2
目が覚めたとき、私のヘルメットはすでにはずされていた。私は薄暗い場所にいて、木でできた天井を眺めながら、床の上に寝かされていた。そばの壁には窓があり、氷ごしのあの青っぽい光が差し込んでいる。
物音がしたので首を曲げると私のヘルメットがあり、一人の男がそれを調べているところだった。おもしろそうな表情であちこち向きを変え、ひっくり返して裏側をのぞき込んだりしている。私は男を見つめた。もちろん知らない顔だった。
男も私に気づき、見つめ返してきた。白いヒゲを伸ばし放題にした老人だ。背は高くはない。目玉はぎょろりと大きく、ピンク色の肌はしわだらけだが、嫌な感じはない。眺めていると、なんとなく笑い出したくなるような雰囲気がある。
「やあ、お嬢ちゃん」老人は言った。
「ここはどこ? あなた一人しかいないの?」私は再び部屋の中を見回した。だが部屋の中は空っぽで、壁や天井以外は何も目に入らなかった。
「そうだよ。わし一人しかおらん」
「ここはどこ?」
老人はにっこりした。「あんたも見ただろう? あの町の中さ。あんたは今、あの泡の内側にいるのさ」
思わず空気の匂いをかいでみたが、何もおかしなところはなかった。特に何の匂いもしないし、酸素もきちんと含まれているようだ。
「もちろんここの空気はちゃんとしとるよ」老人は言った。「外からは見えなかっただろうが、この町の内部には植物園のような場所があり、海草が大量に栽培されている。それが酸素を出すから、息ができなくなることはないのさ」
「あなたは誰?」
「わしの名はクリス。れっきとしたイギリス人さ。三十年前のことだが、首相の命令で北極探検隊が組織されたことを知っておるかね?」
「ううん」私は首を横に振った。
「そうだろうな。あんたが生まれるずっと前のことだ。ところであんたは、その潜水服を脱ぎたくはないかね? そのほうが楽だろう?」
クリスに手伝ってもらって、重い潜水服を脱ぐことができた。ずいぶん楽になり、立ち上がって歩き回ることができるようになった。クリスも立ち上がった。部屋の外へ出るそぶりを見せたので、私もついていった。
部屋を一歩出ると広い廊下になっていたが、なかば水没していた。この町は全体が少し斜めになっているので、半分が水に洗われているのだ。クリスはその水面を指さした。
「あんたはあそこに浮いていたのだよ。それを引っ張りあげたのさ」
「そうなの」私は少しの間口を閉じていたが、突然思いついて大きな声を出した。「トナカイ号はどうなったの?」
「あの潜水艦のことか? わしはすべてを見ておったよ。衝突したときには本当にびっくりした。ここの床もぐらぐら揺れたよ。鉄のドアが開いてあんたが出てきたときにも、またびっくりした。しかもその次は『塔』に爆薬を仕かけようとするじゃないか」
「塔?」
「本当の名は知らんよ。今となっては誰も知らないことだろう。だがわしは、この町のことをそう呼んでいるのさ。形が似ているからね。とにかくあんたは塔に爆薬を仕かけた。大胆なことをするもんじゃな。この塔は古びて、ガタガタになっておるのに」
「この塔はいつからここにあるの?」
「それは誰も知らんことだろうよ。わしが三十年前にやってきたときには、すでにこういう無人の状態だった。それはともかく、あんたが仕かけた爆薬のせいで塔の一部が崩壊し、ガレキが潜水艦をおそった」
「ええ」
「だが潜水艦は沈没することはなかった。エンジンをフル回転させ、何とかバックしてガレキの外に出たよ。あちこちへこんだひどい姿だったが」
「人が死んだりしたと思う?」
「それはどうかな」クリスは首を振った。「そのあとしばらく、潜水艦はじっと動かなかった。船の外には誰も姿を見せなかったな。だが再びスクリューを動かし、斜めに傾いたかなり危なっかしい姿だったが、何とか走り始めたよ。よたよたしながらゆっくりとだったが、どこかへ姿を消した。来た道を戻っていったようだったな」
「私はおいてけぼりにされてしまったの?」私は、両目に涙がたまってくるのをどうしようもなかった。
「それは仕方がないさ」クリスは私の肩にそっと触れた。「わしが艦長だったとしても、同じ判断をくだしただろうよ。空気パイプが切れてしまったのなら、あんたが生きている可能性はまずないと見るべきだろうね。それに船は傷だらけだ。生きている可能性がひどく薄いあんたのことよりも、他の乗組員たちのことを考えるべきだ。あの船にはたくさん乗っているのだろう?」
「トナカイ号は客船なの。お客さんが120人乗っているわ」
クリスは目を丸くした。「それならなおさらだ。一刻も早く浮上し、港へ送り届けるべきだよ」
「そうね」クリスの言うことは、私にもよく理解できた。
