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『トナカイ号』は、世界最初の旅客用潜水艦だった。全長数百メートルある巨大な船で、120人の乗客を乗せてイギリスの港を出港し、北極海にもぐり、氷の下を何千キロもくぐりぬけ、たった4日でカナダに達してしまうのだ。
そういう船だから、姉と二人でカナダへ旅行することが決まったとき、新しいもの好きの私が、この船を利用することを主張しないはずがなかったのだ。
だが姉は嫌がり、なかなか首を縦に振らなかった。私は腹を立て、三日間一言も口をきいてやらなかった。とうとう姉は折れた。だからあの日、私たちはあの桟橋に立つことになったのだ。
横付けされている巨大な船体を目にして、姉はまゆをひそめた。窓一つない中に閉じ込められるのが不愉快だったのかもしれない。だが私は一目見ただけで興奮し、息もできないほどだった。
船体はソーセージのような形で、明るい灰色に塗られ、長く広く海を押さえつけている。波ですら、こっそり遠慮して船腹を洗っているという感じだ。船尾からは、羽根の一枚一枚がスクールバスほどもあるスクリューがぐいと突き出している。これほど大きな潜水艦はかつて存在したことがないし、今後も作られることはないかもしれない。
デッキの上で、艦長はもう待っていた。乗客一人一人を温かく迎え、握手をした。決して若くはないが、制服を着てきりりとした姿を見て、姉がほおを赤くするのがわかった。海軍を退役したばかりの人物で、戦争中にも潜水艦に乗り、敵艦隊をきりきり舞いさせたのだそうだ。そういう話は私も聞いていたから、会うことができてとても光栄な気がした。
私たちは船内へ案内された。鉄の長い階段を降りてゆくと、かすかなブンブンという音が聞こえてくるようになった。姉は再びまゆをひそめたが、「原子炉の音だよ」と艦長から教えられ、私はまたわくわくした。
出港のときが来て、トナカイ号は港を離れ、ハッチが閉じられ、潜水が始まった。だが非常にゆっくりとしたものだったから、船内にいてもほとんど何も感じられなかった。あれほど巨大な船体は、波ですら揺り動かすことができないのだろう。原子炉の音がわずかに高くなったことはわかったが、本当にそれだけで、私は少しがっかりした。あまりにも揺れないので、船に乗っているという感じがしないのだ。
潜水艦なのだから窓は一つもなく、風景を楽しむことはできないが、そのぶん船内の設備は充実していた。ラウンジやバーや劇場があり、映画を上映していないときには、専属の劇団が客たちの目を楽しませていた。小さなものだがプールやテニスコートもあり、私たちは時々出かけた。二日ほどたつうちには姉も、船内での生活を楽しみ始めたようだった。
トナカイ号は今、北極の分厚い氷の下、百メートルのところを航行していた。艦長が話してくれたことだが、北極の氷は板のように平らで、それこそ無限に続く天井のように、どこまでも青白く伸びているそうだった。ベッドに入ったときなど私は天井を見上げ、このはるか上に氷の平原があり、白熊やペンギンたちが遊んでいるのだろうかと思ったりした。
(北極にはペンギンなどいないということを私は知らなかったのだ)
☆
だがこの航海も、いつまでも平穏というわけにはいかなかった。ある夜の真夜中すぎに、名を呼ばれて私はそっと起こされたのだ。
姉の声だとすぐにわかった。目を開くと寝室のドアが開いていて、居間の明かりがうっすらと差し込んで、姉が顔をのぞかせていた。
「何なの、姉さん」私は口を開いた。
「ジュリエット、ちょっと起きてくれる?」
姉の声がいつもより固い気がして、ちらりと不安になったが、私は毛布をはねのけた。カーディガンを着込んで、寝室を出た。時計に目を走らせると、午前1時を過ぎたところだった。
驚いたことに、居間にいるのは姉だけではなかった。艦長までいたのだ。いつものとおり制服姿だったが、ひじや肩のあたりにしわが寄り、あちこちに黒い油のシミまでついていることに気がついた。何があったのだろうという気がした。
「起こして悪かったね、ジュリエット」
艦長は口を開いた。帽子を脱いで、わきのテーブルに置いた。初めて気がついたのだが、艦長の頭のてっぺんは丸くはげていた。
腰かけるようにと艦長が合図をしたので、私はソファーに座った。姉が隣にやってきて、私の手を取った。
「ジュリエット、よく聞いてほしいんだ」艦長は言った。しゃがんで高さをあわせ、私の目をまっすぐに見つめた。
「ええ」
「ちょっとした事故が起こってね。船は停止してしまっているんだ」
「そうね」私は見回し、原子炉の音が聞こえないことに気がついた。スクリューは止まってしまっているのだろう。
「この船は何かに衝突したのよ」姉が言った。
「氷の下で? どうして?」
「ドスンといって、船全体が揺れる大きなショックがあったわ」姉はあきれたような声を出した。「もう2時間にもなるわ。あんたは何も気づかずにぐうぐう眠っていたけどね」
「何と衝突したの? 氷山?」
