Fate of color(4/71)縦書き表示RDF


敵の侵入でパニックになる学園内部。そのころ避難シェルターへ逃げていたルージュ、ヴェント、ネピアだが、ふとした瞬間にネピアが何者かに攫われてしまった。
Fate of color
作:ミラ



第4章:「懐かしきその匂い」


森の中でカラスが啼いている。
今は何時くらいか、思った以上に森は深く、それと呼応するかのように辺りが暗くなる。
ルージュは連れ去られたネピアを追って森の中を走っていた。
途中までは民間人が使うような整えられた道があったが、それも今はない。
地面には草木が生い茂り、徐々に木が多くなっていく。
ルージュは唯一ギリギリのところで見える、前を走る影を追ってひたすらにケモノ道を走っていた。

(速いな)

ルージュは自分のスピードには自信があったが、地形が邪魔をしてなかなか追いつかない。
徐々に離れる敵の影を見て、ルージュは少々焦り始めた。
だがしばらくして、その焦りはすぐに消えた。
敵が足を止めたのだ。
そこへルージュが追い付く。

「ネピアを放してもらおうか」

そういいながら詰め寄るルージュ。
どうやら相手は女らしい。
着ている服や振り向いた顔、また声口調から容易に予想がついた。

「いいとも、坊や」

その女はネピアを放した。
すぐに駆け寄り、無事を確かめるルージュ。
外傷はないが気絶させられているらしい。
安心したルージュ、だがそれも束の間だった。
ネピアの無事を確認したいがあまりに駆け寄ったのが仇となったのだ。
女の脚が思いもよらないスピードで飛んできた。
とっさに気付いて下がるルージュ。
しかしネピアを担いでの動きだったのでいくらか避け遅れた。
服が破ける音が聞こえる。

「はっ、思った通りの甘ちゃんだねぇ、坊や。もう少し遅かったらもっと危なかったわよ」

女は笑いながら言った。
ルージュの着ていた白い長袖のシャツと黒のカーディガン、はたまた赤のネクタイまで切れ目が入った。
これを見ればどんなに鈍いやつでもかなりの脚撃だったことがわかる。
切れ目からは血が滲み始めた。

「なかなか良い蹴りをするね、"おばさん"」

ネピアを樹の裏側へ優しくおろしたルージュは服を払いながら無邪気な子供のように女に言った。

もちろん挑発を含めて。

「坊やは人を挑発するのが得意なようね。良い事だわ、・・・その方が簡単に死ねるでしょうからね!」
「おばさんは短気なんだね。気をつけた方がいいよ、しわが増えるからね」

我を忘れて突っ込んでくる女にさらに言葉の追撃を喰らわした。
女の1撃目は例の脚撃からである。
あいかわらずかなりのスピードと圧力だ。
だが、ルージュが挑発した事の理由はこの足技にあった。

「おばさんは足が主体の戦い方なんだね?」
「そうよ坊や、私は長年足技を鍛えてきましたのよ。だから思いっきり当たってしまった方がよくて?あまり苦しまなくてもいいのだから。それに私としても坊やのその綺麗な顔を気づ付けずにいたいわ」
「そうなんだ。足技ね―――実は・・・オレもなんだ」

