第1章:「巡り合う色」
色。
様々な色。
貴方はどうしてそれがそんな"色"をしているのか知っている?
いや、なぜそれにその"色"が付いているのかは誰にもわからないだろう。
唯一言えることは、それはそこにある"色"として存在する、ということだけだ。
何人たりとも断言できない色の真理。
存在の理由。
数えきれない種類。
それは少し人に似ているかもしれない。
陳腐な運命論において言わせてもらえば、まさに・・・
色が色である理由は―――
遥か原初より定められた"運命"なのかもしれない・・・
抗えない運命の中で、はたして色は―――人は何を起こすのだろうか。
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季節は春、心地よい朝日のもと、そこである学園の入学式は行われていた。
「皆さんゆっくりお進みください〜」
大勢の人を誘導する警備員の声が響く。なかなかの人数だ。
「よくこれだけの人が入れるもんだな」
これから生徒になる1人が呟く。
「そりゃココは普通の学園じゃないっていうし・・・」
連れの少女が言った。
「普通じゃないっていってもなぁ〜・・・どこが普通じゃないのか全く分からないな」
そういっている間にも、およそ1500人を超えるやもしれない人々がその学園の体育館に入りきった。
不思議なことに中は外からは想像できないほど広い。
これだけの人数が入っているのにまだ余裕がある。
「皆さん!今日は記念すべき我が校の入学式においでくださいまして誠にありがとうございます」
この学校の校長らしい人物による演説が始まった。
威勢のいい掛け声とともに式は始まる。
「この学校は今年で創立100周年を迎えました。これから入学するあなた方は記念すべき100回生なのです!今までの歴史は長く・・・・」
「うわっ、やっぱ入学式だけあって話が長いね」
「どこの学校も同じだな」
そういって徐々に飽き始めている生徒たちが増えてきた。
「そのようなわけで今までこの学校は―――」
ズガーン!!・・・
突然、大きな音が校長の話の途中に体育館で鐘のように鳴り響いた。
当然の如く体育館内にいた人々は一斉に扉の方を向く。
「なんだなんだ!何が起こった!」
ざわめく生徒たち、すると扉の影から黒髪の青年が現れた。
思ったより体育館の扉が軽かったらしい、彼自身でもこんなに勢いよく開くとは思いもよらなかった、という顔をしている。
よく見ると、その青年は深紅の双眼を持っていた。
細い体、男だがその顔は美しく秀麗。前髪は眉の辺りにかかり耳は髪で少し隠れている。
青年は少し茫然とすると、何もなかったかのように席へ歩いて行った。
「・・・・・・・」
その場に沈黙が走る。
青年はそれに気づき憂鬱な形相で言った。
「・・・・あ、大きな音立ててすいません。今のは不可抗力です」
彼は空いていた席に座ると少しうつむき大きな溜息をついた。
(入学初日に遅刻なんてしなければ良かった)
キーンコーンカーンコーン・・・学園のチャイム。
式が終わり各々の教室へ移動した後だった。
凄まじい生徒の数にまるで学校内は烏合の衆の集まりのようになっていた。
が、それも束の間、想像以上の広さを持つこの学園に生徒たちが散らばるとむしろ清閑な気さえする。
この敷地内のどこにこれだけの学園が立っているかさえ不思議な事態だ。
「入学式早々目立っちゃったな・・・」
先ほどの青年は予め決められていたクラスへ移動した後、自分の失敗を少し悔んでいた。
すると、青年の元に1人の生徒が近づく。
「ヨォ、さっきので入学式早々有名になっちゃったな?」
笑いながら話しかける。
淡い茶色の髪に深い緑の眼が印象的だ。
その明るい表情は人懐っこそうな雰囲気を放っている。
「別に好きでああなったわけじゃないよ」
ふてくされた表情で答える青年。
「それでも入学式初日に遅刻、そのうえ皆の前で視線をくぎ付けにするほど大きな音をたてたんだぜ?はははっ」
「からかいにきたのかい?」
疲れた表情で言った。
「別にそんなんじゃねぇって、その・・・アレだ・・・おまえおもしろそうだし友達にならないか・・・って・・・」
その青年は妙に照れくさそうに言った。
彼がそれを言うのにどれだけ苦労したか理解できないが顔は赤くなり始めた。
「・・・・随分恥ずかしそうだね。顔を隠すのにハンカチでも貸そうか?」
どこからどうみても照れている茶髪の彼を見て、青年は疲れた表情から一変、少しニヤついた。
「う、うるせぇぃ!そんなことより名前はなんていうんだ!」
