第65章:「裏歴史、始動」
「ふむ。どうやってココまで来たかわからなくなったぞ?レン」
「・・・あっ」
2人は気づいた。
無我夢中で走った故に、道、また道標すら忘れてしまったことに。
「し、しまった。こういう時にセレが必要なのに・・・」
「ど、どうしようっ」
「・・・どうしようもないな」
「ですね・・・」
ルージュは凄まじく鋭い思考と、もうひとつ、周りから見たら一種奇妙に見える天然性を持ち合わせていた。
比較的合理的で、冷静な判断を下すルージュと、ヴェント達とユーモア溢れる行動に出るルージュ、不思議な二面性があった。
今はもちろん天然だった。
脳裏では"しまった"と自覚しているのだが、如何せん思考が緩い。
同時に、それはレンにも言えたことで、いま2人は非常に困った位置にいた。
ふーむ、としゃがみながら考えるルージュ。
同じくレン。
はたから見たら、非常に奇妙な2人組だった。
「さて・・・本当にどうしようか」
「はい・・・。とりあえず歩いてみます?」
「・・・そうだね」
このゆるい感じは、ルージュ、そしてレンが、ひと段落して安心できた証拠でもあった。
ヴェントは生きていて、セレも大怪我をしたが一命を取り留めている。
ネピアの精神崩壊らしき症状も気になるが、同じく命はある。
もちろん戦争は始まったばかりで、これからのことを考えるとゆっくりしてはいられないのだが、漠然とした目的は、眼前に迫っていた大きな悪意に比べるといささか小さなものだった。
歩き始めた2人は、とりあえず、森の方へ歩いて行った。
周りの様子を探りながら、できるだけヴェント達の元へ続く道の手がかりを探す。
走ってしまっては、道を間違えた時に、取り返しのつかないことになる。
とりあえず早く仲間の元へ戻りたいと言う思いはあった。
なおさらだ。
冷静に判断しなければ。
多少ルージュに思考が戻った。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「一応手当は終わったことだ。また奇襲があるかもしれない。ヴェント。おれは周りを探ってくる。2人を預けてもいいか?」
「ああ・・・」
「・・・」
明らかにヴェントは疲弊し切っていた。
肉体的にも、精神的にも。
見かねたヘルメスが声をかける。
「無理に元気を出せとは言わないが、その2人はお前の仲間だ。いざというときそいつらを守れるぐらいの元気はとっておいた方がいぞ」
「・・・わかってる」
明るく、ひょうきんであったヴェントは、最近笑っていなかった。
笑顔が取り柄、と言わんばかりの明るさは、近頃出ていなかった。
自分自身でそれに気づく。
ヴェントの持つ暗黒面が、躊躇を知らずに出てきているような、過去の悲しみが蘇るような、暗い胸中。
くそっ。
何をしているんだ俺は。
しっかりしろ。
お前が守らなかったら誰がこいつらを守る。
だから、俺がどうにかしなければ。
くそっ。
暗いぞヴェント。
そうだ、しっかりしろ。
「わかってるさ」
最後にそう口に出すと、ゆっくりと2人を地面に寝かせ、立ち上がった。
「まかせろ!俺に!いくらでも守ってやるさ!!」
少し、明るい笑顔が戻っていた。
木陰に隠れ、様子を伺っていたヘルメスは、嬉しそうに笑い、ようやく探索に出た。
本人が気付いているかは置いておいて―――
彼は本当に・・・誰よりも面倒見がよかった。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「ふむふむ、どうやら皇帝様の奇襲はうまくいったようですね。良いことなのか、それとも悪いことなのか。判断しかねます」
「どうして?シグラ」
「ふむ、いいデスか、よく聞きなさい、ディア。第一にワタシ達の目的は何だったでしょう」
「ん〜と―――」
「そこは即答デスよ」
「あ!」
驚いた様子でディアは背伸びをした。
気づきましたか、と優しく言いながら、シグラは答える。
動くたびに、彼の白銀の髪は美しく舞った。
「マキナ皇帝の抹殺ッ!!」
あー、とシグラは残念そうな声をあげ、俯いた。
よくも国内でそんなことをしらじらと言える。
素直である証明だが、なんとも扱いづらい。
もちろんディアの事は嫌いではなかったが、これから教育するにあたって通過しなければならない苦難の数々を見た気がして、多少の嫌気がさした。
「いいデスか、ディア。第一の目的は"鍵"の奪取デス。ワタシ達はそのためにここに潜伏しているのデスよ。で、鍵を持っているのは皇帝なのですから、彼に隙ができればさっさと奪うことができる。そのために力を使って軽い洗脳を施し、戦争を起こした。ここまではわかりますね?」
「んーん?わからないや」
もう一度ガクっと肩を下ろした。
「もういいデス」
「あ、シグラ〜怒ってる?」
「怒ってません」
「む〜。とりあえずアレでしょ?」
「アレ?」
ちょっとだけ期待した。
「皇帝の抹殺ッ!」
あ〜。
期待したワタシが馬鹿だった。
そう言って、すぐさま踵を返した。
「ほら、とにかくパエトンを迎えに行きますよ。下で猛獣の如く唸っている彼を」
「うんっ。ヘルダイムみたいだね!パエトン」
「まったく。どこでそんな単語を覚えてくるのだか。ヘルダイムなんて本物の化け物の名前を」
嬉しそうにディアは笑い、シグラの横をとてとてと駆けて行った。
溜息をつき、すぐに少女を追いかけた。 |