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Fate of color
作:ミラ



第54章:「忌わしき力」


「我、絶対絶命なり」

不思議な響きを含んで放たれた言葉が蠍の女に届いた瞬間、彼女は地面を蹴った。

「もう飽きた。さよならね」
「それは困るっての。"1人"で死ぬのは忍びない。母上から教わった剣術も威力を発揮していないのに」

ヴェントは投げられたダガーを最初の一歩でかわし、すかさず飛んできたもう一本を左手で抜いた短剣ではじいた。
彼がもっていたのはやや大きめなレイピア、それに逆の腿についた短剣だった。

「まだ武器もってたの?」
「これで全部だ」
「そう・・・」

短く応答し、すぐに暗殺者の出方に備える。
確かにヴェントの身の回りにある凶器という凶器はすでに行使されている。
だがヴェントの顔には何か、余裕のようなものがあった。

(これしかないか・・・)

滴る汗が目に染みて痛い。
しかし決意を固めた彼にとってその程度の痛みは蚊に刺されたようなものだった。

「クス・・・」
「何がおかしいの?」
「違法、いや、外道ともいわれてしまうような力に頼らざるを得ない自分が情けないのさ。自嘲だよ」



カラン。



ヴェントの手からレイピアと短剣が落ちる。
一瞬彼が何をしているのかわからなかった。
この状況で武器を捨てるなど。



ガッ。



「なっ!」

それが油断。
暗殺者として完成されているはずの蠍にあるまじき行為。
ヴェントは一瞬で間合いを詰め、手をまわして女の後頭部をつかんでいた。

「丸腰になったからって油断したな。ありがたい」
「その丸腰のおまえに何ができる」
「できるのさ。色々と。オレの武器は色術や刃物だけじゃないんだ」

別に彼女の前で色術を使ったわけではない。
だが言った。
今から使う忌まわしき力と、自分の持つ正しい力を区別するために。

「さよなら。君とオレに乾杯」

グイっと暗殺者の顔を引きよせ、自分の顔面とすれすれのところまで持ってきた。
額がぶつかりそうになったところで、女はもがきながら叫んだ。

「何をするつもりだっ!放せ!!」

次の瞬間、暗殺者の両目がヴェントの両目を捉えた。


目が合った。


ヴェントはそれを確認すると、薄い笑いを浮かべ、風の音にかき消されてしまうような小さな声音で言った。





ぜつ・・・」





ヴン、と何かが彼の深緑の右眼に浮かびあがった。
まさにそれは"絶"という文字。
すでに暗殺者は首を項垂れて気を失っていた。
後頭部に回されたヴェントの手が力を失ったように離れる。

「他に"蠍"の刺客がいないことを祈ろう・・・」

一言呟いて、



ヴェントもその場に倒れた。



殺風景な道。
脇には欝蒼とした林。
その場に伏す2人。
まるで運命を見えない流れに託すように、ヴェントは頬を地につけた。


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


およそ4時間前、ロワ・エスカリエ、政府上層部―――

慌ただしく建物の廊下を走る男。
正面に見えた大きな扉を躊躇することなく強く押しあけた。
彼の顔には猛烈な焦燥の色が見えた。
扉の向こうは選ばれし上位の高官たちが格式ばった方法で意見を交わす場所。
彼のような一般的な公務員が入れる場所ではない。
大きなドーム上のホールに入るや否や、声を張り上げて言った。

「大変です!たった今、東方のマキナ・ユニヴェールに送った密偵から緊急の伝言が入りましたっ!」

1人の高官がその厳かな態度を崩さずに、ゆっくりと立ち上がって尋ねた。

「どうしたのです?ゆっくりお話しなさい」
「す、すいません。・・・あの機械大国マキナが、たった今、この国に向けて"宣戦布告"を行ったようです。確かな情報筋から聞きました」
「な、なんだとっ!?」

階段状に並べられた席の上の方から別の声が聞こえた。
ざわめきが一瞬で大きくなる。
頭を下げながら、なお男は続けた。

「すでにあちらは軍隊を整えております!それと・・・」

もぞもぞと口ごもり、席の中央部にいるより位が高そうな老人を見つめた。

「ここにいる者達は皆知っております。遠慮せずに話さない」

その視線に気づいたのか、ゆっくりと、威厳漂う声色でその老人は言った。
その内容に、一同は頷き、話の先を促した。

「はっ!それでは・・・その数万単位の巨大部隊の前衛に、少数部隊が待機しております。およそ5,6人の部隊です。これは・・・」
「ふむ・・・十中八九"色術師"のみの隊でしょう。その少数部隊は何個体あるのですか」
「軽く20を超えます」

ドーム内に不穏な溜息が溢れた。

「すぐに"学園"に令状を送りなさい。これは本格的な戦争です。一刻も早く色術が使える人材を集め、ロワ・エスカリエの部隊に加わりなさい、とね」
「御意のままに!」

入ってきた時とはまるで違う、きびきびした動きで男は扉をくぐっていった。

「また・・・戦争ですか・・・」

ささやき声で、老人は呟いた。
あわただしく動く国の上層部。
さながら人に踏まれるのを必死で避ける、蟻のようであった。







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