「人に名前を尋ねるんだったら自分から先に言ったらどうだい?」
さっきの疲れた表情はどこへいったのか、今はからかうような言い草だ。
「おまえ、なかなか皮肉っぽいやつだな・・・ん、俺の名前はヴェントだ」
まだ顔は赤い。
どうしてそんなに恥ずかしがるのか、青年はそう思った。
「ふぅ〜ん・・・ヴェントねぇ・・・うん・・・オレの名前はルージュ」
と、そこへまた1人騒がしそうな女の子がやってきた。
床と靴でまるでメロディーを奏でているかのようなステップで歩み寄る。
「コラっ!ヴェント!また人のことからかってんじゃないでしょうね!あら何、赤い顔して。」
予想通り騒がしい。
「うるさい!むしろ逆だよ!ってかなんで俺がおまえに行動規制されなきゃならないんだよ!」
「だってアンタ馬鹿だから。何しでかすかわかったもんじゃないでしょ」
随分尻に敷かれていそうだ。
どうやら彼らは初対面じゃないらしい。
どちらも馴れ馴れしい言葉を使い口論を起こしている。
ルージュはそれをおもしろそうに眺めていた。
「ん?ところでアナタ誰?」
今頃気づいたように彼女はヴェントの隣に座るルージュを見た。
振り向いた彼女の長く綺麗な茜色の髪の毛がなびく。
まるで美しい鳥の羽のように、その髪が舞った。
「ぁ!?コイツは今、俺の友達になったルージュってんだ」
「ほぅほぅ今友達に・・・ぁ、だからアンタ顔が赤いのね」
ヴェントはネピアになんでも見透かされているようだ。
ヴェントを少々いじくった後、彼女はまたこちらを向いて口を開けた。
「アタシはネピアって名前。よろしくルージュ」
「よろしく」
ガララッ・・・教室のドアが開く。
廊下から教師らしい人が入ってきた。
その男は紺の髪をしており教師という割にはどちらかというと若い部類だった。
「みんなとりあえず座れ〜。今日からこのクラスの担任になったイオだ。よろしく」
「おいルージュ、あの先生ずいぶん若いな。もっとゴツイ50歳くらいのヤツかとおもったよ」
「なにを理由にそう予想したんだよ君は。」
何の根拠もないヴェントの予想に、ルージュはあきれ顔で言った。
「おい、そこ静かに」
見事にイオは2人の会話を察知していた。
鋭い注意が入る。
しかし、その声は堅い、というより陽気なイメージを彷彿とさせる。
さらにイオは続けた。
「さて、みんなクラス分けの表はちゃんと見たな?見ての通り1クラスは大体30人くらいだ。生徒数が多いからクラスは合計で30組ってとこだな。」
そう、この学園は生徒数はかなり多い。
はたから見たら凄まじいマンモス学園だ。
しかしその分学年は1年制である。
その理由は後々話すことにしよう。
「いきなりで悪いんだけど、今から重要なことを言うぞ。君たちはここにきた時点で"一般人とは違う"」
「一般人と違うってどういうことですか先生!」
あまりに唐突、かつ奇妙な事実を聞かされた生徒たちはざわめき始めた。
「君たちはある素質があるためにこの学園に入学できたんだよ。入学試験でその素質を確かめるための試験をしたんだ」
「試験?・・・」
突然なその話題はイオの口から止めどなく溢れていった。
おかげで生徒達は質問する暇さえ見つけられず、ただひたすら聞くだけになった。
これは夢か、とさえ思う者も少なからず居ただろう。
それほど速やかに、そして簡潔に言葉は流れていった。
―――試験。
そう、彼らは皆この学園に入る前に試験を受けていたのだ。
しかし、その本当の意味に彼らは気づいていない。
「最初は理解するのはもとより信じることさえできないだろうが、今から君たちの授かった使命、そしてこの一般的な世界とは別にあるもうひとつの世界について話そう」
―――教室が静まりかえる。
誰かが息をのむ音さえ聞こえてきそうだ。
昼過ぎの空から降る光が皓皓と机を照らす。
この光は後の彼らの未来を表すのだろうか。
それとも―――
「まぁまず君たちの受けた試験の説明からしようか」
「試験っていっても筆記しかやってないよな?」
ヴェントがまっ先に異を唱えた。
「うん、確かに・・・」
相槌を打つネピア。
「その筆記に秘密があるんだよ」
イオは柔らかな表情で言った。
「先生、もったいぶってないで早く教えてください。」
ルージュが言う。
誰しもがその答えを知りたがっていた。
「ふむ、それもそうだな、ゴホン・・・試験は筆記テストではなくて筆記テストに使った紙にあるんだよ」
「紙?別に何の変哲もない紙でしたよ?」
と、生徒。
「そりゃそうだ、効果が表れるのは数時間後だからね。あの紙は君たちがある素質を持つ場合に限って特定の変化が生まれるんだよ」
