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Fate of color
作:ミラ



第13章:「鍵と争いの関係」


4人が入って行った家の中は、村にある他の家の造りとほぼ同じだった。
材質はおそらく、来る時に通ってきた森から切り取った木材だろう。
先人の知恵からくるものなのか、長年木造りの家をたしなんできたフラム人は木の使い方がはるかに上手いらしかった。
それはこの家が、ロワ・エスカリエで見たどんな木造りの家よりも精巧な作りをしていたからである。

「すごいな。木でここまで出来るものなのか」

ルージュが感嘆の声を上げる。

「素晴らしい」

セレが興味深そうな目で木と木の繋ぎ目を見ていた。

「こら、2人とも。長老様の前なのよ!もっとしっかりしなさい」

ネピアはきょろきょろしている2人を叱った。

「これは失敬」

セレは、はっと気付いて色を正した。
4人の目の前には1人の老婆が厳かに座っていた。
しわだらけの口元がゆっくりと動く。

「いいのじゃよ。もっと楽にしなされ」

彼女の声はみんなを安心させるほど優しかった。

「ロワ・エスカリエより、"鍵"を集めるために参りました。ルージュと申します」

ルージュはかしこまった口調で言った。

「うむ、話はそちの学園長から聞いておるぞ。長い道のり大変じゃったな」
「いえ、これも1つの役目ですので。予言書から託された」
「ふむ、予言書・・・のう。アレに書かれていることは本当なのかえ?」

老婆は不思議そうな面持ちである。

「ええ、少なくとも私たちがこうなることは記されておりました。しかし、何分内容が抽象的で、途中の部分は示されていないのですべてがその通り、というわけではなさそうです」
「そうかそうか、なら良い。一冊の本に人の運命が決められては困るからのう」
「おっしゃる通りで」
「"鍵"がほしいのじゃったな?」
「はい」
「ふむ、すぐにやりたい、と言いたい所だが、できんのじゃ」

長老は申し訳なさそうに頭を下げた。

「どうしてです?」

セレが問いかける。

「今、この国は中央フラムと南フラムで紛争が起こっておるのじゃ」
「それが鍵と何の関係が―――」
「その紛争の原因がお主たちの言う"鍵"なのじゃよ」

4人は目を丸くした。
鍵の存在は、すでに世界に響き渡っていた。

「なんで―――」

ヴェントが苦慮の表情で言った。

「あの鍵はどの国でも、古代から有力貴族や最高権力者などに大事に守られてきた。言うならば国の最高機密じゃ。どうしてか知っているかの?」
「わかりません。私達自身"鍵"のことを知ったのはつい先日のことですし・・・。」
「学園長からは何か教わらなかったのかえ?ならワシが教えておくべきなのじゃな」

そこで長老は何かに感づいたように顔をしかめた。

「―――なるほど、あの爺め。最初からワシに説明させるつもりでいたか」
「?」

4人は何のことかわからなかったのであっけらかんとしていた。

「何の事です?」
「よいよい。気にするでない」
「はぁ」
「それで鍵についてじゃったな。ふむ・・・簡単に話すと―――あの鍵はそれ自体で恐ろしく強い力を放つのじゃ」
「恐ろしく強い力?」

4人の表情が徐々に憂鬱になっていった。
鍵は予想以上に厄介な代物になりそうだった。
「うむ、"鍵"といっても形は球体、中心からは輝く光を発し、色は様々だという。ちなみにこの国の鍵は赤色じゃ」
「その恐ろしい力、というのは・・・その・・・私たちの言う―――」
「"色"、と言いたいのかえ?」
「ええ」

もうルージュ達は"色"について隠さなくてもいいらしい。
セレの言った通り、この特別な力の事を知らないのはエスカリエ人だけのようだ。

「ほぼそうじゃが、1つ大きく違うことがある」
「それは?」

セレの関心はすべて老婆の話に惹きつけられていた。

「鍵の持つ"色"に"自我"があるんじゃ」
「自我?」

ルージュは少しそれに心当たりがあった。
何といっても今、外の馬小屋で面倒臭そうな顔をしているやつは、銃―――今は馬―――なのに思念を飛ばすことで会話ができるのだ。

「つまり、中途半端な力しかない者が持つとロクなことにならん。下手を打てば体ごと乗っ取られるはずじゃ」

(まるでおまえみたいだなブリューナク。まぁ失敗はしたが)

ルージュは外の馬に向かって思念を飛ばした。

(うるさい)

