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朽ちていく三つ

作者:小坂戒



 人形街と呼ばれるところはとても薄汚い。
その上昼も暗いときているのですから、滅多にに人が通りかかるなどということが無くなってしまうのも当然なのでしょう。
人といいますのは一般の人という意味であって、夜の人形や金を持て余した大人たちが妙にぎらついた目で街路をうろうろして行く様は良く見えました。
他にはほんの一部だけ人形師と呼ばれる人間と竿師と呼ばれる人間がおりまして、前者は昼に後者は夜にしか姿を現さないというこれまた変わった種類の人間でありました。
人形師というのは名は態をあらわすと言うように人形を作る仕事をする種類の人間で、竿師はその人形の使い心地を他の人間より冷静に確かめる仕事をする人間でした。

 この街で客といえば、本当のただの人間です。
つまり、小さいままの脳で大して感じる事もできないのに足繁く通ってくる酔狂な連中のことです。
矮小な人間ほど自分の身体を捨てようとはしません。
言い訳は決まって親から貰った体とか、機械に乗っ取られたくないだとかつまらない事ばかりなのです。
その親は生きることにしがみ付くあまり人であることを辞めていますし、身の回りは機械ばかりがあるというのですから、どうして人間というのはここまで矮小なのでしょう。

 一応人間である竿師は機械を受け入れたという所で少しは賢明でした。
ですが、所詮は下らない事の為に己の性器を機械化し何をするかと思えば機械の性器と合わせて調整の仕事をするというだけ。
曲がりなりにも脳にまで機械神経を走らせたといいますのに大部分が元の脳であるせいか竿師も所詮は下賤の輩に過ぎませんでした。

 人形師は三者の中では一番利口な種類の人間でした。
生業としているものは非常に下賤ですが、ほとんどの脳が機械化されていて肉体もまた同じ様に機械化されています。
その為でしょうか、無駄なエネルギー消費もしませんし愚かな衝動も湧き起りません。
人形師が脳は客と同じであれば、たちまちこの街は成り行かなくなるでしょう。
この世の中のどの人間であれ人形師以上に理想を叶える存在など在り得ないと誰もが思っていたのです。
それでも、虚栄であるとか性欲に流されないのが人形師です。
そもそも性欲も虚栄心も自分で捨てたのですけれど。

 客に竿師に人形師。
この三者を繋ぐものが人形です。
客にとってはこの世で最も快楽的な異性、竿師にとっては仕事の相手、人形師にとっては愛しい子供。
それぞれが思い々いに勝手な事を人形に抱いて、その執拗な念がこの街の正体だったのではないかと思えます。



 人形街に棲む中で最も人形に近い存在が人形師です。
埋め込んだ回路で直接、人形から情報を受信する事が出来るので時に人形そのものの時もあったぐらいだと言われています。
同じ精神を共有した場合、人形に惹かれてしまう精神などというものがあったところで何の不思議があるのでしょう、勿論今だからこその考えでしょうけど。
溶け出した精神は人形と一つになって、何を考えたのか。
予想の仕様も無い事ですが、ただ肉体的な快楽しか知らなかった人形が精神的な快楽を得たということは間違いが無いのでしょう。

 人形が知らない事を知ってしまい、それがとても気持ちのいいことだとしても人形には関係はありません。
関係があったのは一つになった精神の方にでした。
切り離されてそのままだった精神はあまりの気持ちよさにでしょうか、元の精神に情報を送ったのです。
肉体的な快楽を捨てた人形師は精神的な快楽を求めて人形を作ってきました。
初めはただ作りたくて、次にはいやらしい事をさせるという背徳的な興奮を得るために、最後には共に快楽をむさぼるために。

 必然的な結果として人形師の殆どが人形と同期してしまい。
後には半分機械の死人が大量に残されていきました。
世捨て人であった人形師の終わりは己の工房で椅子に腰掛けながら一休みをしているようなものが多かったと聞きます。
所詮、人間だったということなのでしょう。

 人形師がいなくなってしまった街にはさらに死体が増えてしまいました。
全てが機械で構成され、外見だけがどこまでも人間のようでそうと肯んぜないほどのかんばせをもった死体が。
こちらは一瞬の情欲の置き火の中で死んでいきました。
人形師のどこまでも静かな死に比べると、非常に騒々しく、声がかすれるまで喘ぎ動けなくなるほど腰を振り最後は死ぬといったものでした。

 人形がいなくなると客もいなくなります。
それでも少しの客は人形が与えた快楽を忘れられずに死体となった人形に挿入し、諦めきれずに惰性の放出をしたようです。
そのような客たちもいつかは去っていってしまい、この街は死の町となりました。
住んでいるのは人のようで肯んぜないほどの美しさをもつ人形たち。
当然ながら、この街の名前も呼ばれ方も昔と変わっていません。
単純に忘れ去られてしまっただけかもしれませんけれど。

 どれだけ忘れられようといつか誰かが探してくれる。
世の全てを覚えようとする者がいなければいけないと私に教え込んだ人がいます。
その人は信じられないほど綺麗なのに、とても客臭くて忘れたくないというのが口癖でした。
私の役割はこの街の歴史を伝える事ではなく、この街を訪れたもの達に精神的な快楽を与える事です。
私を作った人がそうだったように。



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