「へ?先生不確定なことが多すぎてめちゃくちゃになってきました。」
ヴェントは言った。
「黙ってなさい、ヴェント。」
ネピアが叱る。
「まぁまぁ、順に説明するから。君たちが持っている素質とは・・・"色"なんだよ」
数々の難解な出来事に生徒達はまた騒ぎ出す。
さすがに何度も不思議なことを話されてはどんなに適応力がある子供でも考え込んでしまうだろう。
彼らもそんな子供と何ら変わりはないのだ。
一部を除いては。
「まぁそうなるね。落ち着いて。試験用紙に使った紙は触ったものに色を使う素質がある場合に限って紙全体が変色するんだよ。まぁだから私達は手袋してたんだけどね」
「まずそれ以前に素質があるからなんなんですか?」
ルージュが本源的な理由の詳細を求めた。
「君はあまり驚かないんだな」
他の生徒は徐々に混乱、錯綜している中、物事を淡々と冷静に分析しているルージュに、イオは少し驚いた様子で言った。
「ん〜何ができるかね〜・・・"色を使える"といえばいいのかな・・・口では表しにくい・・・しょうがないから見せるか」
そう言うとイオはポケットから豹柄のハンカチを出した。
「ちゃんと見ててね」
イオの一言にクラス中でざわめく衆は目を向けた。
イオはそれを確認し、手に取ったハンカチを空へ投げた。
そしてそれに手をかざした。
その瞬間だった。
ハンカチはまるで炎の中に放り込まれたかのように赤く"燃え上がった"のだ。
「うわっ!なんだ今の!」
まるで手品のような出来事に、はしゃぐヴェント。
誰もが驚いていたことは言うまでもない。
手をかざしただけでハンカチが燃えるなんてみたことがある者はいないだろう。
「これが"色の使用"だ。つまり君たちはみんなこのようなことができる素質があるのだよ。まぁ効果は人によって違うがね」
衝撃だった。
まるで手品、いや魔法とまで言えるその行動を行うことができる、その事実を知らされたその場は、まさに歓喜と不安の混和であった。
「ホントにそんな魔法のようなことができるの?」
ネピアは疑わしげな目で見た。
「そうだよ」
生徒たちが騒ぐ中ただ一人ルージュだけは思いにふけっていた。
(―――どこかで)
そんなルージュの思考を遮るかのごとくイオが言った。
「みんなこの事について色々気になることはあるかもしれないが今日はここまでにしよう。入学式だしな。世界についてはまた明日だ」
皆、興奮収まらぬ中それぞれ帰路についた。
未だ昼前後で日は燦燦と降り注いでいる。
「全く・・・今日はいままでになく騒がしい日だったな・・・気になることは多いけど」
帰りの道中、森を通るルージュは草木が生い茂る道の真ん中で呟いた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
翌日、ルージュはまた昨日とおなじ教室へ行った。
もちろん皆いる。
ヴェントとネピアも。
「ヨォ!ルージュ!」
「おはよう、ルージュ」
「おはよう」
「今日は何か色々やるらしいぜ」
ヴェントは興奮した様子である。
昨日知り合ったばかりだというのに、その人懐っこさからすでに親友であるかのごとく接してきた。
「何かってなんだよ。結局何やるかわかってないじゃないか」
それをルージュはサラっと受け流した。
すると教室にイオが入ってきた。
同じく紺色の髪の毛を揺らしながら。
「おはよう、みんな。今日は昨日の続きだ。世界についてだったな。君たちはもちろん昨日私が見せるまで"色の使用"を見たことはなかっただろう?それはなぜか、"色の使用"を使えるのは限られた人間だけだからなんだ。そう、それが君たちや先生方だ」
ルージュの思考は昨日の自らの感じた違和感の核心に迫っていた。
オレは見たことがある、と。
どこかで。
「先生、なんでオレ達は色の素質があるんですか?」
生徒たちが訊ねた。
「それはね、・・・大体は天性のものだよ。つまり、偶然だ。ただ、先祖代々ってこともあるらしい。その場合は特別な色を使ったりするのだが、稀だからな。詳しくは先生にもわからない」
「ん?ってことは色ってみんな違うんですか?」
ネピアが興味津々に訊ねた。
もっとも、どの生徒も目を見開いて話を聞いていたが。
「そうだ、君は鋭いね。4大色というのがあってね、青、赤、黄、緑、このどれかの派生であることが多い」
「その他にはないんですか?」
ルージュが言った。
彼はいまだに何かしっくりと来ないものを感じていた。
「うん、あるよ。黒と白だ。これは特別なんだよ。そのうち話すさ」
・・・・特別?