「違うな」艦長はゆっくりと首を振った。「何かもう少しやわらかいものだ」
「クジラ?」
艦長は弱々しく笑った。
「それもたぶん違うだろう。だが正直なところ、何と衝突したのかさっぱりわからないんだ。潜水艦には窓がないからね。外の様子を見ることができない。船をバックさせようと何度もやってみたが、だめだった。なんだか知らないが、衝突した相手にしっかりとはまり込んでしまっているんだ」
「誰かが外に出て調べてみたら?」
艦長はつらそうな顔をした。「それもだめなんだ。気密室が使えなくなっている。衝突のショックで故障してしまって、どうやってもドアを開くことができないんだ」
「じゃあ、どうするの?」
「私たちは完全に閉じ込められてしまっているのよ」姉は突然大きな声を出した。「船は引っかかったまま動けない。気密室も使えなくて、何に衝突したのか、外で何が起こっているのかもわからないのよ!」
両手をあげ、艦長は何とか姉を黙らせることに成功した。手をそえてソファーの背に寄りかからせたが、まるで空気が足りないとでもいうように、姉は肩を大きく動かして息をしている。私は、水の上に飛び出てしまった魚を連想した。
「それで?」私は艦長を見上げた。
「これをごらん」ポケットから出してきた紙を広げ、艦長は私に見せた。
トナカイ号の設計図だった。きちんと印刷された紙の上に、文字や数字が赤インクでいくつも書きたされているのが見える。その書き方の乱雑さから、事態がいかに絶望的なのか伝わってくるような気がした。
「私は何をすればいいの?」
艦長は大きくため息をついた。「ここを見るんだ」
艦長の指先は、図上のある場所を指さしていた。
☆
十分後には艦長に連れられ、私は中央廊下を歩いていた。艦長の話を私は承知したのだ。それ以外にやりようのない絶望的な状況であることは私にも理解できたからだ。部屋を出るとき、姉は私を抱きしめ、ほおにキスをしてくれたが、何も言わなかった。
長い距離を歩いて、まだ一度も足を踏み入れたことのない区画へ私は連れていかれた。鉄板で囲まれただけの飾りのない部屋だが、学校の教室を二つあわせたぐらいの広さがある。明かりも少なくひどく暗いが、ごたごたいろいろなものが置かれているのはわかる。まるで倉庫のような場所だ。
「ここは部品置き場だよ」艦長が言った。
「部品?」
私は見回した。木箱に入れられたり、布で包んであったり、そのままむき出しだったりはするが、何百もの部品が、戸だなに収められていたり、そのまま床に置かれていたりする。
「ずいぶんたくさんあるのね」
「大きな船だからね。必要となる部品は何千とあるのさ」
「へえ」
「そういう部品をどうやって積み込むかわかるかい?」
「ううん」私は首を横に振った。
「港に停泊しているときには、クレーンでつり上げて、甲板にあるハッチから乗せる。だが何かの事情で、潜水中に部品を受け取らなくてはならないとしたら? そのときのために、部品をやり取りするための気密室がもう一つ用意してあるのさ。部品専用だから、ものすごく小さなやつだがね」
「どのくらい小さいの?」
「このくらいかな?」艦長は手でやってみせた。本当に小さく、幅数十センチしかない。
「そんなに小さな気密室だから、子供じゃないと通り抜けることができないのね」私はため息をついた。
部品用気密室の前まで行くと数人の船員があらわれ、見慣れない人形のようなものを運んできたところだった。ゴムでできていて中身はなく、しぼんだ風船のようにぺちゃんこになっている。私が着る潜水服だと気がついた。最も小さなサイズのものを調節して、それでもブカブカだが何とか私に合わせようというのだろう。
私がかぶるヘルメットをかかえた二人の船員が、その後ろを歩いてくる。きらきら光る金属製のもので、丸いガラス窓がついている。後頭部からは、長い空気パイプをしっぽのように引きずっている。
艦長がふたたび私の意思を確認し、船員たちが取り付いて、私に潜水服を着せ始めた。つま先から肩のところまですっぽりとおおうものだが、ごわごわして動きにくく、驚くほど重かった。私の手足に合わせてたくし上げ、金属のバンドでとめてある。
ヘルメットをかぶると、歩くどころか、立っていることだって不可能になった。船員たちがかかえあげ、気密室の中へ運んでくれた。空気パイプがしっかりと接続されていることをもう一度確かめてから、艦長はOKのサインを出した。すでに私は、ポンプから送られてくる空気を吸い始めていた。潜水服には断熱材が分厚く入れてあり、寒さは感じなかった。
私は、身長ぎりぎりの大きさしかない気密室に身を横たえていた。艦長が心配そうにのぞき込んだので、私は歯を見せて笑った。ヘルメットをとんとんとたたき、艦長が何かを言ったが、私には聞こえなかった。艦長は船員たちに合図を送り、気密室の扉がゆっくりと閉まり始めた。
扉が閉まると、私は小さな箱の中に閉じ込められる形になった。光一つない真っ暗な場所だ。
