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Fate of color
作:ミラ



第30章:「誰かの手のひらの上で」


森の中以来の馬の背中。
揺られ通り過ぎる景色を眺める。
だが気を緩めるものは誰もいなかった。

「それにしてもまさか貴殿らがこんなにも若い衆だとは・・・」
「オレもまさかこんな厄介な"仕事"を学園から頼まれるとは思ってもみなかったさ」

馬上でにこやかな表情を浮かべるガラルだが、ルージュは内心にこりともしていなかった。
なによりマキナ皇帝直々の呼び出しがかかったのだ。
ただごとではあるまい。
それかまたは・・・
顔をしかめながら考え事にひたるルージュの目の隅を何かが横切った。
荒れ地とまではいかないが、豊かともいい難い雑草まみれの地面の中で、妙な光を灯す甲羅が見えたのだ。

「あれは?」

指をさしながら複数見えるその光の根源をガラルに訊ねた。

「ああ、あれは大変に厄介な生き物で・・・」

ガラルはそこで表情を曇らせたがすぐに続けた。

「背中に甲羅をしょった狸とでも言おうか・・・彼らはその甲羅の中に炎を灯し、時にその炎をまき散らしながら我らの街へ侵入してくるのだ」
「それは厄介だ」

確かに甲羅にはいくつかの小さな穴が見える。
炎を飛び散らすならそこからしかないだろう。
だが以て妙だ。
そんな厄介な生き物をわざわざ街の近くに放置しているのが。

(オレなら・・・邪魔者は消すな)

ルージュは己の中で分析して答えを出した。
きっとこいつらにも"何か"あるのだろうと。

「彼らの名前は?」
「我等は一般として"甲炎"狸と呼称している。甲羅をしょっている生き物は他にもいる。故に語尾に狸をつけ―――」
「ありがちな名前〜」

ガラルの発声中に突然別の声が混じった。
この理不尽な口の挟み方は間違いなくヴェントだ。

「いきなり人の会話を遮るのは感心しないね」
「ぬあ!すまん!そしてごめんなさい!」

ヴェントは大げさな身振りでガラルに謝った。
ガラルはまた微笑を浮かべて快く了承してくれたが、どことなくぎこちなさを醸し出していたのをルージュは見逃さなかった。





「我らが都に到着です」

馬上の黄色ローブのうち、ひとりが徐に口を開いた。
そして次の瞬間、彼らの眼前に灰色の街が広がった。
さまざまな音が入り混じっている奇怪な音楽がその街からは響いていた。
ガタン、ミシ、鉄と鉄がこすれある音や、何かが固い金属に落下して起こす音、しかしなにより鼻にツンとくる匂いが気になった。

(火薬?いやオイルか?)

ルージュには身に覚えのある匂いだった。
"普通の"弾丸を撃つ時に必要な火薬の匂い、それに黒色燃料を混ぜた感じの匂いだたった。
街へ近づけば近づくほどその独特な匂いは激烈になっていく。
耐えかねたネピアはすぐに喋りはじめた。

「ねえ!なんなのこの匂い!」
「お気に召さないか?お嬢さん」
「だってすごく匂いわよ!?」
「これは機械に使うオイルの匂いなのだ。我等の街での主な動力は熱。その熱を力学的なエネルギーに転換するために装置が必要であり、その円滑湯としてオイルが使われているのだ」

セレは話を聞きながら頷いた。
そしてすかさずヴェントに耳打ちした。

「無理に理解しようとしなくてもいいんですよ?」
「お、おう」

見透かされたヴェントはしどろもどろに頷いた。

「ところで黒髪の青年」
「?」
「その茶色の袋には何が入っているのでしょう?」
「気になるのかい?」

ルージュは不敵な笑みを浮かべた。
ガラルはそこで自分の犯した過ちに気付いた。
"それ"を悟られないために必死に無知を装う。
が、その行動がまたルージュの中の疑念に確信をもたらした。




(こいつらは十中八九オレ達が赤の"鍵"を持っていることを知っている)




その事を誰が吹き込んだのかはわからない。
しかしそれを見かねた上で"鍵"を狙っている、その線は濃厚だ。
初対面にも関わらずオレ達が鍵を探している一行だと知ってたこと。
マキナ皇帝がわざわざオレ達を宮殿に招待したこと。
さらに遠まわしに鍵を持っていることを確かめようと起こした馬上の騎士長の言動に、それを見せかけないように無理やりはぐらかした不可解な行動。
諸々含めて・・・




オレ達は皇帝の・・・いや、もしかしたらその裏の誰かの手のひらを歩いている。




「おそらく後者だな・・・」

栗毛の馬の上でルージュはぶつぶつと呟いていた。
騎士長ガラルは先の話をもみ消そうと躍起になって喋りはじめた。
ルージュはまったく耳を貸さなかったが。
結局彼らは何ともない無駄話をしながら宮殿へ近づいていった。

「なぁセレ。あれってどうやって動いてるんだ?」

ヴェントは不思議そうな視線を両側に列状に並ぶ商店に向けた。
どの商店も奥の方にがたがたと動いている風車のような物があった。

「さっき説明していただいたでしょう?何かを燃やしてその熱で風車を動かしているのですよ」
「だからその原理がわからん」

はぁ、とセレはため息をついた。
ところがそこへネピアが顔を赤らめて馬を寄せてきた。

「セレ・・・私もわからないかも」

セレだけでなくヴェントも目を見開いてネピアを見た。

(強情なネピアが自分から説明を乞うなんて)
(珍しいこともあるもんです)

2人の意識は少しシンクロした。
ネピアはその様子を見ながら必死に訂正を図る。

「ち、違うわよ!!ちょっと気になっただけ!べ、別に教えてもらわなくたって!」

思わずそれを見ていた2人はにたにた笑いを浮かべてしまった。
ふん、と言ってネピアは馬を離していった。
セレとヴェントは顔を合わせ、にやつきながら大きく頷き、ネピアの方へ馬を近づけていった。







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