ルージュは気にかかったがイオは話を進めた。
「鋭い子はこれまでの話を聞くとわかるかもしれないが色を使えるのは決して善良の人なわけではないんだよ。大体素質は偶然だからね。つまりもうひとつの世界とは、一般人が知らないところで繰り広げられてる色持ちの人間による争いだよ」
「争い!?待ってよ、じゃぁ私達は戦いをしなければならないの?」
皆が動揺する。
それもそうだ、戦え、と言われて何の理由もなしに戦う人間は傭兵、またはただの狂人である。
17歳の彼らがそこまで狂うにはまだ時間が必要だ。
「いや、必ずしもそうだとは限らないよ。安心してくれ」
イオは異変に感づいて生徒たちをなだめようとしたが手遅れだった。
「それは嘘でしょう?先生。色を持ってる以上関わらないことはないはずだ。なんたって色持ちの戦いなんでしょう?」
ルージュが冷静に言う。
そのおかげで生徒たちの動揺はさらに高まった。
すくなからず隣のクラスからもざわめき声が聞こえたところから察すると、どのクラスでもこの話をしているらしい。
「大丈夫だみんな。闘わなくても済む方法もあるから!」
「大体・・・なんで争ってるんですか!?」
困惑している生徒達からは非難の声が上がった。
「それは―――欲望だよ。誰にだってあるだろう。身勝手なソレを良しとするか否とするか・・・簡単な話だ」
(それは何か違うな)
欲望なんてどれも身勝手な物だ。
ルージュは心の中で、自分の持つ倫理観を以て、批判した。
騒ぐ生徒たちをなんとか鎮めた先生は明日、どうしても戦いたくないものがどれくらいいるか調べるから、決心を決めといてくれといって職員室の方へ行った。
もちろんどのクラスでも言われたことは同じだった。
誰もかれもが憂鬱な表情を浮かべている。
昨日とは一転して暗い背中にいつも輝いている太陽の光が降り注いだ。
(オレはどうするべきか)
ルージュは考えていた。
このときばかりはヴェントもネピアも元気がなかったのは言うまでもない。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
翌日の朝、昨日と比べて登校する生徒たちが少ない。
それもそうか、とルージュは思った。
クラスの人数は10人程度になっていた。
30人も入る教室に10人となるとどこか侘しい。
空虚感は否めなかった。
そのうえ、その中でも戦いたくないものが何人か。
結局残ったのは5人だった。
その中には、ルージュ、ヴェント、そしてネピア。
「なんで残ったんだ?」
ルージュはヴェントとネピアに尋ねた。
「なんでって・・・色使えたら楽しそうだから?」
事の重要性を理解しているのかしていないのか―――ヴェントの声は楽しそうだった。
「アンタ何それ、・・・・・まぁ馬鹿だからしょうがないか」
「何を!そういうおまえはなんでだよ」
ヴェントは強く彼女の言葉に反発した。
「え?私はね・・・実はこの学園の教師の中にお母さんがいるの」
「へ?そんなこと何も言ってなかったじゃないか!それに色のことも知らなかったし」
「そりゃそうよ。私が知ったのも昨日だから。お母さんにね昨日のこと言ったら教えてくれたの。言う時が来たって言って。いままで嘘ついててごめんって言ってたけど」
「よくいままでバレてなかったね。相当隠すのがうまいらしい。」
ルージュは外を見ながらなんともなしに突っ込んだ。
「むっ・・・そういうルージュは何で残ったのよ」
「オレ?―――なんとなくだよ」
「答えになってないじゃん」
ヴェントが反論した。
「そう?―――でも何となくだよ、己の中の確信にしたがったっていうところだな」
ヴェントの方を向いて言ったルージュの顔は少し暗かった。
(それに・・・力は役に立つからな)
「なんだよ、カッコイイこといっちゃって」
ムスっとした表情のヴェント。
それを見て少し楽しそうにするルージュ。
ネピアも笑っている。
だが彼らはまだ背負わなければならない使命の重みを知らずにいた。
そこに狙ったように先生が入ってくる。
「まぁ理由はともあれ君たちは覚悟したわけだ。それだけで十分じゃないか」
およそ1000人もいた生徒たちは全部で150人ほどになっていた。
もちろん残った生徒は何かしらの問題や決意を持っているものだけだった。
「だからあんなにたくさんの生徒を募集しているのね?」
ネピアの問いにイオは答えた。
「ま、それもある、それとできるだけ色の所持者をそのままにしておきたくないからな。とはいっても世界中に所有者はいるわけだから全部ってわけにはいかない。だからこれからのことを考えて若い学生を選んでいるのさ。したがってたくさん生徒を集めるためにこの学校のモットーは学費ゼロだ!フフフ・・・いいだろう!」
ふふん、と鼻を鳴らすイオだが思ったより反応は薄かった。
がっくりと肩を下げる。
「・・・・・そういえば他の生徒たちはどうなったんです?」
イオの言動と行動を見事に受け流したルージュが尋ねた。
「他の子供たちは・・・・入学してから話した色についての記憶はすべて消されたよ。まぁ、保護者に話してあったとしても信じないだろうから大丈夫だし。その後は何ともないどこの学園でも同じような入学式を記憶し、もうひとつの学園へ通っているよ。あと、素質も消えてるはずだ、俗に言う封印ってやつ」
「は?」
みんな揃っていった。
いきなり予想しえない言葉があふれてきたので彼らは理解に手間取ったのだ。