私は、部屋の中をある音が満たしていることに気がついた。私が見回し始めると、クリスも気がついたようだった。塔を作っている木と木がたがいを押し付け合い、きしみあうギーギーという音だ。
大きな音ではないが、まわり中から聞こえてくる。まるで壁の向こうやそこらの物影に何十人もの妖精が身を隠し、私たちの様子を探りながらこそこそささやきあい、さんざめいてでもいるかのようだ。
「この音かい?」クリスが言った。
「ええ」
「氷の下にもかすかな海流があるらしい。それに押されて、一日にほんの数メートルというペースだが、この塔はゆっくりと移動しているのさ。どこから来て、どこへ行くのかは知らんがね。だがとにかく、その海流を受けて塔がきしみ、この音が聞こえるらしいが、まるで目に見えない小人たちがおしゃべりをしているかのようだろう? わしはこれを『塔が歌っている』と表現しているのだよ」
「そうね。確かにそんな感じだわ」
クリスは私を連れ、廊下を歩き始めた。曲がり角をいくつも曲がり、交差点を何回も通り抜けた。幅の狭い急な階段を登っていった。
どこまで歩いても、塔の歌声はギーギーと聞こえつづけた。決して不愉快な音ではなかった。曲がり角を曲がっても、何かの物影に入っても、追いかけるように聞こえてくる。本当に妖精たちがさんざめき、姿を隠したままずっとついてきているかのようだ。ここで三十年間も一人で暮らしてきたクリスが孤独に押しつぶされてしまうことがなかったのは、このおかげだったのかもしれないという気がした。
私たちは歩き続けた。あちこちに窓があり、外の光が差し込んで明るかった。
窓にはガラスも何もなかったが、顔をつき出してみると、外にもちゃんと空気がある。少し潮くさく湿っぽいが、息苦しくはない。そういう空気が塔を取り囲んでいて、何百メートルか先には水の膜が垂直に立っているのだ。それが空気と水の境目で、自分が泡の内側にいるということをはっきり納得することができる。
窓から顔を引っ込め、私たちは再び歩き始めた。クリスはしっかりとした足取りで、さっさと歩くことができた。だがある階段を登りきったところで、私はとうとう立ち止まってしまった。息が切れたからではない。広い場所に出て、景色に圧倒されてしまったからだ。クリスも立ち止まり、振り返って満足そうににっこりした。
「この部屋のことを、わしは大聖堂と呼んでいるのだよ」
その名は本当にふさわしいと私も思った。見上げると頭の中が空っぽになってしまいそうなほど天井が高く、地方の小さなラジオ放送局なら、屋根の上の電波塔まで含めてすっぽりとおさまってしまいそうな高さがある。
六本の大黒柱に囲まれた部屋の形は、巨大な蜂の巣の中にいるようでもある。橋のような渡り廊下が頭上はるかを横切っているが、本当は数メートルの幅があるはずが、まるで小枝のように小さくしか見えない。近寄ってそっと触れてみたが、壁から突き出しているクギの頭は私のこぶしよりも大きかった。
何分かの間、私は大聖堂の中を見回していた。目の前には大きく長い階段が待ち構えていて、さらに上へむかって伸びている。「もういいかね?」とクリスが言った。
「ええ」
クリスのあとをついて、私は再び歩き始めた。
塔の内部は複雑で、まるで高層ビルディングのようだった。クリスが大聖堂と呼んでいた部屋がその中心にあり、かつては人が集まる広場のようなものだったのかもしれない。
家々はアパートの部屋のようにずらりと並んでいるが、いくつかはドアが開いたままになっていたので、内部をのぞき見ることができた。壁には明かり窓があり、外の光を取り入れるようになっている。一つのアパートはいくつかの部屋で仕切られ、小さいが居間や寝室、台所などがちゃんとある。
マーケットの跡も見つけることができた。たなはすべて空っぽだったが、かつては様々な商品が並べられていたのだろう。幅の広い階段をいくつも上り下りし、私たちは歩き続けた。かつては何百人もの人々がここで生活していたのだろうという気がした。
とうとう私たちは、クリスが住居にしている部屋に着いた。といっても何か特徴があるわけではなく、他の何百の部屋と違うところはなかっただろう。ただこの部屋だけはがらんとした感じがなく、家具や日常の道具類がせいとんして置かれていて、いかにも人が住んでいるらしい感じがした。
部屋のすみには小さなベッドがあり、イスやテーブルもある。鉄でできたストーブもあり、その中で木切れがちょろちょろと燃えている。その上にはナベを置くことができるようになっていて、クリスはさっそく湯をわかし始めた。
「海草のスープを気に入ってくれるといいがね」クリスはうれしそうに私を振り返った。
