第12章:「炎の供給地」
熱帯林のようなその森には思った以上に食べ物"らしい"物がたくさんあった。
豊富な知識によりどれが食べられる物かを判別できるセレを除いた3人は片っ端から食糧らしき物を取っていった。
採取を始めてから2時間程でかなりの量の木の実やなにやらが集まった。
「どうだ!この木の実の数は!」
誰よりも多い"量"を取ってきたのはヴェント。
食べられるものかは別として。
次点としてルージュ。
もっとも少なかったのはネピアだった。
「ネピア、それ少なすぎじゃないか?」
ヴェントはネピアの持っている袋の中を見て言った。
「だって・・・虫がいるんだもん」
「・・・・・・」
意外にもネピアはかわいらしい一面を見せた。
少なくともルージュとヴェントにはそう見えた。
「とりあえずは取ってきた物の判別だ」
ルージュは皆にいった。
「そうはいっても判別するのはセレだけじゃないか」
ヴェントはしかたないといった表情で言った。
「そうでもないよ?セレ、そのカバンの中の本で植物に関する資料はあるかい?」
「もちろん」
セレは気づいたように答えた。
「そういうことだ」
それから4人での判別が始まった。
赤色の実や、青いキノコ、ルージュがとってきた物の中には色取り取りな縞模様の蛇までいた。
「よくこんな物までとれたな。ルージュ」
「襲いかかってきたから返り討ちにしてやった」
ルージュは片腕をあげて肘を曲げ、楽しげに言った。
「それはたとえ食べれても、私は食べませんからね」
ネピアは蛇を食べるつもりの2人に向かって言った。
・・・・・・
「さ!これくらいですかね」
セレはそう言って判別した物のうち食べられる方の袋を持ち上げた。
全体の半分程が食べられるものだった。
「思ったよりあるね」
「ええ、これでなんとか街までもちそうです」
「残った食べられない方はどうするの?」
ネピアがもう一方の袋に入れられた色とりどりの実を見て訊ねた。
「それも使わせてもらいますよ」
「何に?」
「アブナイお薬に」
セレは微笑みながら答えた。
「うわ、毒薬かよ」
「そういうことです。武器は多いに越したことはありません。それでは夕食にしましょう」
火起こしの石を持っていたヴェントのおかげで苦労せずに火は使えた。
もっとも、"炎"のイメージが使えたらそんなものは必要ないのだが。
3日目の夕食は質素な物だったが木の実などの味は悪くなかった。
焼いた木の実を口に詰め込んだ4人は見張りを順番に立て、眠りに落ちた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
翌朝、早くに起きた一行は今日で中心街へ辿り着こうと決意を固めていた。
「そろそろ、疲れが溜まってきたな」
眼の下にクマを作っているヴェントが辛そうに言った。
「そのようですね」
「それじゃ、行くか」
4人の馬はいつもより少しばかり早足だった。
深い森は真昼間だが、光は遮断されているのでかなり暗かった。
不気味な雰囲気の上、ジメジメしてるとくると疲労は否応なしでも増加していった。
しかし、4人の不安も束の間だった。
前方を走るルージュから街を発見したという合図が上がったのだ。
「ようやくだな」
3人より早く森を抜けたルージュは呟く。
そこへ残りの3人が追いついた。
「やっとですね」
「疲れったって」
「ホントよ」
森を抜けた場所は大きな丘になっていた。
どうやら町は盆地に立地しているらしい。
丘の上からは所々で燃えている炎、まばらに動く人々がよく見えた。
「火がたくさんあるね」
ヴェントは興味深く眺めている。
「おそらく鍛冶―――でしょうね。世界有数の炎の供給地ですから、それにちなんだ仕事が活発なんでしょう」
「鍛冶・・・か」
どうやらこの国は無数の村のような集落が集まってできているらしい。
ロワ・エスカリエのような首都を中心として人口が広がる大都市とは違っていた。