「つまりこの学校は表と裏があるんだ。君たちは裏の学校、そしてほかの子供たちは表、ってことさ。あとの方の答えは簡単だよ、いずれ色持ちとして開眼して敵になるかもしれないからさ」
「でも学園入口は同じのはず・・・・それに」
ネピアが言う。
だが確かにそれはもっともな意見だった。
「それも色の使用さ。校長のね。君たちとは敷地内に入った時からいる場所が違うんだ」
そこでそれらを遮るかのごとくルージュが言った。
「あとのことは大体予想がつく、で、オレたちはこれからどうするんです?」
「そうだね、これからは色持ちとしての開眼のために訓練して、そのあとはそれぞれの特性の理解、会得かな」
「それぞれ?」
と、ヴェント。
「前にいったよね。人によって色は違うって」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
最終的には150人がまた集まり、また別のクラスに分けられた。
25人、6クラスである。
「いやぁ〜あんなにいた生徒もこんなに少なくなっちゃったな」
ヴェントは日の当たる廊下をルージュと歩きながら言った。
「そうだな。随分減ったもんだ」
「今日は何をやるんだっけ?」
すると後ろから例の女の子の声がした。
いつ聞いても勝気な声である。
「自分の色を調べるんでしょうが!」
もちろんネピアだ。
オレンジの服を着ているが、彼女の髪の毛は光に照らされ、それ以上に輝いていた。
「朝から君たちは騒がしいね」
ルージュは疲れた顔で言った。
今となってはこのやり取りはいつものことだ。
「さ!今日はドキドキの色判別回だよ〜」
イオが楽しそうに言ったが、反応は鈍かった。
「まったくみんな元気ないな。」
「そりゃそうでしょ、戦うんですから」
皆の不安を一挙にルージュが代弁した。
「いやいや、そんなに早くから戦わないからさ、安心してよ」
イオはようやく原因に気づいたらしい。
また咄嗟のフォローを出した。
「それじゃ、始めますか。この紙をみんなに配るから5分くらい手を乗せてみて」
「なんだよ、また紙かよ」
ヴェントはつまらなそうな顔をしている。
「いや、前のとは違うから。ちょっとだけだけど」
その紙がみんなに配られると一斉に手を乗せた。
・・・・・・5分後
彼らの紙にはそれぞれ別々の色が付いていた。
青、赤、黄、緑、またそれらが混ぜられてできる色など様々だった。
色とりどりの紙が教室に溢れ返った。
「おお、俺は緑だ!」
ヴェントは紙を手に取ると大声をあげた。
「私は青ね」
笑みを含んだ顔のネピアが言った。
しかし、皆が喜んでいるわけではなかった。
各々が色を見せ合っている中、一人だけためらっている者がいたのだ。
ルージュである。
「おいルージュ、どうしたんだよ。見せろって」
「ねぇ、4大色って青、赤、黄、緑の系統だよね?」
「そうよ?」
不思議そうな表情でネピアが答える。
「そのほかに何か色はあるといってなかったっけ?」
「え〜と・・・私が覚えているのは黒と白かな?でもそれは特別な色で―――まさか・・・・」
ネピアは驚いた顔でルージュを見た。
「そう・・・・そのまさかさ」
ルージュが紙から手を離すと紙には黒色の手形が付いていた。
すべての色を飲み込むかのような漆黒が紙の上にどっしりと座っている。
「なんで―――」
ルージュは自分でも驚いている。
そこへイオが歩いて来た。
少し困惑した表情だ。
ほかの生徒たちも目を向ける。
「まさか黒を持つ子がいるとはね。ふむ、黒色ってのはねホントに特別な場合じゃないと現れないんだ。まぁ一種の突然変異ってやつかな。それが起こる条件ってのが、先祖代々の多くが色の開眼をしていて、かつ、それぞれがもつ根本的な色が異なっていないといけない。黒ってのは様々な色を何度も濃く混ぜることで生まれるんだよ。つまり、君は何百年も前からの先祖の集大成ってわけ」
(まさか本当にいるなんて―――奇跡だ)
そう言っているイオの胸中には一種の焦りが生まれていた。
それも最大級の。
「―――オレが」
「君の親族は裏の世界に関わりがありそうだね」
「そうですね・・・そうかもしれません。でも・・・親族にそのことは聞きようがないんですよ。・・・親族・・・いないから・・・」
ルージュは遠くを見る目で言った。
「いない?」
「そう、いないんです。いや、知らないといった方がいいのかもしれない。オレはどこで生まれたかさえも知らない。独りで育ったから。ちゃんとした故郷がないんです・・・。まぁ故郷と言えるかわかりませんが、最も長く暮したところはこの国の首都ですかね」
そういうと暗い表情を浮かべた。
空がそれに呼応するかのように曇りはじめ、すぐに雨が降り出した。
「そうか、君も随分大変なんだね。ま、がんばりなよ」
案外そっけなくいうとイオは他の生徒のところへ行った。
「その・・・いいじゃないかルージュ!滅多にないんだぜ?」
ヴェントが心情を探るように言った。
「あんたは馬鹿ね、ルージュは嫌なことを思い出しちゃってるんだよ!少しは黙ってなさい」
「はい・・・」
「いいんだよ二人とも、気にしないで」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
チャイムが鳴る音がする。
あたりはもう暗くなり始めていた。
「校長どうしますか?ついに"黒"を持つ子どもが現れました」
・・・この声は、イオだ。
なにやら校長と話をしている。
