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Fate of color
作:ミラ



第59章:「我らが神に、栄光を」


「馬鹿なっ!!」

いかにも古く、由緒正しそうな机を殴るように叩いたのは政府上層部の役人。
盤上に多少の傷が入った。

「甲炎狸だと!?」

大ホールにざわざわと少しずつ声が広がっていった。
つい数分前、ほぼ緊急事態の時にしか使われない諜報部最速の鳥、シュナイザーがホールに飛び込んできた。
優雅に、しかしきびきびと中央の円形テーブルに着地すると、まるで人間がそうするように足にまかれたまっ白い用紙を差し出す。
中央テーブルに居座っていた白鬚の老人が即座に受取り、数秒で驚愕の表情を浮かべ、読み始めた。

『甲炎狸の軍勢が国の内部に侵入した。早急に対策を立てよ。その時間はわれらが先んじて犠牲になることで作る。必要とあらば少数の国民を犠牲にする覚悟を持った方がいい次第』

速筆で描かれたことが瞭然とする文字だった。
だが要旨はしっかりと記され、それがどれだけの数、驚異なのかが鮮明に伝わってきた。
徐々に政府上層の役人達が真剣な顔つきになった頃、突然、うち1人が大声をあげた。

「学園の者たちを行かせればいいのでは?」

一層ざわめきは大きくなる。
中央の老人は即座に答えた。

「ならぬ」
「なぜっ!?」
「そのあとに大勢で突っ込んでくる色術師の部隊を、彼らなしで止められるのか?いや、止められないだろう。確かに甲炎狸はかなり厄介だ。だがよく考えてみろ。それ以上に訓練された色術師の方が圧倒的に厄介ではないか」
「く・・・」

彼は特に学園の部隊を東部に配置することを抗議した。
その様子を見て、ホール内のうち何人かがひそひそと話している内容は、彼が東部の外壁を守ろうと固執する理由には十分だった。
彼の家族はロワ・エスカリエの最も東の外縁部に暮らしていたのだ。
容易に予想できる。
彼の家族はもっとも早く甲炎狸の群れに"轢かれる"だろう。
これ以上話しても無駄だと思ったのだろう。
男は無言で、しかし怒りを露にして、ホールから走って出て行ったしまった。

「ベル!!待てっ!」

数人が声を上げた。
彼を見る目でわかる。
今出て行ったベルという男の友人だ。
それも深い仲の。
まるで自分の事のように、彼らは苦しそうな顔をしていた。
みな同じで、考え込むように下を見ている。
と、そのうち1人が中央の白鬚を一瞥し、席を立った。
すると彼も無言でホールから出て行った。
比較的2人とも若かった。
ホールの老人たちは小さな声で"談笑"した。
そう、何人かは笑っていた。

「血の気の多いことよ。若気の至りなり」

それでも真剣な顔をしているもの方が断然に多く、談笑していた老人たちはむしろかなりの少数派だった。
その中のある老人が声をあげた。

「外縁部の国民は犠牲にしたらどうです?無理に守って内部に支障をきたしたら存外良い結果にはならないと思いますが・・・」
「・・・限界だ」
「?」
「エルワード辺境伯、すまないがそこの"笑っている"老人どもを外へ連れ出しては頂けないか。スラムにでも放り出していただけるとより幸いである」
「任せてください、ネーベルスタン伯爵、のちの大司教様。私も堪忍袋の緒が切れてしまう寸前でしたから」
「変な位をつけ加えるでない。未来など誰にも予想できぬ」
「軽率な発言をお許しください。それでは私は―――」

その若々しい貴族の男は屈強な体をしていた。
軽々と3人の老人をつまみあげ、多少の慈悲ともいうべき優しさを行使しながらホールの外へ消えていった。
さわやかな身なりのエルワード辺境伯が、未解決な国の管理により蔓延ってしまった忌まわしき政府の泥を持ち運んだあと、小言を交え、すぐに会議は始まった。

「真にエルワード辺境伯は素晴らしい人柄であるな。性格にもさることながら、彼の容姿はさぞ女子を惹きつけるであろうに」

確かに彼は又といない好青年だった。
はきはきと、礼儀を知る性格。
優しさにも充ち溢れ、しかし絶対的悪事には厳しい態度を見せる。
背の高い屈強な体をしていて、ほぼ黒に近いダークグレーの髪の毛をオールバックにしていた。
武術にも長けており、知もなかなかにある。
今の時世、若い上での彼のような人材はなかなかいなかった。
戻ってきたエルワードを、ホール中央に位置するテーブルの、"白鬚"ネーベルスタン伯爵が一瞥し、幕が明けた。

「さて、それでは始めよう。すべてを救う方法を論ずる会議を―――」

これにて両国は完全な臨戦態勢となった。
やや出だしの遅くなったロワ・エスカリエだが、人材、科学的武力では未だに劣ってはいない。



火花は散った。



これからの情勢は何人たりとも予想し得ない。

神すらも。

東国をつかさどる"黄の神"。
中央国をつかさどる透の神"。

過去の神々の歴史では、民を作る、という計画で同志の契りを結んだ仲。
この戦争の縮図。
元をたどればそれは・・・




"黄の神"の反逆であった。




そう、これは神々の戦争。
民はそれを知らない。
・・・いや、本能的に理解しているのかもしれない。
行進する大勢の兵隊。
ついに声をなり、大地を凌駕した。









「我らが神に、栄光を」







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