第63章:「掴んだモノ」
視界、良好。
感覚、異状なし。
意識、もちろんある。
後は置かれている状態を把握して行動を起こすだけ。
そこでルージュは大きく息を吐いた。
「檻かよ」
ち、とバツが悪そうな態度をし、起き上った。
周りには何もない。
四角形の空間に黒こげのまま突っ込まれていた。
体についたススを払う。
もちろんさっきまできていた服はギルバートの雷に打たれてことでボロボロだ。
(替えはないかな)
至って人間らしい対処。
その思考が瞬時に出てきたことに、ルージュは嬉しくなった。
「オレは、人間でいいんだ」
はたから見ればこいつは何を言っているのだろうと思うだろう。
だがそれがルージュにとっては何よりも嬉しかった。
深い井戸の中から出れたような、すがすがしい気分だった。
「親父・・・か」
それに意識の中で、確かに会話したあの人物。
人物かはわからないが、どうやら彼が自分の生みの親だということは、完全な確信をもって理解できた。
それも嬉しくなった。
嬉しい、という感情が、普通に出ることにも感動した。
もしかしたら、親父がより人間らしい何かを付け加えたのかもしれない。
だがその分、自分に纏わりつく使命が、さらに色濃く、眼前に現れた気がした。
自分がするべきこと。
自分が誰がために作られたか。
なんのために作られたか。
具体的にではないが、なんとなくわかった気がした。
悲しくはなかった。
「さて、と。散々やってくれたな」
多少のやり返した感はある。
憎悪に溺れたあの時の自分も理解できる。
一応その時の目的は果たした。
前を向こう。
ここでじっとしているわけには・・・。
「ル、ルージュ?」
声がした。
ばっ、と上を向く。
檻特製の鉄の天井に何かが煌いた。
それは刀だった。
ばらばらと奇麗に4等分されたブロック状の鉄が落ちてくる。
天井裏には、レンがいた。
控え目な、それでいつもの芯が通っている声で呼びかけた。
恐る恐る。
「大丈夫だ。"戻った"よ」
「よかった!」
パァっと顔を明るくさせて、飛び降りてきた。
何やらこの女も何かが吹っ切れたように、明るくなった気がする。
と、落ちてきたレンをルージュは受け止めた。
顔を赤らめるレンはボソッっと言った。
「やってみたかったんです」
「別にいいじゃないか」
笑顔を返すルージュ。
レンは本当に嬉しそうな顔をして、腕から下りた。
(なぜか、レンの前だと正直になれる)
それは彼女も同じだろうか。
そうであってほしい。
ルージュはそう願った。
「よし。で、レン。脱出路を教えてくれ」
「・・・」
レンは答えない。
「忘れたのね」
「・・・無我夢中だったんです」
赤い顔をさらに赤らめて、そう言った。
肌が白いだけにより顕著に現れる。
「まぁ、いい。どうせなら正面突破してやろう」
「あの、セレさんの―――」
「ああ、やっぱりここだった。やっぱりっていうかなんというか、オレも必死だったもんで覚えてないが、ここが蠍の本部というのは間違いない」
よいしょ、と言って立ち上がるルージュ。
すると、そこでようやく気づいたようにレンが目を背けた。
またボソと呟く。
「あの・・・服・・・」
「ん?ああ・・・」
ルージュは一言謝り、そこで待ってろ、そう言って檻の鉄格子を楽々吹っ飛ばした。
吹っ飛んだ鉄格子は壁に当たり、大きな音を立てる。
「あ・・・しまった・・・加減が・・・」
「意外にルージュってドジですよね」
「レンがいうかよ」
ちょうど隣の檻に使い古した囚人服のようなものがあったので、拝借した。
「よし、来い、レン」
そろそろと壁越しから見るレン。
「大丈夫だから。ほら」
服を着ていると強調した所で、ようやく彼女はついてきた。
先の音を聞きつけて、数人の蠍が駆け付ける。
だが彼らは一向にルージュの姿を目視できない。
だのに一人、また一人と人が倒れていく。
物影から飛び移る何かに対応できない。
かけつけた数人の下っ端はついに全員倒れた。
「ギルバート―――蠍の長がどこにいったかわかるか?」
「おそらくだけど、地下に向かったみたい。貴方が彼の左腕を吹き飛ばしたから」
「なるほど、治療か」
「どうするの?」
「まぁここに長居する理由もないし、このままずらかるか」
「うん」
ルージュが閉じ込められていた場所も地下だった。
ということは、ギルバートがいるのはもっと地下。
思った通りと言えば思った通りだが、おそらく本拠地はもっと地下で、上に存在する新聞社は、ベタすぎる仮の姿。
ふん、と鼻で笑い、2人は階段を上った。
「随分寝てたみたいだな」
外へ飛び出し、まっ先に感じたのは、時間の経過だった。
「夜・・・」
「・・・気付かなかったのか?」
「無我夢中で・・・」
「クク、おもしろいな、レンは」
「え?」
「ほら、置いてくぞ」
「あ、ちょ、待ってよ!」
「ははっ」
ルージュは心底嬉しそうに笑った。
追いかけるレンは、それにつられて笑い、自分が過去より遙かに幸せな境遇にあることを、改めて感じた。
嬉しくなり、楽しくなり、ルージュに追いつくと、彼の手をとった。
「おい、なんだよ」
「照れなくていいんです」
「・・・ふーん。照れてるのはレンの方だと思うけどね」
またおかしそうに笑うルージュ。
実際照れてるのは彼も同じだったが、つないだ手は離さなかった。
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