私は部屋の中を見回し続けた。ここにも窓があり、光がふんだんに降りそそいでいる。
「ここは寒くはないのね。氷の下なのに」
「氷が温室のような働きをしているからさ。塔を包んでいる空気の層も、しっかりとした断熱材になる。この塔は、暖かい毛皮のコートでくるまれているようなものさ。もちろんそれも白夜になっている夏の間だけで、冬になると猛烈に寒いが」
「白夜って?」
「北極の近くでは、夏の間は一日中太陽が沈まないから、真夜中でも明るいのさ。それを白夜という。逆に冬の間は一日中日がささず、夜が続くんだが」
「へえ、知らなかったわ」
「今は真夏だ。冬になるまで、暗闇を目にすることは当分ないよ」
「こんなところに、あなたは本当に一人で三十年間も住んでいるの?」私は感心した声を出さないではいられなかった。
「そうだよ。まあおかけ」クリスはイスを指さした。湯がわくのを待つ間、自分もベッドに腰かける気になったようだ。
「三十年前にはイギリス人だったって言ったわね」
「今でもそうさ」クリスは笑った。「首相の命令で北極探検隊が組織され、わしもその隊員に選ばれた。飛行船を使った探検隊でね。氷の厚さを測ったり、海底の地質を調査したりするのが目的だった」
「飛行船って?」
「お嬢ちゃんは見たことがないのかな? 水素ガスのつまった細長い形の風船だよ。エンジンの力でプロペラを回して動くようになっている。ところで、あんたの名はなんというのかね?」
「ジュリエット」立ち上がって、私は握手をしにいった。クリスは照れたような顔をしていたが、しっかりと握手を返してくれた。私は口を開いた。
「その探検隊員が、なぜ今こんなところにいるの?」
「探検隊はときどき氷の上に着陸し、ドリルで穴を開けて氷の厚さを測り、地質調査をおこなった。はじめ真っ白だった氷原の地図は、ゆっくりと着実に埋まっていった。だがあるとき、思いがけない事故が起こったのさ」
「どんな?」
私は思わず身を乗り出していたと思う。クリスが笑った。
「ドリルの操作係として、わしは氷の上にいた。自動車ぐらいの大きさがあって、モーターのついた巨大なドリルさ。ガーガーと大きな音を立てながら回転するんだ。
ドリルは氷の上にすえつけられ、わしはスイッチを入れた。ドリルの刃先が、氷の中へすばやく食い込んでいったよ。だがそのときそれが起こった。何の前触れもなく、突然氷に大きなヒビが入ったのだ。ピシピシと音がし、足元がぐらぐら揺れた。ヒビは一本ではなく、クモの巣のように何本も走るのが見えた。わしはその真ん中にいたのさ。あっと思ったときには、わしは氷の中へ落ちていくところだった。
何メートル落下したのかはわからない。気がつくとこの塔の屋上にいて、目を回しておった」
その様子を想像して、私はクスクス笑ってしまった。クリスも笑い、気を悪くしたふうもなく続けた。
「すぐに立ち上がり、上を見上げたが、あるのは氷の天井だけだった。くずれた穴の跡はもちろんあったが、すでに氷のカケラでふさがってしまっていた。天井は何メートルも上にあり、手が届くはずもなかった。外へ出るのは不可能だと一瞬でさとったよ。その日以来、わしはここにいるのだよ」
「探検隊の他の人たちはどうなったの? 助けてはくれなかったの?」
クリスは首を横に振った。
「氷が割れた瞬間に電気のケーブルが引きちぎられ、火花がはでに散った。それが引火したらしい。氷の上で巨大な炎があがるのが見えたよ。飛行船に使われている水素ガスはとても燃えやすいからね」
「じゃあ、助かったのはあなた一人だけなの?」
「皮肉にもそういうことになるね」
「でも何を食べて、どうやって生きてきたの?」知りたがりだとは自分でも思ったが、私は質問しないではいられなかった。
クリスはにっこりした。「ついておいで。その目で見せてあげよう」
ナベを火の上から降ろし、クリスは立ち上がった。私を連れて部屋を出、階段を降りていった。
ずっと下ってゆくと、広い場所に出た。さっきの大聖堂ほどではないが、ここも本当に広々としていたのだ。丸い形をして、大きさは町の体育館ほどはあっただろう。壁には明かり窓がいくつもあり、とても明るい。
私たちはベランダのような場所にいて、手すり越しに、すぐ下の水面を見下ろすことができた。だがそれが、海草で一面におおいつくされていたのだ。私の腕ほどもある茎は百メートル以上に育ち、無数の葉を生やしている。その表面には小さな泡がびっしりと張り付き、それが大量の酸素を含んでいるということだった。クリスが言っていた植物園とは、このことだったのだ。