「ふむ、どうしようといってもな・・・。私達にはどうしようもできまい?その子もなかなか辛いものをもっているようだし。学園から追い出すわけにもいかんだろう。それに追い出すにしても"黒"を封印することはできないだろう?」
「しかし!これは千載一遇のチャンスであると同時に、危機でもあるのですよ!このまま此方側にいるなら大きな戦力になりますが・・・仮に彼が敵に渡ったら―――」
イオは殺気立った顔で話している。
それを見るとため息をついて校長は語り始めた。
「そんなに焦るでない。"黒の子"がすべてではないだろう。他にも勇敢な子供達がいるのだ。今は子供たちを育てることに集中すればいよい。わかったな?」
校長はイオを優しく説得した。
「―――わかりました。ただ、"黒の子"はどのように訓練すればいいのか・・・世界にとっても初めてかもしれないので。前例がありません」
イオは落ち着きを取り戻したようだ。
「私も驚いているよ。古代の研究からは理論的には現れるとされていた黒が、今生まれたことに。こうなった以上"予言"は真実ということになるな。まさかアレが真実だとは思ってもみなかったが。"黒の子"についてはとりあえずは普通の訓練をさせるべきだな。わからないことはどうしようもならん。私もできるだけ調べてはみるが」
その頃、ルージュは家にいた。
学園自体も国の首都から数十キロ離れているが、
ルージュの住む小さめの共同居住スペースは学園からさらに6〜7キロ程離れた場所にあった。
学園に入る数か月前に自費で買ったものである。
「今思えばオレもいつのまにか17になったんだな・・・。長かった。たった17年が・・・」
ルージュの住んでいるアパートは国から支給される資金をもとにしているので家賃はほとんどかからない。
しかし、生活するために必要のものは自分でそろえなければならなかった。
"独り"だった時代から生きるために自分で金を稼ぐしかなかったルージュはこの国の中心にある行政地区で人々の依頼をこなしてきた。
依頼してくるのは金持ちばかりだ。
荷物運びから警備、はたまた尾行まで多々ある仕事をこなしてきた。
もちろん中には"依頼通り"の仕事じゃないこともあったが、ルージュはそれを見て見ぬ振りをしてきた。
(生きるためだ)
と言い聞かせて。
そのおかげでルージュは体力的にも精神的にも鍛えられていった。
そして17歳。
ルミナス学園に入る。
ここは公に発表されているわけではないが国からの多大な援助を受けているらしい、と依頼人から聞いたことがあった。
数々の依頼人がいたので情報はいくらでも仕入れることができたのだ。
生きるのに執着していたルージュはある程度生活が安定すると自分に興味が向いた。
自分の生い立ちを知りたくなった彼はこの国から調べることにする。
「まずは・・・ここ、"ロワ・エスカリエ"からだな・・・。」
そう、この国の名は"ロワ・エスカリエ"<王の階段>と呼ばれている。
一般に世界は主に7つの国に分かれるとされ、それぞれの国の人々はそこの特色に大きく影響されていえる。
特徴が違うため「○○人」といって分類されることが多々ある。
そしてロワ・エスカリエはこの7つの国々の中心にあり、古代からその天空には王の一族が住むとされていた。
どこの国にも"王に似た者"はいる。
しかし、古代最も力を持ち"神"とあがめられ、唯一の王とされていたのはロワ・エスカリエの王であった。
現在この国の政権は有力な貴族たちにゆだねられているが―――
ルージュはこれからの目的を捕え静かに眠りについた。
「ふぁ〜眠っ」
ヴェントの口があくびで大きく開いた。
「眠そうだね、ヴェント」
ルージュが言った。
「そりゃ眠い眠い、なんたって昨日の夜は2時まで起きてたからな」
まだあくびを続けているヴェントは答えた。
「そう、それじゃちょっと離れるね」
ルージュは何かを悟ったようにヴェントから数歩下がった。
彼はなかなか状況察知能力があるようだ。
「え?」
ヴェントが気づいた時には遅かった。
ボスっ・・・ヴェントの頭に茶色のカバンが当たった。
それと同時にヴェントは前のめりになる。
地面と顔を合わせる直前で踏みとどまった。
「いって!・・・だーれーだ!?」
ヴェントは振り向いた。
「よし!今日も好調好調!」
いつも通り赤橙色の髪の毛の女の子だ。
カバンを拾って駆けて行く、その長い髪がなびいた。
「さ!早く学園にいくわよ」
「え?別にそんな急がなくたって間に合うだろう。なぁルージュ?」
そういうとヴェントはルージュの方を向いた。
が、ルージュはもう前方に走っていた。
「君の時計は随分なまけものみたいだね。」
ルージュはヴェントに言うとネピアの後を追って行った。
ヴェントは腕時計を見るが異変に気づかない。
隣を走って行った生徒に時間を聞いてようやく気づいたらしい。
「・・・・あぁ、なるほど」
ヴェントも悟って走り出した。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「ふぁ!間に合った!」
息を切らしたヴェントがようやく教室についた。
「案外走るの遅いんだね?」
ルージュは軽く馬鹿にしたような口調で言った。
「うるせぇい!おまえが速過ぎるんだ!ゼェ・・・ハァ・・・」
「おはよう。みんな」
いつ通りの時間に寸分の狂いもなく、イオが教室に入ってきた。
「さぁ!入学から1週間経ったね。この1週間で大体の歴史的なことや今の状況は話した。今日からは待ちに待った色の訓練だ。心してかかるように!」
