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Fate of color
作:ミラ



第56章:「一筋の後悔」


「この道しかないんだなっ!?」
「ここが人が通れる限界の道です」
「わかった。急ぐぞ」

走りながら問答をしているのはルージュとレン。
思えば宮殿内でひと悶着あったものの、今は万事ゆるりと流れていた。
当初敵対していた2人には、何か、強いつながりがあった。
それにヘルメスを加えた3人は、道と言えそうにもない、でこぼこした土を次々と飛び越えていた。

「本当にこんな所を通ったのか?」

後方に注意を配っているヘルメスが訊ねた。
右手にはすでに短剣が握られている。

「セレがいるんだ。まさか"普通の道"を使って迂回するなんていう、暗殺者達のカモみたいな行動はしないだろう」
「だがあいつは"今は"そういう裏の事情に詳しくないじゃないか」
「オレが言っておいた。セレは頭がいいから言えばそれで済むんだよ。まぁ確かにセレの好奇心と探究心があればすぐに詳しくなるだろうね」

ヘルメスが強調した言葉にも丁寧に答えるルージュ。
今だに焦燥の色は消えないが、現状では走ることしかできない。
気を紛らわすためにもヘルメスの質問に答えるのは都合が良かった。

(よぉ。ここのところ俺の出番がないな)
(宮殿でたくさん食っただろ)
(違う違う。もっとこう―――)
(いわゆるあんな雑魚との戦闘じゃなくて、もっとギリギリの状況で使われたい、と?)
(そう!それだ!体が鈍って仕方がない。横の女もそう言ってるぞ)

それがファフニールの事なのか、それともレンのことなのか、いまいち判断しかねたが、彼女が喋り出したことで判断できた。

(私は鈍ってなんかないわ。そんなやわな作りをしていないもの。それより貴方が鈍っているのはもともと欠陥品だからじゃないのかしら)
(ふん、相変わらず口の減らない女だ)
(人の事は言えないでしょう)

ルージュは"どっちも人じゃないだろ"という突っ込みをしないでおいた。
この会話に口を突っ込んで巻き添えを食らうのは存外厄介だということを、ここ最近学んだのだった。

(まぁいい。ルージュ、もう少し過激なヤツに出くわした時に使ってくれ。こっちだって使われると一応疲れるんだ。あんな雑魚共はお前の蹴りで充分だろう)
(私はいつでもいいわよ。この人みたいにサボり魔じゃないし。ね?ルージュ)
(わかったから2人とも今は引っ込んでいてくれ)

会話に合わせるように、多少なだめながら言った。
どちらにしろ、この双銃の願いはすぐ叶うだろう、と確信めいたものもあった。

「ルージュ、あそこに誰かいる」

慣れないためか、照れくさそうに名前を呼び、話しかけた。

「どうした?レン」

開けてきた視界。
目の前には左側が欝蒼とした林で覆われた道が見えた。
と、ルージュは猛烈な速度でその道に飛び出した。



「ヴェントッ!!」



道の真ん中にうつぶせで倒れていたのはヴェントだった。
と、すぐにもうひとつの影を見つける。
ヴェントのすぐ横で黒装束の人間が同じように倒れていた。

「横のは誰だ?」

その光景を代弁するかのようにヘルメスが言った。
まっさきにヴェントのもとへルージュが駆け寄り、その後周囲を警戒しながら2人が寄る。
ヘルメスは奇妙なものでも眺めるように隣の女をじっと見つめた。

「大丈夫か!ヴェント!」
「おい、ルージュ」
「待ってろヘルメス!ヴェントの安否が先だ!」
「こいつ・・・"蠍"の人間だ」
「!?」
「例の武器を持ってる。戦闘では使わなかったようだな」

例の武器。
蠍の持っている特殊な武器。
ある程度裏の世界で生きてきたルージュとレンにはすぐに思いついた。
ふとルージュの目が冷たく、暗く、沈んだ。

「ん・・・」

ヴェントをレンに預け、女に近づこうとした瞬間、"まったく同時に"倒れていた2人が声を上げた。



ガチャ。



「動くな。喋るな。指一本でも動かせば撃つ」

ヴェントの方を向きながら、真後ろにブリューナクを向けた。
一挙動で立ちあがっていた蠍の刺客は、両手に握ったダガーを振り回そうとする瞬間だった。
だが、それに気づくと同時に銃口を向けたルージュに軍配は上がった。
そのすぐ後、気配もなく後ろからヘルメスが現れ、女の首元に冷たく光る刀身を置いた。
その状態のまま、ヴェントにネピアとセレの行方を尋ねた。

「2人はどこ?」

まだ意識がはっきりしていないのか、ヴェントは口をパクパクさせながら必死に体を動かしていた。
耳を近づけ、何を言っているのか聞き取ろうとする。

「もう2人は逃がしちゃったわね。今頃他の蠍に殺されてるんじゃない?」




その言葉が女の最期だった。




何の躊躇もなく、ルージュが引き金を引き、ヘルメスはダガーを走らせた。
鮮血と共に伏す女は不自然に微動していた。

「ヘルメス。ヴェントを頼む」

返り血を浴びているヘルメスに一言そう言うと、ルージュはレンを連れて走り出した。

「ついてこい。刀は抜いておいた方がいい」
「はい」

緊張した面持ちのルージュを見、レンもかしこまった様子で答えた。
深く考えずとも、彼の猛烈な焦燥と、何かしらの後悔が感じ取れた。
彼にとって大切な何かが、今、壊れる瞬間なのだろう。
まるでそれが自分のことのように、レンは心を締め付けられた。
ルージュの走る速さが増していくのに、レンは無言で合わせた。







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