胸がつまるようなどきどきする思いで、私は海草の森を見下ろし続けた。水底を見通すことなど絶対に不可能なほど濃く生え、からまりあって、薄気味悪く感じなかったと言えばウソになる。だがクリスはいかにもいとおしそうにしているので、悪口は言わないことにした。
「海草ばかり食べて、あきてしまわないの?」私は口を開いた。
「そりゃそうさ」クリスはウインクをした。「ついておいで。水族館を見せてあげるよ」
クリスと私はドアを通り抜け、別の部屋へ入っていった。
こちらは植物園ほど広くはなかった。明かり窓も少なかったが、水面は十分に見渡すことができた。ガラスのように透き通った水にはまったく波がない。底まで五十メートルはありそうだが、魚たちの姿を見ることができた。黒い色をして体長六十センチほどのものだが、中には二メートル近くに成長したものもいるし、すみのほうには数センチしかない小魚たちが群れているのも目に入る。
「これは何の魚なの?」
「イワシだよ」
「イワシ? あの大きなやつも?」
クリスは笑った。「缶詰にするのとは少し種類が違うがね。あとでごちそうしてあげるよ」
「ええ」
私たちはクリスの部屋へ戻ってきた。すぐにしたくを始め、クリスは食事をごちそうしてくれた。食べながら話を聞きたがったので、両親のことや姉のこと、カナダへ旅行に出かける途中だったことなどを話した。
だが海草のスープを飲み終え、二匹目のイワシを平らげるころには私は眠くなり、何度もアクビをくり返した。手で隠しもせず、私が遠慮なく口を開けるものだから、クリスはとうとう笑い始めた。
「疲れたのだろう。もうお休み。わしのベッドを使うがいい」
「あなたはどうするの?」
「そこらを片付けて適当に休むさ。気にすることはないよ。明日は早く起きて、ボールを見にいこう」
「ボールって?」
「わしだって、いつまでも氷の下にいるつもりはない。脱出する方法は考えてある。そのために必要なものさ」
「どんなもの? どうやって使うの?」
「今夜はもうお休み。目が半分閉じかかっているよ」
言われたとおりにすることにして、立ち上がって、私はベッドまで歩いていった。ドスンと倒れこんで、海草をあんで作った毛布にもぐりこむと、十秒もたたないうちに眠り込んでしまった。だがその間も、姿の見えない音だけの妖精たちは、私のまわりをぐるりと取り囲み、さんざめきながら楽しそうに踊り続けていた。
☆
なぜ目が覚めたのか、自分でもよくわからなかった。床の上を行くクリスの静かな足音のせいだったかもしれない。顔を向けるとクリスが窓のそばに立ち、外の様子を眺めているのが見えた。私がベッドに入ってから何時間か過ぎているのに違いなかったが、部屋の中には何も変わった様子はなかった。
「何をしているの?」私はそっと話しかけた。
「ここへきてごらん」クリスは窓の外を指さした。私はベッドからすべり出て、隣に並んだ。
窓の外の風景にも、寝つく前と変わったところはないようだった。私たちは泡の内側にいて、少し離れたところに水の膜があり、その向こうには北極の海底が広がっている。だがすぐに気がついた。海中を小さな泡が一つただよっているのだ。
小さいといっても、直径1メートルはあっただろう。海底からすうっと立ち昇ってくるのだ。近寄ってきて、塔を包む膜にぶつかり、一瞬は丸い形のままがんばるが、すぐにパチンとはじけて消えてしまった。
あの泡は何だろう。眺めているとすぐにもう一つ昇ってきて、同じように膜にぶつかり、飲み込まれて消えてしまうのが見えた。
「あれは何の泡なの?」私は言った。
「困ったことになったよ」
「あれはどこからやってくるの?」同じような泡がもう一つ下から昇ってきて、やはり同じように膜にぶつかり、飲み込まれて消えてしまうのが見えた。
「もちろん海底からさ」
「それがどうして困るの?」
「ジュリエット」クリスはとうとう振り返った。「地質学の本ならどれにだって書いてあることだろうが、北極の海底にはメタンが大量に存在しているんだ」
「メタン?」
「ガスの一種さ。火をつけるとよく燃える。古代の生物の死がいが海底にうずまり、何億年もかかって変化したものらしい」
「知らなかったわ」
「メタンが北極のどのあたりに、どのくらいの量うずまっているのか調べることも、あの探検隊の目的の一つだった。掘り出すことができれば、燃料として有望だからね」
「そうね」私はうなずいた。
「この塔の真下にも、きっとそのメタンガスが何千トンも眠っているんだ。あの泡がそうだよ」
「それが困ったことなの?」
「この塔で三十年間暮らしてきたが、メタンが昇ってくるのを見たのは今日が初めてだ。もしもこのまま大量に昇ってきたりすれば、ここの空気は汚染されてしまう。人間はメタンガスの中では息をすることができないのだよ」
「死んじゃうの?」
