第55章:「それぞれの想い」
「校長!!政府から"令状"が届きました!」
「戦争・・・ですか」
「なぜわかるのですか?」
「私たちが国から必要とされている。それがすでに忌むべき宿命なのですよ。私たちはつまり、戦争の道具、その中でも最も使い勝手の良い、最良の道具なのですから」
「・・・」
大きな窓の外に広がっている暗い空をみながら、つぶやいた。
もって生まれた力。なんと忌むべきものよ。
なによりも彼にとっては子供達を巻き込んでしまうことに強い罪悪感を感じていた。
「ふぅ。上層部直属の令状とあらば逆らうわけにはいきませんね。緊急で職員を集めなさい。会議を開きます」
「了解しました!」
駆けていく一職員を一瞥し、天を仰いだ後、彼も動き出した。
・・・・・・
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「離して!!離してよバカッ!!」
ポカポカと自分をつかんで離さない青年を叩く少女。
溢れんばかりに涙が眼から噴き出している。
「セレっ!離してっ!!」
ひたすらに無言で応じる長身の青年は、友に託された宝物を絶対に離さなかった。
彼女が何度"離して"といったからわからない。
そのたびに心が痛むのは彼とて同じだった。
ばたばたと全身を使ってセレの背中から飛び出ようとするネピア。
しかし、女であり、かつただでさえ細いネピアにはどうやってもその呪縛から逃れることはできなかった。
「ねえ!セ・・・」
彼女は言いかけた。
すでに数十回と言っている言葉を。
理由はセレの顔だった。
あまり体力に自信がないセレが、軽いと言えど、ここまでネピアを背負って走れたのはひとえに彼の精神力の賜物だった。
ボロボロの足がもつれ、体が傾いた時。
ネピアは彼の横顔を見た。
涙でぐしゃぐしゃになったセレの顔を。
転びそうになる体を気力で立て直し、最初とは比べ物にならないくらいゆったりとした速さで、また駆けだした。
(セレ・・・)
「私は・・・」
突然彼が口を開いた。
「私は、貴女を死なせるわけにはいかないのです」
おぼつかない足取りと、絶え絶えな息をもらしながら続ける。
「見ての通り、私はルージュさんのような体力も持っていないし、ヴェントさんのように体を張って仲間を守れるような勇気もない」
「そんなこと・・・」
「いいんです。自分でもわかってることですから。ですがね、私にも意地はあるのですよ。ネピアさん。友に託された宝物を、易々と奪われてしまうようなら・・・私は命でもってそれを奪い返します。ルージュさんに出会った当初、私は彼に忠告をされました。いわば何事も理性と合理性で解決できると思うな、というような。今それを知りました。ネピアさん、私は意地でも貴女を守り抜きます」
セレがこれほどにも強く、意志を表すのは珍しいことだった。
だが数瞬して彼の言動の理由を知る。
「そんな・・・」
ネピアは絶望めいた声を出した。
セレの足もゆっくりと止まる。
彼は覚悟していた。
そして今確信する。
自分たちがどれほど重大な使命を持ち、それゆえにどれほど命を狙われているのかを。
眼前には、数人の黒装束が、身を隠そうともせずに立っていた。
「蠍・・・」
じりじりと後ずさりし始めるセレ。
(逃げられない)
走れないネピア。
満身創痍の自分。
どれをとっても命を落とすには十分すぎる要素だった。
すでに理性は薄い。
彼にもしっかりと本能があった。
すべきことは・・・
(全身全霊をもって、彼女を・・・マモル)
半ば荒々しくネピアを地面に下ろす。
後ろに刺客がいないことを確認し、セレはネピアの前に立ちはだかった。
震える足。
震える手。
理性すらすでに吹っ飛んでいる。
頼りない右手のナイフを強く握りしめ、呟いた。
「世界に散らばる七神よ。私に力添えしてくれる神がいるのなら、今、すべてを守る力を・・・」
恐怖。
目に雫が溜まったが、彼はそれを決して流さなかった。
涙すらも、何もかも、彼女のために・・・。
「マモル。自分を犠牲にしてでも」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「抜けたか!?」
鋭い声が壁の内側から聞こえてくる。
高い壁に囲まれた通路を、3人は走っていた。
「迂回だ!ヴェント達はマキナを右から迂回していった!急げ」
「おい!鍵はいいのか!」
「いまさら遅い!こうなったら力づくでは奪えない。何よりも早くヴェント達に追いつかないと」
ルージュとヘルメスが並列して駆け抜け、少し後ろをレンが駆ける。
「"蠍"か」
「厄介なものを使ってきやがって!」
ヘルメスの悪態の原因はこの国の秘密情報局、兼暗殺集団"蠍"の存在だった。
「まさか蠍が"表だって"戦争に介入してくるとは思わなかった」
ルージュも多少は知っている様子で、驚きの表情を少々浮かべていた。
情報を流したのはレン。
彼女は"黒の子"一行暗殺のチームに組み込まれていたため、多少は情報が伝わっていたらしい。
それが唯一の救いであったが、おかげでルージュの心配は倍増した。
黒の子"一行"。
つまりは連れも暗殺の標的になっている。
レンからその情報を聞いた瞬間に走りだしていた。
まずい。
蠍と言えば裏の世界で知らない者はいないほど有名である。
だがその組織に対する細かな機密はまったくの謎であって、それゆえにどれだけ完成された組織なのかが一目瞭然だった。
しかし、裏、つまりルージュのいた世界では蠍に対するある情報がある。
それはいわば警告だった。
"懐に、やけに湾曲した短剣を持っていたらすぐ逃げろ"
"暗殺者と敵対したとき、そいつの持つ武器が、グニャグニャに曲がっていたら、まず逃げろ"
"蠍の暗殺者は特殊な武器を使う。刀身が自在に変形する刃物をもっていたらそれが蠍だ。よっぽど自信があるのでなければまず逃げることだ。やつらはターゲット以外に手を出さない。お前がターゲットだったなら、すぐに命を諦めろ。未練を断ち切れ。その方が死ぬ時楽だからな"
「ヴェント、ネピア、セレ・・・・っ」
ルージュの足が、また一段と速く動き出した。 |