そう、ルージュが得意とするのも足技であった。

そしてまもなくルージュは"あの脚撃"を自らの足で止めた。

鈍い音が響く。
女は驚いた様子で言った。

「まさか・・・止めた?無傷で?」
「ほら、油断している暇はないよ?」

今度はルージュの下半身から繰り出される足技が舞い始めた。
それは本当に"舞う"かのように華麗に連続して繰り出された。

「オレはね、これを"生きる"ためにひたすらに訓練したんだ。昔の話だけどね、おばさんのそのくだらない足技とは"物"が違うんだよ」


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


―――ルージュは物ごころがついた頃から自分に親がいないことに気づいていた。
なぜなら色々な金持ちの家を転々としていたからである。
ジークムントの話であったように彼はその生き方で、およそ3年間を暮らした。
金持ちの家だっただけにそこまで困窮していたわけではなかった。
が、どこにも行くあてがなくなった年齢、人があふれるエスカリエで野宿生活が始まった。時々現れる親切な人々に食べ物やらお金やらを恵んでもらっていたが決して彼自身を引き取ろうとする者はいなかった。
所詮、"自分は親切だ"ということを周りにアピールするための布石にすぎない。
そんなある日、彼は依頼掲示板に目をつける。
とても大きな掲示板にはあふれるほどの依頼書が貼ってあった。
依頼書の下の方には報酬が書いてある。
子供のお小遣い程度のものから、かなり高い額、ルージュには前者の金額で充分であった。
どちらにしろ高額な報酬の依頼を受ける力もなければ信用もなかった。
それから何年か、ルージュは依頼の報酬金を生活の足しにするようになる。
年をとり体もたくましくなるにつれて報酬金も上がったが、ある程度のレベルを超えると"依頼通りではない"依頼に出会うようになった。
もちろんそれほどの依頼を受ける頃にはルージュは巷では有名な子供になっていたので、たとえ9歳でも高額な依頼を任せてもらえる信用はあった。
そして、それからルージュの"冷たい年月"が幕を開ける。
初めは輸入規制のかかっている品物の密入や、危険物の運搬などであった。
過酷な仕事ではあったがなんとかこなした。
だが、それから少し経って請け負った依頼でルージュの世界観は変わる。

"暗殺依頼"だ。

自分で人を殺すどころかその現場をみたことすらなかった彼にもちろんできるわけもなかった。
そして決行当日、躊躇したルージュは依頼任務に失敗する。
そのおかげで依頼者をどん底に陥れ、依頼請負人として最もやってはいけないことをした。
さらに依頼者の関係者達にボロボロにされる。
死にかけたルージュはそこで一皮むけることになる。精神的にも肉体的にも。
年月が経ち、ようやくやってきた次の依頼ではルージュは躊躇しなかった。


(死と血の匂いがする)と呟いて。


その後の苦悩に悩まされはしたが、それにも慣れ始め、高額な依頼をこなすことで多くの金を持つようになると盗賊などから狙われるようになる。
大人数相手に最初は盗られてばかりだったが、回を重ねるごとにおのづと"力"がついたのだった。
その時出会ったのが"足技"である。
襲われる時は、いつも武器をもっているわけではない。
自分の体から出せる"力"で最も強かった部位が"脚"であった。
そして残りの手はしっかりと金を掴んでいるために。

―――今現在、その戦い方はさらに功を奏すことになる。


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・



ボギッ!

骨が旋律と戦慄を奏で、女の左腕から嫌な音が鳴った。

「いまので左腕がイったな、おばさん」

いつの間にか冷たい眼になっているルージュは言った。
ルージュの足技を防ぎきれなくなってきた女はついに彼の一撃を喰らったのだ。

「くっ・・・」

女の顔が徐々に痛みに歪む。
すると女は残っている右手で自分の肩の傷口から出ている血を少し拭き取った。
それに気づいたルージュは即座に2、3歩下がる。
彼の中では違和感のある行動を相手がとったときには退く事がセオリーになっていた。
その判断は彼の"勘"であるが、今回はそれが大当たりだった。

「坊やは私たちが色持ちだってことを知ってるわよね?」

女は話をしながら血が付いている右手の掌をこちらに向けた。

―――確かにルージュの判断は正しかった。

女の掌からはどこからともなく金属のようなものが現れたのだ。
それは徐々に大きくなる。
最終的には"剣"の形になった。

「なんだそれは?」
「さてなんでしょう?・・・まぁいいわ、教えてあげましょう。これは"鉄"よ。血液中の鉄分を媒介にして土中の鉄を集めたの。そう、私の色は"褐色"でイメージは"鉄"よ!」

女は右手に持った剣を掲げて向かってくる。
相手は剣だ。
いくらルージュの足でも生身では斬られるに違いない、そう思ったルージュはしょうがなく、"アイツ"を使うことにした。



太ももについたホルスターの中でずっと銃口をうならせている銀の銃を。







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