クリスは黙ってうなずいた。
「そんなものが、どうして突然昇ってくるようになったのかしら?」私は言った。
「昨日の爆破のせいだろうな。大きな爆発だったから、その影響で海底にヒビが入ったのだろう」
「でも…」
「気にすることはない」クリスは微笑んだ。「あの爆破がやむをえないものだったことは、わしもよくわかっているよ。爆破しなければ、トナカイ号は今でも塔に突き刺さったままだったろう」
涙が出て、私は鼻をすすり上げ始めた。クリスは私の肩にそっと触れた。「気にすることはない。今にもあの泡は止まってしまうかもしれないのだから。そうなれば何も心配はない」
窓のそばに腰かけ、私たちは外を見つめ続けた。その後も泡は、一分間に一つぐらいの割合で、ポツンポツンと姿を見せた。泡が一つあらわれ、膜にぶつかってパチンとはじけるたびに、塔の空気は汚染されていくのだ。クリスと私が生きていられる時間をきざむ砂時計であるかのように恐ろしく思えた。
だがクリスの肩に寄りかかったまま、私はいつの間にかうたたねをしてしまったらしい。突然に揺り起こされた。
顔を上げるとクリスが指さしたが、そんな必要はまったくなかった。メタンの泡はさっきの倍ほどの直径があり、しかも一つずつではなく、クサリのようにつながって昇ってくるようになっていたのだ。もう数を数えることさえできなかった。まるで機関銃のように、塔を包む膜に合流を続けている。
「クリス」私は振り返った。
クリスは返事をしなかった。私の手をつかみ、駆け出したのだ。
部屋を出ようとしながら、クリスは荷物やカバンをひっつかみ、肩に乗せ、わきの下にはさんだ。いくつかは私にも持たせた。意味はわからなかったが、私はしたがった。荷物を持ったまま、クリスのあとについて廊下へ飛び出した。
二人とも口をきかずに走り続けた。曲がり角をいくつも曲がり、階段を何階も駆け上って、やっと目的の場所に着くことができた。私は息を切らしていたがクリスは平気な様子で、もうまわりを見回している。いつの間にか塔の頂上に出ていて、ビルの屋上のような場所だが、見上げれば氷の天井がすぐそこに見えている。ミルクを混ぜたガラスのような、透き通る美しい物体だ。
「こっちへ来るんだ」
思わず立ち止まってしまっていたので、クリスに強く腕を引かれた。
屋上のすみに、球形をしたボールのようなものが置かれていることに気がついた。本当にボールのように丸く、根元にはクサビをいくつか押し込んでとめてあるが、それがなければゴロンゴロンと転がっていっても不思議はないだろう。
直径は三メートルほどある。全体は木でできているが、手のひらほどの大きさしかないが、ガラスのはまった小さな窓がいくつかある。どうやら人が乗るもののようだ。昨夜クリスが言っていたボールとは、これのことなのだと気がついた。
「これは何なの?」
クリスは返事をせず、ボールの一部に手をかけ、強く引いた。驚いたことにそこはドアで、はっていかなくてはならないようなせまいものだが、入口が口を開けた。クリスはその中にカバンや荷物を放り込み始め、私の手からも受け取って、ぽんぽん投げ込んでいった。
「どうするつもりなの?」
「この中に入るんだ」クリスは私の背中に手を当て、乱暴に押し込もうとした。
「どうして?」
「早くするんだ」
とうとう私は中へ押し込まれてしまった。入口を通り抜けるときにわかったのだが、壁が分厚く作られているので、思ったよりも中はせまかった。投げ込まれた荷物が足元に転がっている。つまずいて転びそうになった。振り返るとクリスも入ってきて、内側からドアをばたんと強く閉めたところだった。
「何をしようというの?」
だかクリスは答えなかった。壁ぎわにある大きなレバーを回して、ドアをガチンとロックしたのだ。見るからにがっしりしたレバーだから、ボールは完全に密閉されたのだろう。荷物を片付けてスペースを作り、私たちは床に座った。壁がデコボコして背中が痛く、小さな窓から差し込んでくる光しかないから、ひどく暗かった。
私はボールの内部を眺めた。いかにも手作り風のものだ。材料は塔の一部を解体して手に入れたものだろう。全体はクギで接合され、ところどころ鉄板で補強してある。
「これはあなたが作ったの?」
「そうさ」クリスは少し自慢そうな顔をした。「十五年かかったよ。その前の十五年は塔の中で生き延びることに必死で、とてもそんな余裕はなかった」
「こういうときが来ると、あらかじめわかっていたの?」私は不思議そうな顔をしていたに違いない。クリスは微笑んだ。
「わかっていたわけじゃない。だが、来るかもしれないとは思っていた。こうも突然やってくるとは、予想していなかったがね」
