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Fate of color
作:ミラ



第38章:「三の顔を宿す男」


「元気でしたか?子犬さん達」

"3人は"聞き覚えのない声に身を強張らせた。
ルージュだけがなんとも反応せずにただ表情を曇らせて自分からドアを開いた。
もちろん3人は驚いたが、ドアから入ってきた人物を見てすぐにその理由に気づいた。

「ミキュラ!?」

小屋に入ってきたのはあの商人姿の男だった。
だが声色は街で出会ったときと違って妙に陽気な雰囲気を感じさせた。
また、顔の雰囲気も少し違っていて、むしろ別人に近かった。
唯一3人がミキュラだと判断できた要素は、ルージュが何の警戒もなくドアを開けたことと、彼の服が変わっていなかったからだった。

「さっさとドアを閉めてくれないか・・・師匠様?」
「相変わらず目上の人を敬わないその態度は変わらないな、バカ弟子」

3人は黙り込んでいたが、少し経って同時に声をあげた。




「弟子!?」




「おう、この黒髪小僧はおれの弟子だ」
「そんなに長く世話になっていた覚えはないけどね」
「まぁそういうなルージュ」
「うるさい、ヘルメス」

ふてくされた表情を隠さずにルージュは外に出て行った。

「全く扱いずらい弟子だ、アイツは」

3人は尋ねたいことだらけでしどろもどろしていた。
その様子に気づいた"ヘルメス"は自分から口を開いた。

「こんにちは、子犬さん方。おれの名前はヘルメス。またの名をマキナのミキュラ、エスカリエのダガシ。しがない商人さ」

ガチャ、と音を立てて外からルージュが戻ってきた。

「正確には商人もどきだな」

と、ヘルメスはルージュに指を差しながら言い始めた。

「ちなみにコイツに"盗み"の技術を与えたのはおれだ」
「ぬ、盗み!?」

目を丸くして3人はルージュをみた。

「なんだ?見せてなかったのか?」
「しがない学生なものでね」

すると突然、ヘルメスは立ち上がりネピアに金貨袋を手渡した。

「これはなに?」
「いいから持ってなお嬢さん。それをルージュに見えないようにどこかに隠し持っていてくれ。んでお前は後ろを向く」

手でルージュの体を回し、ネピアに金貨袋を持たせたヘルメス。

「よし、いいぞ。さぁ弟子、おれが教えた技術がきちんと身に付いているか復習だ」
「面倒だ」

そう言いつつもルージュは一瞬ネピアの全身を見た。

「・・・左腰の裏。ドレスに括りつけているね」
「な、なんで隠している場所がわかったの!?」

ネピアは驚き、とっさに金貨袋を取り出した。
もちろんセレやヴェントにもなぜルージュが隠し場所に気づいたのかはわからなかった。

「簡単さ、お嬢さん。人間大事なものを持っている時はそこに意識がいく。その微妙なしぐさや・・・そうだな、かなりの熟練者だと体に対する力の入り具合でどこにあるかわかるのさ」
「ってそれじゃあルージュは熟練者じゃん!!」

ヴェントは大声で突っ込んだ。

「その通り、おれが仕込んだからな。まぁそうはいってもルージュはその境遇上身に付けやすかったということもあるが」
「後者のが大きいよ」

ふん、と鼻で言いながらルージュは小屋の隅に座った。
何か考え事をしているようだった。

「もうひとついいですか?」

セレが静かに声を出した。

「その声や口調、はたまた顔の変化はどのように・・・」
「ははは!これはいわゆる変装さ。要は気持ちの入り具合、それと訓練だな。おれはこうやっていくつもの国で商売をしているのさ。おれの素性を知っているやつはおれのことを"3つの顔を持つ盗賊"っていうがな。盗賊になった覚えはな―――」
「立派な盗人だろ」
「ぐっ」

ルージュは何やら思案げな表情をしていた。
その間ヘルメスは笑いながら3人と話していた。

「―――まぁ戦闘になったらルージュには勝てないわけだ。なんたってアイツは―――」
「ヘルメス」

と、数分してルージュが立ち上がり、ヘルメスに声をかけた。

「あ?なんだ?」
「ネピアを・・・ロワ・エスカリエまで送ってくれないか」
「!!」

ばっと顔を上げネピアはルージュを見た。
それが喜びの表情であったのか寂寥の表情であったのか。
しかし、彼女の胸中を表してるのは確実だった。

「いきなり何を言うんだ、ルージュ。このお嬢さんは今まで一緒にやってきた仲間じゃないのか?」
「・・・だからこそだ。彼女に・・・これから先、辛い思いをさせたくない」

そこでヘルメスはルージュとネピアを交互に見た。

「ふぅ・・・なにやらおれは悪いタイミングでここにきちまったらしいな」
「ヘルメス・・・頼む」

ネピアは何も言わない。
ただいつものように下を向いているだけだった。
ヴェント、セレも黙って2人のやり取りを眺める。
ヴェントが口を出さなかったのは意外であったが、それは彼が少なからずルージュの意見に賛同していたからだろう。

「わかった。お嬢さんがそれでいいならな」

しかたなくといった感じでヘルメスは頷いた。
ネピアはその言葉を聞いて一瞬体を震わせたがやはり何も言わなかった。

(これで・・・いいんだ)

踵を返すルージュ。
振り返らずにドアを開け、また外へ出て行った。
どこからか漂う暗い雰囲気。
払しょくするどころか、おもむろに増幅していくその空気は忽ち小屋を包み込んだ。





誰もが彼女の離脱を考えたその時、機械都市の到る所に括りつけられた発音装置から、けたたましいサイレンが鳴り始めた。





それが、彼女の命運を左右する神の悪戯だった。







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