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Fate of color
作:ミラ



第45章:「紫電一閃」


カシュ、と紐を解いた鞘の中で鋭い刃が音を鳴らす。
ルージュが気づいた時には遅かった。
いや、彼じゃなかったら確実に胴と脚は切り離されていた。

「ッ!!」

まさに一瞬。
ルージュの胸元に彼女の顔が現れた。
玉座の下に彼女の姿はもうない。

(速ッ・・・)

ルージュは並々ならぬ力を足に込める。
まるでその攻防だけスローモーションであったかのようだった。
着物の女は鋭い速力でルージュの懐に潜り込み、鞘から煌く太刀を抜きながら横なぎに刃を振りはらった。
ルージュの横腹を冷たい感触が通った。
パタパタと女の刀に赤い血がつく。
ルージュは咄嗟に後ろに飛んでいた。
玉座の間の床が木っ端みじんになるほど力を込めて飛びのいた。
彼の犯した過ちの代償は血と肉だった。
抉れた右横腹を押さえる。

(血は派手に出てるが・・・重傷ではない)
「助かった・・・か」

思わず声に出していた。

(速かった。それも凄まじく)

彼は初めて自分以外の人間の速力に驚いた。
女は先ほどルージュが立っていた場所で刀を下へ向け鋭い眼光を送っている。
彼女はおもむろに口を開いた。

「私と・・・戦え」

それにルージュは声を出しては答えなかった。

(猛烈に御免蒙りたい)

さっきの得体の知れぬ感情がなくなったわけではない。
彼女を殺したくないという思いはあった。
だが―――






―――殺らねばヤラレル―――






ルージュはかなり警戒した。
先の一閃は波の速さじゃない。

(あれは居合いあいだ。抜刀と同時に相手を斬る早業。だがあれほどの居合を扱う者はなかなかいないだろう)
(見りゃわかる)
(それならあの距離でぼうっとするなんてないはずだが―――)
(わかった、悪かった。あれはオレのミスだ)

ブリューナクは満足したように黙り込んだ。
彼も臨戦態勢だった。

「わかった。受けて立とう」

ルージュはそう言っていた。
一瞬女は笑みを浮かべた気がした。
それが何を意味するのか、彼にはわからなかった。
わからなくていい、そうも思った。
雑念は刹那の戦いにおいて寿命を縮める。
さっきのがいい例だった。

(右腕は大丈夫だ。ちょっと痛むけど)

他の刺客に負わされた方の傷はネピアの治癒能力とルージュの人外なる体が相俟ってある程度動かせるまでに回復していた。
2丁のリボルバーはルージュの体から"黒"を吸い取るようにして手の中で脈動した。
彼女が色術師である可能性はないに等しかった。
彼女が仮に色術師であるなら十中八九初撃でその特殊な力を使うはずだからである。
しかし、相手が色術師でなくとも黒い弾丸は大いに役に立った。
リロードなしで連発できる代物。
威力は実弾と比べると劣っていたが、連射力に優れるという点で大きなアドバンテージをもたらす。
刹那の響きを武器とする彼女にその連射力が通用するかはさだかではなかったが、何もないよりはマシだった。
つまり、鍵をにぎるのはルージュのあの脚撃だった。
ルージュが構えたのを見ると、彼女も居合の姿勢に入った。

(まるで決闘だな。綺麗すぎる戦いだ)

相手が構えるのを待ってから攻める。
なんでもありの殺し合いの中ではまさに愚行である。

(彼女は"その職"に向いていない)

そうは言うもののやはり彼女の太刀は脅威だ。
間合いを間違えば1秒とかからずこの世とおさらばできる自信すら持てる。


一瞬、時が止まった気がした。


その後、ゆらっと彼女―――レン―――の細い体が揺れる。

(来る―――)

ルージュとの距離は先ほどよりも数メートル長い。
だがレンはそれをものともせず一瞬で懐に入った。
ルージュも負けてはいない。
ある程度彼女が向かってくる方向がわかれば反応くらいは出来た。
それに居合は鞘をつけている方からしか攻撃が来ない。
未だその速力には慣れなかったが、第2撃は青白いリボルバーで防いだ。
金属がはじける高い音が漏れ、2人の耳を打つ。
レンは一度居合を繰り出した後、標的と距離をとろうとした。
そこにルージュは目をつけていた。
たった一度見ただけなので確証はなかったが、それが彼女の癖であることに賭けた。
思惑通りの展開に勝機を見出すルージュ。
連続では攻撃が来ないとわかっているならば何の躊躇もなくフルスピードで脚を振りぬける。
黒髪を揺らしながら太刀のない左脚を振りぬいた。
空気を切り裂きながら鋭い一撃がレンの胴部を捉える。
それはまさに容赦のない一撃だった。
殺気をまるまる含み、標的に襲いかからんとする虎。



脚の中で鈍い音が響いた。



(クックック、おいルージュ。あの女お前の脚を"止めたぞ"?)

嬉しそうに、そしてからかうように頭の中に話しかけてくるのは銀のリボルバー。
ルージュは目を疑った。

「止めただと?脚で?それで普通に立っているのか?」

ルージュは脚撃に自信があった。
それは自分の持つ力だけでないことも承知していたが、その上で自信を持っていた。
止められてもその脚を砕くだけの力を込めたつもりだった。
だが、現にレンは十数メートル離れた場所で立っている。
顔が痛みに歪んでいるわけでもない。
あの瞬きする間も与えぬ攻防の中で、レンはルージュのカウンターを同じように脚で防御した。
正直それすら驚きだった。

(なんだ、アイツは)
(お前が言うなよ、ルージュ)





レンは思った。
この人は強い、と。
彼女はルージュの強さの根本たる起源を自分の中に見た気がした。

(この人は―――)

だが考える暇はなかった。
彼はすぐに向かってきた。





ズガンッ、ズガンッ!

レンを数弾の黒丸が襲った。
どれもこれも正確に足元を狙ってくる。
逆にその正確さがどこへ球が飛んでくるかを教えていた。
そしてあろうことかレンは黒い弾丸を刀で真っ二つに切り落とした。

(おいおい、この弾って切れんのかよ)
(オレも驚いたが・・・まぁできないわけでもないだろう)
(あの弾も実体を持っているものね。そうじゃなかったら当たった物がふき飛ぶなんて非合理的すぎるわ)
(もともと色なんて物は非合理的だよ)

ルージュは2つの思考と話しながら闘っていた。



一方の彼女もそこである異変に気づいた。

(なぜ・・・いくら撃ってもなくならないの?)

見ればわかる。
黒髪紅眼の青年が持っているのは6発式の手動リボルバーだ。
2丁持っているところを見ても計12発しか撃てない筈だった。
一向にリロードの気配を見せず、なくならない弾を撃ち続ける青年にレンは一瞬恐怖した。
それは相手の戦闘能力を見越しての感情ではなかった。

(気配が変わった・・・)

ただならぬ殺気だった。

獣に近く、身に突き刺さるような―――






レンがそれを感じたと同時に―――ルージュは静かに2人との思考を閉ざしていた。
残る理性はただ一つ。








―――彼女を仕留める―――







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