「しまった」私が突然大きな声を出したので、クリスはひどく驚いた顔をした。
「どうした?」
「ストーブの火を消すのを忘れたわ。ついたままよ。メタンガスは燃えるんでしょう? 火事になるわ」
「いいんだ」クリスは笑った。「わざと消さないできたのだよ」
「どうして? メタンガスに引火するわ」
「ああ、すればいいさ」
「でも…」
だが私は、その先を続けることができなかった。このときまでには、メタンが塔の内部を満たしていたのだろう。塔の中の空気は酸素を十分に含んでいた。そしてクリスの部屋では、小さいとはいえストーブがちろちろと炎を上げていたのだ。
☆
その瞬間のことは、とてもよく覚えている。ドンという大きな音とともに塔が激しく震え、ボールの外がまばゆい光でいっぱいに満たされたのだ。あまりにもまぶしく、目を開けていることもできなかった。爆風に押され、あっと思う間もなくボールは宙を舞い始めていた。
メタンガスの爆発とは、それほど強力なものだったのだ。衝撃波は、氷の天井を一瞬で吹き飛ばした。氷のカケラが何百も北極の空へ飛び出し、放物線を描いたのだろうが、私たちのボールもその中に含まれていたわけだ。
一瞬は大きな力を受けて、私たちはいやというほど強く床に押し付けられたが、すぐにふわりとした無重力の感覚に変わり、身体が空中をただよっていきそうになった。だがそれも長くは続かず、ドスンと大きな音がして、ボールがどこかにたたきつけられると同時に、また強く押し付けられた。力まかせに背中を踏みつけられたような気がした。ボールは激しく揺れ、荷物がぶつかってきて、思わず悲鳴が出た。
そのあともボールはくるくるとまわり続け、外からはガサガサと音が聞こえていたが、そのうちに静かになった。
私たちはおそるおそる顔を上げた。ボールが停止したのだと気がついた。
「ふうう」
私は大きなため息をついた。その表情がおかしかったのか、クリスが笑った。私たちの身体は上下逆さまになり、荷物と荷物の間にサンドイッチになっていたから、まずはい出して体勢を立て直さなくてはならなかった。
レバーを動かし、クリスはドアを開いた。私たちは、顔をそっと外に突き出した。
空気は驚くほど冷たく、まるで肌をたたかれているような気がした。私に続いてクリスもはい出してきたが、すぐに震え上がった。クリスは荷物を開き、服をいくつも取り出して、私に着せてくれた。もちろん自分も同じようにした。海草の繊維をほぐして作ったものだったが、見た目はごわごわと固そうだが、着てみると驚くほど暖かかった。私が目を丸くしていると、クリスはにっこりした。
「子供のころ、祖母が家で機を織っていてね。記憶を頼りに、見よう見まねでやってみたのだよ。三十年といえば長い時間だ。ひまはたっぷりあったよ」
寒さを感じなくなると、落ち着いてまわりを見渡すことができるようになった。私たちは真っ青な空の下、どこまでも続く平らな氷原にいた。どの方向を向いても、まったくデコボコなく続いている。
だが一ヵ所だけ、なぜか氷が少し盛り上がり、その影に雪が深くたまっていた。ボールがそこへうまく落ちてくれたのは、幸運としかいいようがないだろう。分厚い雪がクッションの役目を果たし、ブレーキにもなってボールを受け止め、停止させてくれたのだ。
振り返ると、自分たちがどこから飛んできたのか知ることができた。二百メートルほど先で氷が大きく割れ、海面が濃い青色の姿を見せているのだ。氷の断面はギザギザにとがり、小さなカケラがスチロールのように浮かんでいる。
そっと手をつなぎ、私たちはそこへ向かって歩き始めた。あしもとの氷は分厚くがんじょうで、まるでコンクリートの床のようだ。薄い雪がその表面をサラサラとおおっている。足跡をつけながら、私たちは歩いていった。
氷のへりに立つと、深い崖をのぞき込んでいるような気分になった。割れ目は、それほど直角にストンと落ち込んでいたのだ。波はなく、水面はとても静かで、青いガラスのような輝きだ。ゆっくりと吹き渡っていく風以外は何の音も聞こえない。
だがそこへ、突然それが起こったのだ。驚いて飛び上がったが、あまりのことで、私は逃げることも駆け出すこともできなくなってしまった。身体が石のように固まってしまったのだ。
しかしクリスはそうではなかった。とっさに私をかかえあげ、後ろを向いて、あとも見ずに駆け出したのだ。
ボールのそばへ戻って物陰に身を隠すまで、クリスは立ち止まらなかった。荷物のようにかつぎ上げられ、私はクリスの肩越しに見ることができた。だからあの光景を目にしたのは、この世で私一人だけだろう。
