
ルージュも校長も体に傷を負っていたが、どちらもこの話は重要だと感じていたのでそのまま会話は続けられた。
「それは・・・ヴェントが伝言を任された相手の顔を覚えていること、さらには、ヴェントが相手の能力によってどこかへ飛ばされ、こちらに戻ってくる時に"現れた"のをオレとネピアは見たはずなのにその記憶がないこと。おそらくそこまでが相手の能力でしょうけど。これらがすべて幻だったとは言いにくいんです」
「そんなことがあったのか」
イオも驚きの色を隠せない。
「なるほど。それで相手の伝言が、1週間後に本隊が攻め入る、ということかな?」
「そうです」
「それでは早々に対策を立てねばいけないな」
校長はそう言葉を残すと残った教師たちに支持を出し始めた。
「とりあえず現状はこの騒ぎを収めなければ何も出来ん。話はそれからだ。他の生徒たちもいるから君たちは校内に戻ってなさい」
どうやら生徒たちは皆校舎に避難していたらしい。
同じように3人は校長の指示に従って校内に入って行った。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
それから何時間か、生徒たちは自分たちのクラスで待機していた。
教師たちはというと、もちろん"掃除"だ。
奇跡的にこちらに死者はいなかったらしいが、この戦闘は他の被害をもたらした。
「怖い」
大体の生徒たちはいくら時間が経とうが恐怖を拭いきれないでいた。
この時点でそれぞれの生徒の役割は決まっていたといえるだろう。
そう、戦闘の中で恐怖に怯えた時点でもう"前線に出る"という選択肢はなくなっていた。
もちろんすべての生徒がそうなったというわけではないが、少なくともルージュ達のクラスにはルージュとヴェント以外に恐怖に耐えきっている生徒はいなかった。
ネピアも含めて。
そこへイオがヴェントとルージュを呼びに教室に入ってきた。
「2人とも来れるか?」
「もちろん」
―――校長室に入るとそこには全教師と校長が座っていた。
「うわっ、空気重っ」
「そりゃそうでしょ」
2人はこそこそと話をしながら設置された椅子へ歩む。
「さて2人とも、もう一度はじめから話してくれないか?」
正面に座る校長が柔らかにいった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
―――ルージュが話し終えると教師たちにざわめきが起こった。
「これは俄かに信じがたい」
「だとしても無視するわけにはいかないな」
教師陣の中で様々な意見が飛び交ったが、そこへ校長がある1人を呼んだ。
「君はどう思うかね?セレ君」
「セレ?」
ヴェントが向かってくる足音を辿ると、そこには1人の青年が立っていた。
教師陣に交じって。
「私の意見をお求めですか?校長先生」
「うむ、君の意見を聞きたいのだ」
その青年はルージュとヴェントより少し背が高いらしかった。
顎近くまで届きそうな前髪、そして後ろに流れる砂色の横髪が神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「そうですね、まず前提として、黒髪の彼の話が真実だったとすると、早急に体制を立て直すことは必至ですね。なにより、もう使えない生徒はすぐに隔離し、できるだけ敵から遠ざける、その中で前線に出られるものだけで小隊を組み、敵の通ると思われる箇所にトラップを仕掛けるべきしょう。今から態勢を立て直したところで先の隊が様子見程度の敵だったとすると正々堂々やったところで惨敗は見えています。つまり、今回は敵を"潰す"ではなく、"削る"ことが優先されるかと。もちろん学園は捨てるしかありません。他の拠点を探さなければ」
「ふむ、そうかもしれんな」
校長が相槌を打った。
そのセレと呼ばれた青年はさらに続けた。
「そして第2に、先の話が相手側のハッタリだという場合ですが、これはさらに厄介ですね。まんまとハマってしまうと相手の思うつぼです。なぜなら、こちらが1週間という期間で態勢を立て直し、相手の攻撃に対応するにはかなりのスピードを要します。それ故こちらの注意を敵にむけることができません。そしてその間に敵に新たな策を練られ、また違う奇襲をかけられる恐れがあります。そのままではこちらが徐々に削られるだけです」
静かに彼の言葉を聞いていたヴェントだったが、イラ立ち始めたのか少々声を荒げて言った。
「じゃあどうしろというんだ!?どっちかわからないじゃないか!」
「つまり貴方にその伝言を伝えた者が馬鹿ではないということ。が、切れ者、というほどではありませんね。今言ったのは彼の話を総括して可能性を述べたものですが、そろそろ私自身の対応策を言ってもいいでしょうか?」
「うむ、聞かせてくれ」
校長はこのセレをかなり信頼しているらしい。
ルージュはその理由を大体理解していた。
「まずここにいらっしゃる先生方は半分に別れていただきましょう。片方は・・・そうですね、この学園の周りにできる限りのトラップを仕掛けていただきましょうか。そしてもう一方は、さらに半分に分け、南西側と北西側へ情報収集に行っていただきましょう。行動は明日の朝からです。トラップ側の人にはその作業が終わり次第さらに指示を出します。情報収集の方たちは宣言された日の2日前にここへ戻ってくるようお願いします」
言い終えると校長が指示を出した。
彼の言った内容で。
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・・・・・・
「なんだったんだよアイツ」
「知らない。ただ彼は君と違ってかなりの"切れ者"らしいね」
ヴェントはむすっとした表情をしたが、それはすぐにルージュじゃないほうへ向けられた。
「やぁ、先はすいませんでしたね。1人で話してしまって」
高そうな絨毯のひかれた廊下の角からセレが顔を出した。
「いや、気にしなくていい。君は頭が切れるらしいね」
ルージュは返答した。
「少々ですがね。そういう貴方もきっと私とは違った"知性"を持っているんでしょう?わかりますよ」
「頭が良い人の勘ってか?」
不機嫌そうなヴェント。
「君だって何か隠しているのでしょう?自分だけ隠すのは良くありませんよ」
セレは微笑みながらヴェントに言った。
そしてそのまま続ける。
「それに私にだって解けない問題はありますよ。しかし、それを見つけて喜ぶ私がいる。そしてそれをクリアするごとに物事がゲームだったような気がしてくるんです。世界という出題者と人間という回答者。いつか私は世界を解いてみせる。近頃そう思えて仕方がないのです」
「これもそのうちの1つだってか?」
「どうでしょうね」
ヴェントとセレは話をしていたが、ルージュはいきなり歩き始めた。
「どうした?ルージュ」
「なんでもない。・・・そうだ、セレとかいったか、君に1つ忠告しておいてあげよう。」
「なんでしょう。ルージュさん」
「・・・ゲームには"裏技"があることを忘れてはいけない」
「・・・そうですね、覚えておきます」
砂色髪の青年はルージュの背中を見つめた。
彼が見えなくなるまで―――
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