俺は高校中退し、以来アルバイトをしながら、雑誌に作品を投稿する作家見習い。
以前はファンタジーなんぞを書いていたが、酷評を頂き、あっさりやめた。
今はホラージャンルに挑戦中。なのだが、いかんせん、すこぶる強敵だ。
怖いって、そもそもなんだ? 殺人鬼? 幽霊? エイリアン?
なにかが足りない。
例えば殺人鬼。
幼い頃両親を亡くし、愛情を知らない男は愛情を求めて……女を殺す。
ママはずっと一緒に居てくれる。と男は死体を抱きしめ、今日も眠る。
……怖くもなんともない。ただの変質者だ。
例えば幽霊。
有名な都市伝説。
真夜中、街頭に立つ白いコート姿の女に近づくな。 それを無視して女の前を通り過ぎた男……。
女は男に声を掛ける。
か細い声だ。
「探し物があるんです」
気味の悪い女だ。
男は聞こえないように小さくつぶやくと、女に問う『何を探しているのか?』と。女は優しく微笑むと、着ているコートを脱ぐ。
男は全身が凍り付いた。「からだ……探して下さい」
宙に浮かぶ女の生首は、男を見つめた。
……いまいちだな。ありきたり過ぎる。都市伝説なんて似たものばかりだな。
例えばエイリアン。
突如飛来した隕石。それに付着していた微生物は、酸素を栄養にし、次第に成長。姿はミミズと酷似。餌は動物の脳。特に生きているうちに喰うのが好み。
エイリアン・ワームは、犬、猫、鳥、馬、牛、様々な脳を喰い、そして人間の脳を漁りはじめた。
深夜、僅かな隙間から身体を細く伸ばし室内へ。
壁に張り付くと、尺取り虫のように身体を伸び縮みさせながら前進し、目的地の寝室へと侵入。
寝ている人間の耳元にぽとりと落下し、耳の穴から内部へと這いずり、血液を循環させる脳にへばり付くと、一カ所に針状の触手を突き刺し吸引。あっという間に脳を吸い付くす。
……だから? エイリアンはそもそも何がしたいんだ? 食事? だったら人間でなくても犬、猫止まりでも構わないはずだ。いや、第一まるで怖くない。
とこんな感じで悩む毎日が続いている。
締め切り三日前だが、原稿は見事なくらいに新品同様の真っ白だ。
……最悪だ。俺にはこの時期が一番怖い。
ダメだ。弱きになるな。飯食えなく…………。
あ、そうだ。
例えば遭難。
大学の卒業旅行に、近場の山の山頂から朝日を見ようと友を誘った。
来たのは三人。五人に声を掛けてこれなら大成功だろう。
標高は大した事はなかった。だが、手入れされていない獣道から、いよいよ迷子になってしまった。
焦り、苛立ち、空腹、闇の恐怖。三人は精神を削られていく。
一人の女が、泣き叫びながら急に走り出した。
「待て!」
制止しようと声を上げた瞬間、悲鳴とともに姿を消した。崖から転落したのだ。
「もう、もうやだ! もうやだ! もうやだよ! 帰る! 帰らせてよ!」
更に発狂するもう一人の女。なんとか落ち着かせようと近づいた時、運が悪過ぎた。
後ずさりした女は石につまづき転倒し後頭部を岩石に強打。更に鋭く伸びていた枝が喉を貫いた。
「助け……いた、いよ……」
即死ではない。だが、もう。
「おい。食べるもん探せ、あと服は防寒になるから全部脱がせろ」
……何を言ってんだ?
男は服を全て脱がすと、死に掛けの女に覆いかぶさり、己のものをさらけ出した。
「どうせ死んじまうんだ、気持ち良く死なせてやるよ」
「やめ、いや……死にた、く……」
女が息を引き取った事を構いもせず、男は乱暴に腰を突き出している。
次の瞬間、男は女同様息絶えた。
男の首がごろんと転がり、それを踏み潰す。
男の首を切り飛ばしたのは、草払いに使っていたカマ。
血のべったり塗られたカマを投げ捨てると、女を抱き起こす。
「俺の嫁になにしてんだよ。なあ、マキ……」
男は死体に口付けした。
……ホラーか、これ? 盛り上がりに欠けるな。
あー、くそ! まったくネタが思い付かん!
……腹減ったなあ。確か冷蔵庫にソーセージがあったような…………。
あ、そうだ。
例えば冷凍庫。
真夜中。急な空腹に目を開けると、冷凍のピザがあったのを思い出した。
冷凍庫を開けると。
「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん! 私は冷凍庫の妖精でーす!」
透き通る四枚の羽を羽ばたかせ飛んでいるのは、十センチ程度の大きさの女の子。
「あなたの願いを一つだけ叶えましょー!」
「神にしてくれ」
その即答に、ミニマムな女の子は何度もうなずいて答えた。
「うい、おk!」
ミニマムな女の子は、どこからか取り出した爪楊枝のような杖を振る。
「お願い、アズライール!」
光に包まれると――姿を消した。
「あははー。神なんてものは存在しないから、消滅しちゃったんだね!」
願い事は慎重に!
……今日はダメだな。さっさと寝るか。
あー、ネタが出ない。
こわいはなしを考える。 終
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