イオの言葉は窓から差し込む白い光を受けて明るくなった教室に響き、そして生徒たちに新たな刺激をもたらした。
「おっしゃぁぁぁ!やってやるぜ!」
騒ぐのお馴染みのヴェント。
「うるさいよ、ヴェント」
さらにいつもの呆れた表情でルージュが言う。
少し経って、イオがまたいつもの"紙"を持って教室に戻ってきた。
「それでは今からこの紙で・・・」
イオが説明を始めた途端にヴェントが叫んだ。
「ああああ!どうせいつものだろ?もうわかったって・・・。」
「うむ、それでは今日はこの紙全体に色を塗れた者から次のステップに進むとしようか」
「えっ、全体?・・・ヴェント、アンタはいままでどのくらいいけた?」
ネピアが尋ねる。
イオからの思わぬ要求に生徒たちもざわめき始めた。
「ん〜・・・半分くらい?」
ヴェントも少し驚いているようだ。
「それじゃ、始め!」
イオの声がまた教室に響いた。
「・・・・・」
ルージュは少し黙っていると、立ち上がってイオのもとへ歩いて行った。
「ん?どうしたんだ、ルージュ。」
イオは不思議に思って尋ねた。
「もうオレ、全部塗れます。」
小さな声で囁いた。
「え?そんなわけないでしょ。」
イオは信じていない。
するとルージュは紙に手をかざした。
手に持った紙は朝の光を浴びて精一杯輝いていた、が――――
「まさか・・・」
紙が徐々に黒に染まっていく。
イオは呆然、生徒たちも手を止めてルージュを見た。
数秒後、紙の輝きは消えた。
「コレで・・・いいですか?」
みんなの視線を少し気にしながら言うルージュ。
「あ、ああ。それじゃあついてきなさい。」
イオは未だに目の前の紙が信じられないといったような表情を浮かべていたがルージュを連れていった。
教室には沈黙と驚嘆の念がただ宙に浮いていた。
「―――俺もやるしかねえな!」
やる気を出すヴェント。
しかし、大半の生徒はまだ驚嘆の色を隠せないでいた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「次は何をするんです先生?」
ルージュは前を歩くイオに質問した。
「そうだな・・・君は私が初めてハンカチを燃やしたとき本当に色でハンカチを燃やしたと思ったかい?」
「どういう意味です?」
「ちょっと回りくどい言い方をしたかな。まあいい。タネを明かすとね、あれは色だけの効果じゃないんだよ。まあ色が根本にあるわけだが」
木でできている廊下を歩きながら言った。
廊下には赤い絨毯がひかれ、壁にはいかにも高価そうな絵画、天井はシックな雰囲気の木があらわになっている。
「・・・・・それで?」
ルージュはイオの回りくどい言葉に突き刺すように訊ねた。
「う・・・君は物事をはっきりいうね。」
「言わなければ話が進まないじゃないですか。」
「あれはね、私の持つ"色"のイメージを具現化したものなんだ。私の持つ色は"赤"、そしてハンカチを燃やしたときイメージしたのが"炎"というわけさ」
「なるほど・・・先生は他のイメージも具現化できるんですか?」
「ん〜、あといくつかはあるけど・・・。複数のイメージを使うのは結構高度な技術が必要なんだよ。あとね、大切なことがあるんだけど・・・・イメージと自分の色が合わないと具現化はできない」
「それって・・・イメージは結構個人で変わりますよね?ってことは使用者が炎を"青い"と認識していても自分の性質が「赤」だったら使えない・・・?」
即座に理解したルージュは確認の返答を求める。
ルージュとイオは職員室前についた。
隣には校長室がある。
「そうだね」
イオはルージュの思惑通りの返事をした。
「つまり、"色の使用"は、いままで培ってきた"個人の固定観念"に大きく影響されるんだ。
おそらく君の"黒"も例外ではない」
「・・・・・・そういうことか」
ルージュは再度納得した。
と、同時に自分の持つ「黒」のイメージの曖昧さに気づいた。
「まぁ他にも色ごとに使いやすいイメージとかがあるけど、君はなにしろ"黒"だからね。私からは何も言えないんだ。すまない。まさか君がこんなにはやく色を習得するとは思っていなかったよ。他の子たちは最低でもあと1週間はかかるだろう。」
イオはため息交じりにそう言った。
「じゃぁその間オレは何を・・・」
「ん〜・・・どっちにしてもみんなが色を手に入れたらその後は個人訓練だからな〜。君はもうそれに移ってもいいね。」
「なんで個人で・・・先生が教えた方が早いんじゃ・・・」
「自分の持つイメージは他の人と違うことがあるでしょ?そういうこと。ま!なにか聞きたいことがあったら聞きに来なよ」
それじゃ、そういうとイオは教室に戻って行った。
(イメージ・・・・か・・・・)
窓から涼しい風が吹く。それは季節じゃない何かを予感させる風だった。
それから1週間、みんなが色を習得している間、ルージュは"黒"について考え続けた。
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「あぁ、今日は学園に行く日だったな」
ルージュは目が覚めると一切れのパンを口に含みルミナスへ歩きだした。
気持ちいい快晴の中、初めてできた友達に、2人に会うのを楽しみにしながら。
ルージュが黒を会得した1週間後のその日は珍しくヴェントもネピアも教室にはいなかった。
「あれ?ヴェントとネピアは?」
教室へついたルージュはクラスメイトに聞いた。