常に浮力を受けて浮かび上がろうとしていたが、塔は氷によって頭を押さえられていた。その氷が、メタンの爆発によって吹き飛ばされてしまったのだ。浮力というのは、どんなに巨大な戦艦でも浮かべることができるほど強いものだ。塔が水中で受けていた浮力は、それこそ想像を絶する大きさだったことだろう。それが一気に解放され、バネ仕かけのおもちゃのようにはじけたのだ。
突然姿をあらわし、静かな水面を突き破りながら、塔はとてつもなく大きな水音を立てた。氷をけずり取るバリバリという音がそこに加わった。まとわりつく海水を、塔はシャワーのようにまき散らした。氷のへりに何十ものヒビが入るのが見えた。はねあげられて空中を舞った家ほどもある氷塊が落ちてきて、私たちからほんの少ししか離れていないところでバラバラにくだけた。目を開いて、私はそれをすべて見ていたのだ。
クリスは私をかかえ込み、守ろうとしていたが、私は首を伸ばして見つめ続けた。衝撃は氷を伝わり、足元でも感じることができた。塔の動きが完全に止まり、木と木、氷と氷が押しつぶしあう音が聞こえなくなってから、やっとクリスは私を放してくれた。自分も立ち上がり、振り返って眺めた。
塔は巨人の腕のように氷上に突き出し、ありとあらゆる窓から海水が流れ落ちていた。何十もの滝が一つに寄せ集まったかのような眺めだ。大量の水滴が空中を舞い、虹を作った。北極の透明な空気の中にできた虹だ。あれほど濃く、鮮やかで美しい虹を、私は一度も見たことがない。
やがて水はすべて落ちきってしまったようだった。流れが止まり、虹は消え、ポタンポタンとしずくが落ちてくるだけになった。氷の下で見たときよりも、塔はうんと黒々としていた。もちろんこれは頂上の部分、つまりほんの一部分に過ぎなかったのだが、それでもこんなに巨大なものだったのかと、あらためて思わないではいられなかった。
飛行機が姿を見せるまで、一時間もかからなかった。ボールの中から取り出した道具を使って火を起こし、スープを飲みながら、クリスと私は待っていたのだ。
この飛行機はメタンの爆発音を聞きつけたのだと思っていたのだが、そうではないと後になってわかった。彼らはあの虹を見つけていたのだ。あの虹は空高くかかり、50キロ離れた場所からでも見ることができたそうだ。あまりにも色が濃く鮮やかなものだったので、何が起こったのだろうと確かめに来たらしい。
それはともかく、飛行機がやってきてくれたのだ。エンジンの音は早くから聞こえていたが、やっと見えてきたのは空のかなたに浮かぶ小さな黒い点で、はじめはハエほどの大きさでしかなかったが、みるみる大きくなってきた。塔の姿に気づき、すでに高度を下げ始めている。
「何だね、ありゃあ?」クリスが声を上げた。「近ごろの飛行機には屋根があり、窓にはガラスもあるのかね? それにあの大きさはどうだい」
思わず微笑まないではいられなかった。三十年前の飛行機は、それこそ屋根のない竹とんぼのようなものばかりだったのだろう。せいぜい二人しか乗れない操縦席はむき出しで、エンジンは一つしかなく、機体は木で作られ、翼には布が張られていた。だが現代の飛行機は違う。エンジンを複数装備し、銀色に光る軽金属でできている。
ぽんぽんと飛びはねながら、飛行機は氷の上に着陸した。機体に描かれているマークから、空軍の偵察機だということはすぐにわかったが、幸運だったのはイギリス空軍の所属だったことだ。飛行機が停止するとすぐにそばへ駆けていったのだが、二人いるパイロットたちは、私たちの顔を見てもわけがわからない様子で、ピントのはずれた質問を繰り返すばかりだった。
「おまえたちは誰だ?」
「どこから来た? そのでかい建物は何だ?」
「あの虹は何だったんだ?」
「おまえたちはロシア人か?」
クリスと顔を見合わせ、私は大きな声を出した。
「何でもいいから早く乗せてよ。寒くてかなわないわ」
パイロットたちも顔を見合わせていたが、機内へ入れてくれた。私たちを座らせ、暖房を強くし、熱いコーヒーを飲ませてくれたが、話を聞いても、とても信じられないという顔をした。
身体が温まってから、もう一度外に出てボールのところへ戻り、パイロットたちにも手伝ってもらって、荷物やカバンを飛行機に積み込んだ。それからシートベルトを締め、エンジンがうなりを上げ、飛行機は滑走を始めた。気がつくと、シートに頭をもたせかけ、クリスはもういびきをかき始めていた。
空軍基地までは、ほんの数十分の道のりでしかなかった。念のためクリスは基地内にとどまり、一週間ほど医師が様子を見ることになったが、私はいても立ってもいられなかった。司令官に頼み込んで、その翌日の定期便に乗せてもらえることになった。北極とイギリス本土を結んでいる大型の輸送機だ。
