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Fate of color
作:ミラ



第52章:「唯ひとりのためのメシア」


「大丈夫か?」

座り込んでいるレンにヘルメスは手を差し伸べた。

「大丈夫です。少し・・・驚いただけで」
「そうか・・・ほら治療具をもってきた。さっさと手当をしてやってくれ」
「わかってます」

レンは半ば机に寄りかかるように立ち上がった。
震える手で差し出された薬箱をとる。

「じゃあおれは外で見張りをしているから・・・あとは頼んだ」

コク、と一度深くうなずきすぐに机の上の青年に顔を向ける。
呼吸はしているがどこか苦しげな顔をしているルージュに近寄り、一度深呼吸をした。

(よし)

ヘルメスが外へ出ていく。
決心を固めたレンを見て彼女が信用にするに足りると判断したのだろう。
ただ静かに、ドアの外へ出て行った。
その背中は少し・・・暗かった。

「くっ・・・」

レンが脚に触れるとルージュはうめき声をあげた。
出血の量、傷の深さからして軽傷ではない。
傷部が痛むのだろう。
少し動かすごとに何度も声をあげた。

「我慢、してください」

レンも痛々しい傷口を見て何度も苦しそうな顔をしたが手を止めることはなかった。


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


「そうか・・・アイツがここまできたか―――」

ドアから数歩右へ移動したところで腰を下ろすヘルメス。
ブツブツと喋りながら天井を仰いだ。
嫌な記憶が頭の中を駆け巡る。



"私の妻を奪っただけはある"



ヴィスの放った一言が心の中で靄をつくった。

「黙れ。ああするしかなかったんだ」

まるで自分に言い聞かせるように、ただ小さく呟いた。
背中の壁が妙に冷たく感じられる。
過去の思いを追想しながらヘルメスは深く項垂れた。

「許せ・・・マリア」


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


「よし」

額の汗をぐっと拭いながら思った以上に自分が治療の方法を覚えていたことに安堵した。
ルージュの脚に巻かれた包帯をさすり、できる限りのことを尽くしたと少し自分を褒めた。
術中、彼女は彼の傷口がひとりでに治り始めていることに驚いた。
どうしたってあれほど深い傷がそのスピードで治癒し始めることはあり得なかったからだ。

(疑問はたくさん残ったけど)

レンはとりあえずルージュが無事であることに安心し、外にいるヘルメスを呼びに行った。
ドアノブを回し、首だけを部屋の外に出しながら周りを眺める。
右端に眠っているようなヘルメスを見つけると遠慮がちに声をかけた。

「あの・・・」
「ああ、終わったのか?容体は?」
「大丈夫です」
「そうか。良かった」

ヘルメスも安心したようだった。
立ち上がりながら部屋に近づいてくる。
レンは出した首を引っ込めルージュのもとに戻った。

「ちょっと不思議です」

突然レンがヘルメスに話しかける。

「何がだ?」
「この人の傷の治り方は普通じゃないんです。どうあってもあの銃創は自力で治癒するレベルじゃない。普通なら出血し続けて死にいたります。なのに・・・」

何かを言いたそうな顔でレンは着物の袖をつかんだ。

「ああ、それは今に始まったことじゃない。コイツは昔から普通じゃなかった」





「人を化け物呼ばわりするなよ」





「ッ!!」

2人は同時に驚いた。
その声はルージュの物だった。
堅苦しそうに首を大きく回し、体の機能を確かめるようにして全身を動かした。

「よし、大丈夫だ」

ルージュはそう言って机の上から降りようとした。

「だ、だめです―――その・・・」

そのルージュの肩を押さえたのはレンだった。
体が熱くなるのを感じながらひとえに彼の体を考慮した。

「貴方はまだ動ける体じゃありませんから。そこでじっとしててください」
「・・・ふぅ。見ての通りもうピンピンしてるよ」
「いいえ、それでもだめです」

思いのほか彼女が頑固なのを見てルージュは諦めたようにまた寝転がった。

「あの、聞きたいことがあるんです」
「?」
「どうしてあの時―――」

レンは彼との戦闘を振り返った。
常人を逸脱する能力にも驚かされたがそれ以上に彼の心情が気になる。
一方のルージュはああと何かを理解したように頷いた。



「それは―――君が昔のオレと同じ目をしていたからさ。それも相当な暗黒期の時のね」



少しうつむきながらルージュは言った。

「貴方も"独り"なんですか?」
「いいや、今は違うよ。少なくとも後ろの彼はそれを証明してくれるはずだ」

咄嗟に話を振られたヘルメスはおどおどしながら声をあげた。

「それこそ疑わしいがな」

ルージュはその答えを待っていたかのようにすぐに言い返した。

「彼はユーモアに優れすぎて思ったことをまっすぐに言えないんだ。厄介な性分だと思わないかい?」

ふん、と鼻で笑いながらヘルメスは部屋を出て行った。
ドア越しに少し見えた顔には笑みがこぼれていた。

「それで、君はどうする?」

できる限り優しく、滅多に出さない、なでるような声でレンに話しかけた。
彼女の辛さを理解するのに数秒とかからなかった。
救ってやりたい気持ちはあふれんばかりだが、ルージュはあえて先にその言葉をかけなかった。
静かな、それでいて少し冷たい沈黙が部屋を覆い尽くす。
彼女は口を開けた。



「もし、迷惑にならないのなら・・・私を"ここ"から救ってください」
「そんなに控え目でいいのかい?すぐに"独り"に戻るようならきっともっと苦しいよ」
「・・・なら」
「なら?」
「貴方の全身全霊をかけて私を"ずっと"救ってください。この苦しみから―――」



頬を伝う雫はいつもより暖かい気がした。
レンは視界が曇り始めるのにしっかり気づいていたが止めようとはしなかった。
今、目の前に自分を救ってくれる人がいる。
それも・・・同じ苦しみを味わった人。
ようやく彼女は心から救われる気がした。

「ああ、それでいいんだ。もう・・・"大丈夫"だよ」

彼の言葉を最後に、レンはルージュの胸に飛びついた。
すすり泣き、やがて喘ぐようにむせ始めた。
ついには大声で、ただ彼の胸の中で泣いていた。







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