疲労で機嫌が悪いらしい。
ルージュの皮肉を受け止めると眠り始めてしまった。

「それで、肝心の鍵はどこに―――」
「紛争相手の南フラムじゃ」

なんと面倒な、4人はそう思っただろう。
しかし、彼らは鍵を集めなければならないのだ。
そこでルージュが言い出した。

「その紛争を止める・・・か。というと相手側を潰せば鍵は戻ってくるんですね?」

ルージュの過激な発言にヴェントとネピアは耳元で囁いた。

「ルージュ!どっちが悪いのかもわからないのにこっち側についちゃっていいの!?」
「そうだよ。もしこっちの方が危ない地域だったらやばいだろ」
「大丈夫だよ2人とも。オレの勘が大丈夫って言ってるから。これでも幼いころから色んな人間を見てきたんでね。それにひとつ気になることがあるし・・・」
「気になること?」

首を傾げる2人を横目にルージュは長老に質問した。

「長老、ひとつお聞きしたいことが」
「なんじゃ?」
「なんらかの事情でその鍵を持って行った者の狙いはわかりますか?持って行った、または奪っていったかな」
「お主、なかなか鋭いのう。奪っていった、ふむ、それに近いのう。どちらにしろヤツの狙いはこの国の"掌握"じゃ。鍵の力に当てられて愚かな欲望に走ったらしいの。鍵自体の"権力"で片っぱしから兵を集めているらしい」
「そうですか、これで決まりだ」
「え?」


「自分の力と鍵の権力を履き違えてる程、愚かな者はいないよ」


・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・


翌日、明朝、4人は現在の紛争状況と中央フラムの兵力を確かめに行った。

「こちらの兵の数はどんなにかき集めても1万といったところか」

ルージュは思案深気な表情を見せていた。
セレもそれに加わる。

「相手側は優に5万を超えると言っていました。どうやら西や東にも求人を出しているようですね」
「それなら、正面から当たってもどうしようもないな。まずはできるだけ相手側を削らないと」
「それが正攻法でしょう。それにしてもルージュさん、貴方は比較的良い戦術眼を持っているようですね。少し試させてもらえますか?」
「良いけど、どうやって?」
「私の最も好きな盤上戦で」

そう言ってセレは荷物の置いてある小屋へ走って行った。
その背中には嬉しさがにじみ出ているようにさえ見えた。

―――数分して戻ってきたセレの手には小さめのチェス盤が乗っかっていた。

「チェス?」
「そうです。ルールは知っていますか?」
「ああ、酔狂な依頼人によくやらされたことがある」
「ふむ、それならば問題はないですね」

2人は近くにあった木の椅子に腰掛け打ち始めた。
それに気づいたヴェントとネピア、さらには村人まで寄ってきた。


・・・・・・


「やはり・・・かなり"出来ますね"」

セレは驚嘆の思いで一手一手打っていった。
ヴェントとネピアだけではなく、村人からも2人の読み合いのレベルの高さに驚きの声が漏れる。
・・・もちろんヴェントに読み合いを理解できていたかは置いておいて。


・・・・・・


――――「チェックメイト」

勝負を決める声を上げたのはルージュだった。

「まさか―――私が負けた?・・・これ程まで強いとは・・・予想以上です」
「戦術に関してはオレの勝ちだね。大規模じゃないけど、何よりオレは本物に参加したことがあるからね」
「なるほど、ではこれから戦術、指揮はルージュさんに執ってもらってもいいですか?私は中央フラムの切り札となる道具を作る指揮を執らなければならないので。実戦を知り、私より戦術眼のあるルージュさんならより良い作戦を考えてくれそうです」
「わかった。そっちの方は任せるよ。知識に関してはきっと100年かかってもセレには勝てないからね」

このチェスでルージュのもう1つの武器が明らかになった。
それはセレをも凌駕するほどの戦術眼。
戦において士気と共に最も重要とされるのは戦術である。
戦術は時として遙かに地力で劣る戦にも勝機を見出さすことができるのだ。
彼にはかなり優秀なそれが備わっていた。
2人にはいつの間にか笑みがこぼれていた。
すると、2人の会話を聞いていた皆は口々に叫んだ。

「お二方がいれば百人力です!どうか我々に鍵を取り戻す勝利を!」

村人達が言い、

「ルージュってそんなに頭良かったんだな!」

と、ヴェント。
さらに、

「ルージュとセレが居ればなんとかなりそうだわ。」

ネピアが言った。

まだ紛争解決に向けた思索は始まったばかりだが、一回りも二回りも相手側より兵力が少ない彼らには活気が満ち溢れていた。



荒野の高く澄み切った青い空に浮かぶ太陽も、それに呼応しているかのごとく輝いていた。







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