搭乗する直前、もう一度クリスに会いに出かけ、あいさつをすませた。「またすぐ会えるさ」とクリスは機嫌よく送り出してくれた。座席に身体を落ち着け、シートベルトを締めるころには、私はもううきうきし始めていた。
定期便は、昨日の偵察機よりもずっと乗り心地がよかった。みんなが私の話を聞きたがり、パイロットなどは私を操縦室へ招待してくれた。話し疲れると窓のそばに座り、私は外を眺めた。真っ青な北海が広がっている。ほんの何日か前、私はあの波の下をトナカイ号に乗って航海したのだ。
だが気になることもあった。基地の司令官が教えてくれたのだが、トナカイ号はまだイギリスに帰港してはおらず、カナダ側にも姿を見せていなかったのだ。
だが考えてみれば、あの衝突事故が起こったのはほんの三日前のことでしかない。トナカイ号は、まだどこかの氷の下を走り続けているのだろう。浮上しないと無線機は使えない。
穏やかな日だったので、順調に飛行を続けることができた。北海が突然終わり、海岸線が目に入ってきたとき、私は思わず声を上げた。イギリスの大地なのだ。
空港に着陸した三十分後には、私は自動車の後部座席にいた。空軍の司令官が気をきかせて、秘書ごと自動車を貸してくれたのだ。自動車はハイウェイに乗り入れ、秘書はぐいとアクセルを踏んだ。
自動車はある港へむかっていた。ニュースを知らされ、飛び上がるほどうれしかったのだが、数時間前、トナカイ号がここへむかっている姿が海上で目撃されていたのだ。だがトナカイ号は、無線機が使えなくなっているらしかった。浮上してはいるが、沈黙を保ったまま航行を続けていた。
桟橋に着き、自動車がブレーキを鳴らして停車すると、私はドアを開けて飛び出した。噂を聞きつけて集まっていた見物人たちをかき分けて、一番前に出た。急いでエンジンを止め、サイドブレーキを引いて、秘書が追いかけてきた。私がどこかへ行ってしまわないように、しっかり手をつないでおく気になったようだ。
少し霧が出ていたが、やがてトナカイ号がゆっくりと姿をあらわした。タグボートがスクリューを精一杯まわして、接岸させようとしている。だが両者は大きさが違いすぎる。タグボートの姿は、丸太に張り付いたカエルのようでしかなかった。
トナカイ号の姿を見て、私は息をのんだ。損傷のひどさが想像以上だったのだ。へさきは完全につぶれ、脱ぎ捨てた靴下のようにしわが寄っている。側面は、あちこちが、けとばされたかのようにへこんでいる。スクリューはひん曲がり、羽根の一枚はブーメランのように別の方向を向いている。
船尾に目を走らせたとき、小さな四角い出入口のようなものを見つけて、私は胸がいっぱいになった。船体の大きさに目を奪われて、ぼんやりしていると見逃してしまいそうなものだ。だが、あれが部品用気密室なのだ。私はあれを通って船外へ出たのだ。
甲板の上に艦長がいることに気がついた。ひどく疲れた様子だ。北極の氷の下からここまで、本当にやっとやっと帰ってきたのだろう。
船と桟橋をつなぐ橋の固定が終わるのを、私は待ってなどいられなかった。気がついたときには秘書の手を振りきり、駆け出していた。船員たちをかき分け、飛ぶようにして橋を渡っていった。足音に気づき、艦長が顔を上げた。
このときの艦長の顔を、私は一生忘れることはないだろう。疲れきってもいたのだろうが、たった数日でとても年を取ったように見えた。もちろん船と乗客を無事に連れかえる責任感もあったのだろうが、彼のやつれ具合の何割かには私が直接関係していたことだろう。彼は私の命について責任を感じていたのだろう。私は胸がふさがりそうになった。
私の顔を見ても、艦長には意味がわからない様子だった。一瞬の間、疲れきった表情のままでいたが、それはすぐに破れ、私が誰なのか気がついたようだった。
「ジュリエットか?」艦長はかすれた声を出した。
「そうよ」駆け寄りながら、私は大きな声で答えた。そのまま彼の腕の中に飛び込んだ。艦長は少しよろめいたが、すぐに力を取り戻し、私をしっかりとかかえあげた。
艦長が次の言葉を発することができたのは、何秒もたってからだった。信じられないという表情で、長い間私を見つめていた。
「ジュリエット、どうしてここにいるんだい?」
ヒゲだらけの顔を押し付けてくるものだから、くすぐったくて返事もできなかった。艦長の帽子が落ち、はげた頭がむき出しになった。船員たちも気づいて、まわりに集まり始めていた。その中の一人が気をきかせて、呼びにいってくれたのだろう。ハッチから飛び出すようにして、姉が姿を見せた。
「ジュリエット、ジュリエット!」
船員たちを押しのけ、姉は艦長の手から私を奪い取った。息ができないほど強く私を抱きしめた。 |