ひとつひとつの村落は大きさとしてはそれほど巨大ではないが、それがすべて集まるとなると正に"国"であるだろう。
丘を下る4人、行く手には大きな門が待ち構えていた。
左右には門番。
ごつごつした鎧に身を包み、右手には長い槍を持っている。
「何の用ぞ」
片方の門番が尋ねる。
「"鍵"を探しに」
先頭を走るルージュが答えた。
「若者4人・・・例の報告のあった方たちか!失礼ながら証明は・・・」
門番が言った。
すると馬の上のルージュは右手をローブの下から出し、掌を上へ向けた。
その右手からは"黒"がまるで湯気のように出始めた。
「これでいいですか?」
「これは・・・」
門番は目を丸くしたが、先々の報告でルージュが―――というより王に会うための旅をしていえる一行の中に―――黒の子がいることはロワ・エスカリエの和平同盟国であるフラム・ガルフまで知らされていたので容易に結論に至ったようだ。
「はっ!お待ちしておりました。長老が先の家でお待ちしております。ご案内いたしましょう」
話していた方の門番がもう一方の門番に合図を送ると大きな扉が開いた。
「それにしても一般人なんかに色の事を教えちまっていいのかなぁ?」
ヴェントはロワ・エスカリエの最高機関から隣の国へ自分たちが"特別な力"を使えることを発信したことに疑問を感じていた。
「知っていますか?ヴェントさん。色の事を信じていなかったのは、近年―――といっても数百年前ですが―――文明開花や科学技術へ走ったロワ・エスカリエの人々だけらしいですよ。徐々に信じる者の人口が減っていって、最終的には手品の類とまでされたようです。まったく愚かしい。ロワ・エスカリエでは色を知らない人口が一部の私たちのような者の人口を圧倒的に上回ったため、混乱を避けようと国家機密になったというわけらしいです。」
「じゃぁ他の国の人はみんな知っているの?」
ネピアが言った。
「いや、さすがにすべて、というわけではないようです。ロワ・エスカリエの文明に影響された国からも徐々にその風習は消えて行っています。未だに昔からの文化がある所だけですかね。少なくともフラム・ガルフには伝わっているようです」
セレの説明が終わるとルージュが呟いた。
「徐々に少なくなってきている・・・か。だとしたら―――」
ルージュの言わんとすることを最も早く察したのは、やはりセレであった。
「ええ、私たちのような高度な知能を持った"動物"は自分の知らない"力"を恐れますからね。科学技術が発達し、"そちら側"の人間が私たちの持つ"特別な力"に目を向けたら―――その力を滅ぼしに来るでしょう。あくまで予想ですが」
「その通り。オレたちはどこへ行くのか・・・」
ルージュとセレの高度な話についていけていなかった2人は揃っていった。
「アンタたちは先のことを考えすぎなのよ」
続けざまにヴェント。
「今は目の前のできることから片付けていこうぜ」
2人の言葉に顔を見合わせるルージュとセレ。
「そうだね」
2人に諭されたような形になったルージュとセレは面白そうに答えた。
「話が変わるけど、フラム・ガルフの中心だっていうココはなんて名前なんだ?」
周りをきょろきょろと見回すヴェントが喋り始めた。
「中心っていう割にはあまり大きくなさそうなんだけどなぁ」
「ココの名前は"フラム・アリヴェ"というんですよ。もともとこの国自体、人が多いというわけではありませんからね」
「ふ〜ん」
「どっちかっていうと、ロワ・エスカリエの人口が多すぎるといった方がわかりやすいね」
ルージュが言った。
4人は数分あるくとその町―――と言うより村だが―――の長老がいるという大きな家にたどり着いた。
扉の前にはまたしても2人の門番。
先ほどからよく見え隠れする警備員らしき人や、村の周りに建てられたバリケードなど、この村はやけに防御が堅かいと見える。
門番の許可を得、4人はヴェントを先頭に家の中へ入って行った。 |