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Fate of color
作:ミラ



第32章:「風雲急を告げる街」


「何だよ!」

ヴェントは掴まれた手がおそらくセレのものだと思っていた。
だが違かった。

「だめでっせ旦那」

随分腰の低い口調で少ししわの寄った手を出していたのは商人風の格好をした男だった。

「誰だ!?」
「これはこれは」

男は若いとは言い難いが、老けてはいなかった。
深緑のシャツ、腰に茶色のベルトをつけ、黒い細見のズボン、そしてこげ茶のブーツを地面で鳴らしながら立っていた。
商売人特有の喋り方をしてまた口を開いた。

「あっしは貧しい商売人でっさ。でもって少々先の黒髪の方には面識がありましてね」
「離せよ!」
「いけませんで旦那。あの人は旦那が助けに来たら機嫌を悪くするでしょうね。そういうお人なんでさ」

ヴェントは力づくで振り放そうとしたがどうにも離れない。
その薄茶色の手には並々ならぬ力が注ぎ込まれていた。

「お前、何者だっ!」
「だからさっきからいってましょう。ただの放浪商売人だって」


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


さすがに馬の脚は速い。
なによりこっちが人を避けながら移動するのに対してあっちは直進だ。
ルージュはすでにブリューナクに手をかけていた。

(俺が馬になればいいんじゃないか?)

ブリューナクは話しかける。

「いや、できるだけ手のうちは見せておきたくない」
(どうして)
「それがあっちの思うつぼかもしれないだろ」
(俺が走ればあんなへっぽこ野郎ブッちぎれるのに)

じれったい気持ちを抑えながらブリューナクはぶつぶつと呟いていた。


ヒュンッ!


ルージュの背中を何かがかすめた。

「ちっ!外したか!」

(追いついてきちまったな)

また話しかける銃。

「やってやるさ」

背中をかすったのは鎧男の持つ槍だった。

「もうちょっと練習してから来い」



バンッ!



騎士が乗っている馬は大きく嘶き、前足を高く上げた。
弾丸は実弾だった。
直撃したのは槍を刺そうとした騎士の右上腕。
悲鳴を上げながら彼は右手に持っていた槍を落とした。
銃声に驚いた馬はそのまま彼の支配下を脱し、暴れながら森の街の外へ走って行った。

「ぐぅぁあ!」

馬の背中から落下した騎士は動かない右腕を庇いながらどうにか槍を取ろうとした。
しかし、その槍はガンッという音をたてて遠くへ飛ばされた。

「!!」

ルージュの撃った2発目は槍の棒部に直撃し、その反動で槍は動いたのだった。
もしかしたらこれすらも敵の策謀家の予想の範疇なのかもしれないと思っていたルージュには、"黒"を使うつもりがさらさらなかった。
敵に手の内を見せるわけにはいかない、と。

「誰の差し金だ?」

もがいている男のもとへ歩み寄り、今回の"案内"の首謀者を聞き出そうとする。

「へっ!誰だろうなっ!」

自分が圧倒的不利な状況にも関わらず、騎士は挑発した口調で返した。


バンッ!バンッ!!


「がぁぁぁ!!」

すでに痛みに苦しんでいるところにルージュはさらに2発、弾をぶち込んだ。
そういうことで騎士の両ももは使い物にならなくなった。
周りにいた人込みは時間差で事の重大さに気づき、叫びながら逃げ出した。

「は!・・・この・・・騒ぎを聞きつけて、仲間が―――」


ズガンッ!!


次は男の叫び声が上がらなかった。

「別にお前に聞かなくてもその"騒ぎを聞きつけた仲間"に聞けばいいんだよ」

騎士は悪態をつく暇もなく動かなくなった。



「なんの騒ぎだッ!!」

(ほら来た。わかりやすいワカリヤスイ)

一瞬ニヤっと笑ったルージュ。
周りからみたら恐ろしい殺人者に見えただろう。
だがルージュにとってそんなことはどうでもよかった。

(そうだ、今さら何だ。オレは遥か昔から殺人者じゃないか)

そこでルージュの中のスイッチは入った。
駆けつける馬の足音、ルージュが立っているだだっ広い十字路の右側からどんどん大きくなってきた。
即座に走りだし、さっきと同じ姿の騎士が馬に乗って通り過ぎるだろう通路の死角に入った。

ダダッダダッ・・・

大きくなる足音。
ルージュは心の中でタイミングを計り始めた。

(いち、に、・・・)

と、突如ルージュは地面を大きく蹴り、飛び上がった。
その勢いで腰を回し、振り上げた左足を反動にして右足を凄まじいスピードで振り回す。
蹴りの射線はルージュが予測した騎士の通行経路。



バゴンッ!



ルージュの空中で水平に薙ぎ払った足の下をちょうど馬が通り過ぎていく。
だが上に騎士は乗っていない。
ルージュの脚撃は見事に騎士の顔面に直撃したのだ。
ドサっという音と共に鎧がこすれる金属音がする。
壁越しに顔を出して騎士の様子を探ろうとする。

だが触って確かめる必要もないほど騎士の首は明らかに折れていた。

(やりすぎた)

自分を叱咤しながら次の獲物を取るべくルージュは動き出した。



そう、いつの間にかルージュは"追われている"のではなく、"追う"ようになっていた。


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


マキナ皇帝はルージュ達が案内された宮殿にはいなかった。
結局彼らはただ騙されただけ。
そう、ここにいる白銀の策謀家に。

「これで本当に余の所に鍵はくるのか?」
「ええ、もちろんです。ワタシの案を実行してくださったこと、大変光栄に思います」
「余の元に鍵がくればそんなことはどうでもいい」

ここはマキナ・ユニヴェールの中心都市よりさらに北へ数キロ進んだ皇帝宮殿。
はるか高い階段の頂上に供えられた宝石だらけの玉座の上に、金の王冠を被って思案げな表情を浮かべるのは紛れもないこの国の長、マキナ皇帝だった。
時折つまらなそうな顔をして家臣の顔を見、一度溜息をついてはまた空を見るのだった。

「そんなに鍵の行方が心配ですか?皇帝陛下」

いつのまにか皇帝に会い、さらにそれなりの地位を占めているシグラ。
どうやったのかはわからないが、以前捕虜として捕まえた貴族の姿は見えなかった。
同じく、大柄なパエトン、小さな少女ディアも姿が見えない。
玉座の間、そこにいるのは白銀の髪をしたシグラと、それを見下ろす皇帝、側近の家臣2人だけだった。

「もちろんだ。あれがあれば余はロワ・エスカリエさえも掌握できる」
「というと?」
「見ての通り余の国は機械都市と呼ばれ、ロワ・エスカリエ並み、いやそれを抜くほどに近代的な技術に長けている。その恩恵ともいえる圧倒的な軍事力、そしてロワ・エスカリエの凡人どもには決して届かない"色"の力を手に入れれば必ずや戦には勝てる。そう自負しているのだ」
「なるほど」

シグラは口ではそう応答しているものの、胸中は正反対だった。

(そんなに簡単にいったら苦労はしないのデスヨ)

「それでは陛下、ワタシは街の様子を見てきます」

マキナ皇帝は一度コクリと頷くと玉座の間を後にした。
シグラも同じく、宮殿の外へ歩き始めた。







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