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Fate of color
作:ミラ



第43章:「北方へ」


荒い息遣いが時折緑を見せる道に木霊していた。
ヴェント、ネピア、セレの3人はルージュ、ヘルメスと別れた後、できるだけ指示どおりに小屋を離れていた。
彼らは北に向かう。
万が一、マキナ・ユニヴェールとロワ・エスカリエの戦争が間髪入れず起こったならば、今現在位置しているマキナ・ユニヴェールの南は危なかった。
なぜならマキナ・ユニヴェールの南に隣接する国、形だけの統治国家フラム・ガルフはロワ・エスカリエの同盟国だったからだ。
戦争が勃発するに当たってマキナ・ユニヴェールがフラム・ガルフに侵入しないとも限らない。
その上ロワ・エスカリエがマキナの宣戦布告に答えるや否や、フラムにマキナを攻めるよう指示しないとも限らない。
そうなったら今3人がいる場所は激戦区になるはずだった。
3人は走っていた。
いまさら馬を見つけるのも叶わないだろう。
街の人々は軍の戒厳令で家の外に出ることができない。
馬を奪うという手だてもあったが、いまさら街の中に入っても騎士に見つかって捕虜にされるのが関の山だ。

「どうするの?セレ」

ネピアが長い茜髪を揺らしながら尋ねた。
額に汗を溜め、おぼつかない足取りだ。
すでに体力が限界だったのだろう。

「できるだけこの国を右に迂回しながら北へ移動します。マキナの西も南も戦争が始まれば激戦区です。そこから離れないと」

セレも満身創痍な表情だった。
彼は頭でっかちというわけでもなかったが、さすがに運動はあまり得意じゃないらしい。
人並みに走るのが精いっぱいだった。
唯一その中で体力に自信があるのはヴェントだけだった。
どういうわけか彼は武道にも精通し、多少の剣術すら身につけているのだ。
それが狙われ続ける王族の宿命のためにそうなったのか、はたまた日々の鍛錬の賜物かはわからないが、とにかく彼が今一番の機動力だった。

「大丈夫か?2人とも。・・・少し休んだ方がいいな」
「大丈夫よ」
「ダメだ」

ネピアが答えたが、ヴェントはいつにない威厳でその答えを却下した。
彼女が意地を張ってそう答えたにも気づいていたからだ。
伊達に長い付き合いじゃない。
彼には今の彼女の状態が手に取るようにわかっていた。


彼女は断崖絶壁に立っていた。


旅に出る前に決意はしたものの、ここまで過酷な旅になるとは知りもしなかった。
まして、戦争など。
一度ルージュに旅を降りようと話した身で今の状況は辛いの一言に尽きた。
彼女は身体的にも精神的にも疲弊し切っていた。
移り行く景色をざっと見まわした結果、ヴェントはある場所を見つけた。
大きく迂回するに当たって彼らが近づいたフラム側の森。
そこまでは遠かったが、近づくほどに灰色の景色が薄れ、褐色の土が見える。
ヴェントが見つけたのはその褐色の大地にあった窪みだった。
確認を兼ねてヴェントが真っ先に近づく。
そこまで深くはないがどうにかしゃがめば姿ぐらいは隠せるだろう。
ここでは馬がないことが功を奏した。
さすがに馬までは入れない。
騎士団がここまで追ってくるということもないわけではなかったが、その可能性は薄かった。

「ここならいいだろう。少し休もう」

手招きするヴェントを見た2人は滑り込むようにして窪みに入っていった。
周りの様子を確認したうえで最後にヴェントが入る。
上空から探されたら終いだが、そんな手だては世界のどこにもないだろう。
仮に色術師がそのような能力をもっていたとしても、わざわざこの3人を探すためだけに使うとは思えない。
貴重な人材はすべてロワ・エスカリエを潰す為に起用するはずだ。

「さすがに馬がなければこの国は抜け出せないね」

寝転がるように窪みの底に滑り込んだヴェントが言った。
セレは何かを思い出すように考え込んだ後、口を開いた。

「たとえ馬があっても一か月はかかります。今までの距離とはわけが違う」

セレの言うことは真だった。
3人はここまでの道のりを脳内で辿る。
ロワ・エスカリエからフラム・ガルフまではそんなに日数は掛からなかった。
どんなに迷っても一週間もあれば"あの村"にはつくだろう。
だがそれは偶然にフラム・ガルフの中央(北に近いが)に"長老がいた"からだ。
もし長老がフラムの南端にいたらどれだけ掛ったかわからない。
少なくとも今この時間に3人はマキナ・ユニヴェールにいなかっただろう。
その後、北東に位置する森を真っすぐに突っ切りながらマキナへ移動した。
ロワ・エスカリエとフラム・ガルフ、さらにマキナ・ユニヴェールは隣接している。
世界全体から見れば3人の移動した道は、ほぼ国境線に沿ってのことだった。
その後、騎士団の案内を受け、やはりマキナの南側に到着した。
幾度も危うい事態になりながらも今に至る。
だが、次に向はねばならないのは世界地図で北東から北西一帯を占め、位置する雪国。
一般に北方民族と呼ばれる種族が多く住む土地だ。
名を・・・

「ネジュ・グラソンという国です」

セレは雪のように白い肌を指でなぞりながら言った。
言葉を放った瞬間、セレの心臓はいつも以上に脈動した。
ドクン、と鳴った胸を手で押さえるセレ。

「どうかしたのか?セレ」
「いえ、なんでもないです。久々にこんなに走ったから疲れたんですよ」

北国の住民、つまり、ネジュ民族―――ネジュ人―――にはある特性があった。
今までにもフラム人には器用という特性があったように。
ちなみにマキナ人は一般に欲が強く、商売事が得意、という特性があった。
ロワ・エスカリエはあらゆる地方から人が集まってできている国であるがゆえに、様々な人種が住む。

「ひとついいですか?」

ため息とも見える大きな深呼吸をしたセレがまた声をあげた。
2人の目をじっと見据る。

「今、私たちには強力な力に対する防御策を持っていません。ルージュさんがいれば別ですが、いつ合流できるかすらわからない。だから・・・覚えておいてください。これから向かうネジュ・グラソンに住むネジュ人の特性は―――その戦闘能力です」
「戦闘能力?」
「ええ、彼らと戦うの事は誠に愚かな部類に入ります。唯一の救いが彼らは力はあるが好戦的ではないということでしょうか」
「つまりは怒らせるなと?」
「その通りです」

そうか、と唇に指を添えてヴェントが黙り込んだ。

「それにしてもセレはやっぱり色んな国に詳しいのね」
「ええ、本で読みましたから」

セレは嘘をついていた。
本で読んだわけではなかった。
否が応でも覚えなければならなかった過去があるのだ。





彼はネジュ人だった―――





「しかし皆が皆強靭というわけではありません。"例外"もいます」

セレは心の中で自分に向けて指をさした。

(気が引ける)

彼は数瞬の間、目を瞑った。




その間に、マキナ・ユニヴェールで黄色い煙があがる。
すでに国は動いていた。







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