「ああ、あの二人なら体育館の方にいるはずだよ。毎朝早く来てるらしい。」
それを聞くとルージュは体育館へ急いだ。
体育館の扉の前、扉を開けようとすると入学式のときぶつかったせいなのかそれはきしんだ音をたてて開いた。
「おお、ルージュ、久し振りだなあ!」
ヴェントは満面の笑みで向かってきた。
「なに・・・・してるの?」
ルージュは汗だくのヴェントを見て言った。
「なにって、修行!」
ヴェントは楽しそうに言う。額から流れる汗が輝く。
「え、じゃあ色の会得は・・・・」
「んなのとっくだよ!ネピアもすぐだったぜ?」
体育館のステージの上からネピアが顔を出した。
「久し振り、ルージュ。」
ネピアはステージから降りながらいった。
「あなた、会得してから何してたの?」
ネピアが尋ねる。
「・・・・考え事。」
ルージュは小さな声で答えた。
「それじゃあ俺の方が今は色の使い方はうまいかもな!」
そう言ってヴェントはルージュの肩を叩いた。
「それはないでしょアンタ。私より下手くそなのにね〜。」
ネピアが皮肉っぽくヴェントに言う。
「そうか・・・みんな頑張ってるんだね。」
「さ!そろそろ教室に戻ろうぜ!」
ヴェントはそう言うと走って教室に向かっていった。
「ったく、自分勝手なんだから。いこう、ルージュ。」
「うん。」
教室につくとイオがもう来ていた。
「さて、これでみんな自分の色は会得したわけだな。よくやった。これからは前に言ったとおり個人での練習が多くなるが、質問ならいくらでも受け付ける。」
(学園で練習するのもアリだ)
「1年制なのに個人訓練が多いんじゃ単位とか取れないんじゃないんですか?」
もっともらしいことを誰かが言った。
なんといってもここは最終教育機関なのだ。
卒業できなければ話にならない。
「ふむ、いい質問だ。が、君たちはもう単位を取ったよ。「単位」イコール「色の習得」だ!」
教室に沈黙が走る。
誰かが沈黙をやぶるのをみんな待った。
「はやっ!」
ヴェントが真っ先にみんなが思っていることを口走る。
「でも大変なのはこれからだよ。イメージの具現化はこれまでとは比べ物にならない!さ!だから今からでも訓練訓練!」
イオはそう言うと職員室の方へ戻って行った。
「な〜んかこの学園って放任主義だよな。」
珍しくヴェントは疲れた表情でルージュに言った。
「まぁいいんじゃない?オレは嫌いじゃないよ。」
ルージュはまだ考え事をしているらしかった。
窓から外を見ている。
「・・・ねえ、ヴェントとネピアは自分のイメージの確立はできた?」
すると、ルージュはようやく気になっていたことを口にした。
「フフフ・・・聞いて驚くな!俺は―――」
ヴェントが言おうとしたときネピアが横から口を出した。
なぜかヴェントの言葉はすぐに遮られる。
「私は物質とかじゃないけど"治癒"に関係した事よ」
うまい具合に話を遮られて小さくなっていたヴェントはすぐさま声をあげる。
「うおおぃ・・・俺が言おうとしたのに・・・俺は今のところ"自然"に関するなにかだな。緑って自然だろ!?」
ヴェントは嬉しそうに言った。
「まぁ、馬鹿なりにイメージが確立できてよかったんじゃない?」
鋭い切り返しが彼に返って行った。
「なんでソレにしようと思ったの?」
ルージュは興味深くなって聞く。
真っ先にヴェントが答えようとしたが、
「楽しそうだか―――」
また途中でネピアが遮った。
「みんなを助けることができるでしょ?それが私の理想だからよ。特に"馬鹿"がいると余計大変だし。」
そういうとネピアはヴェントを見た。
「・・・・・・」
ヴェントは仏頂面でネピアをにらんでいる。
「そう、君は優しいんだね。」
ルージュは言った。
「は?コイツのどこが優し・・・グヘッ。」
ヴェントにいつものカバンが飛んでいった。おそらく2,3発の拳も入っただろう。それに直撃した「彼」はその場に崩れた。
「―――オレは・・・まだ決まってないんだ。」
ルージュは本音を出した。
「何となくそうだと思ったわ。」
ネピアは優しく言った。
「オレは「黒」にあまり良いイメージを持っていない。どちらかというと負のイメージばかりだ。具現化するのが少し怖い。どうすればいいのかな―――」
落ち込んだ様子のルージュに先ほどまでもがいていた"彼"が言う。
「別にそれでいんじゃないの?」
「え?」
「だってそれしか浮かばないならいいとそれにするしかないじゃん。なんなのかは知らないけど。それにそんな強いイメージなら結構使いやすいんじゃないかなぁ〜・・・なんて。あ〜痛ぇ」
するとネピアが珍しくヴェントに賛同した。
「たまにはアンタも良いこというじゃない」
「たまには?いつもだろ?」
ヴェントは訂正を求めた。
「―――それはないな。偶然でしょ。ま、でも、君らの言葉で決心はついた。ありがとう」
そういうとルージュは帰る準備をし始めた。
まだ朝日がまぶしいのに。
「あれ?帰るの?」
突然の行動に疑問を浮かべたネピアが言う。
「ああ、オレは1人で修業した方がよさそうだ」
「?」
二人は不思議に思ったが、決心のついたルージュを止めないようにした。
「それじゃ」
「またね」
「じゃあな」
・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・
「そうだ、これから戦うんだったな」
夜の暗闇の中でルージュは呟いた。
彼らの運命はまだ動き始めたばかりだった――― |