カチンと音がして、扉が完全にロックされたようだった。何秒もたたないうちにカチンという音がまた聞こえ、モーターのうなりとともに、反対側の壁がドアのように開き始めた。海へ直接通じる外側の扉だ。
すきまから外の明かりがもれてきた。猛烈な勢いで飛び込んでくる海水に追い立てられて、空気が外へ逃げ出していった。一瞬のうちに、私は水に全身を包まれてしまっていた。強くではないが、水圧で締め付けられるような感じがある。だが潜水服の内部には空気がちゃんと送られてきている。大丈夫、問題はない。
扉が開ききるとそっと手を伸ばし、私は船体のへりに指をかけた。分厚い氷を通して差し込む青白い光の中へ、私はゆっくりと出ていった。
☆
まわりは薄青く、すべてが蛍光灯の光で照らされているかのような眺めだった。頭上には氷がおおいかぶさり、まるで天井のようだ。この天井は、見渡す限りどこまでも広がっている。港で見たときとは違って、トナカイ号はなんだか縮こまって、おもちゃのようにちゃちにしか見えない。
手すりにそって身体を引き寄せ、私はゆっくりと気密室から離れていった。
へさきの方向へ顔を向けた。トナカイ号が何に衝突したのかを見るためだ。海水はガラスのように透き通っているので、はっきりと見ることができた。驚きのあまり、私は口をぽかんと開けていたに違いない。私の目の前には町が広がっていたのだ。
あれは本当に町と呼ぶのがふさわしかった。それ以外の呼び名は思いつかない。もちろん地面の上に建物が立っていたわけではない。そういう普通の町ではない。何千トンかの木材を使って四角い部屋を何百と作り、それが一つに集まって、ブドウの房のように大きな塊を作っているのだ。それぞれの部屋は地上の普通の家ほどの大きさがあり、すべてを合わせると数百メートルはあるだろう。そういう巨大なものが水中にたたずんでいるのだ。
その横腹にトナカイ号は衝突しているのだった。壁を突き破ってへさきをめり込ませ、まったく身動きが取れなくなっているのだ。この町に比べればトナカイ号など、木の幹にとまったセミのようでしかない。
町はずいぶんと古めかしく、作られたのは1世紀や2世紀の昔ではなく、もっと古いもののように見える。もちろん人影はなかった。ずっと昔に捨てられてしまった町なのだろう。何のためにここへやってきたのかも忘れて、私は見上げ続けた。
だが、やるべき仕事があることを思い出した。艦長たちに報告するために、船内へ帰ることにした。気密室へ向かって戻り始めたのだが、扉まであと1メートルというところまできたとき、最後の見おさめということで、私はもう一度振り返って見上げた。そして真相に気がついて、ヘルメットの中であっと声を上げてしまった。
あの町全体が空気で満たされていることに私は気がついたのだ。町は空気、つまり泡の内側にあったのだ。おそらく地球上に存在する最大の泡だろう。あの中でなら、潜水服などなくても自由に息ができるに違いない。
わかってもらえるだろうか。あなたが北極の氷の下にいて、息をふうっとはき出したときのことを想像してみてほしい。あなたの口を離れた息は丸い泡になって、水の中を昇っていくだろう。そして最後は氷に邪魔をされ、へしゃげた『だ円』のような形になって、そこに張り付くだろう。波に押されて少しぐらい左右に移動することはあるかもしれないが、北極は広く、夏でも氷原は何千キロも広がっているのだ。もしかしたら泡は、永久にそこにとどまり続けるかもしれない。
その泡が、いま私の目の前に存在するこれと同じぐらい巨大であったとしたら? もしそうなら、その内部に町を作り、人々が生活することだって可能ではないか。
トナカイ号の中に戻って、ヘルメットをはずしてもらった後で、見てきたことを報告しても、艦長たちはすぐには信じてくれなかった。ポンプから送った空気の調整の仕方が悪くて幻覚を見たのではないかと、船医とこそこそ相談を始めるほどだった。
「ウソじゃないわ。本当に見たのよ」私はとうとう大きな声を出した。
「それで、船の様子はどうなっていたのだね?」議論するのが面倒になったのか、艦長は言った。
紙とペンを持ってきてもらって、私は図を描いて説明した。
「トナカイ号は、この町の横腹に突き刺さっているのよ。まるでナイフを突き刺すみたいにしてね。あれでは船がバックできないのも無理はないわ」
「どうすればいいと思う?」船員の一人が言った。
「町を壊して、はまり込んでいる穴を広げるしかないわ」
「爆破か…」船医がつぶやいた。
「少しならダイナマイトを積んでいますよ」機関長が言った。
「信管は?」と艦長。
「あります」
潜水服を脱がされ、私は木箱に腰かけて休憩することになった。船医はつきっきりで、私の血圧や体温を図っていた。温かい茶を飲ませ、チョコレートを食べさせてくれた。私の目の前では、ダイナマイトの準備が始まっていた。
だがトナカイ号は戦争に使う船ではない。積んでいるダイナマイトの量など知れている。しかし、これで何とかやるしかなかった。
爆薬は15分ほどで完成したのだが、できばえは、がっかりするようなものでしかなかった。ダイナマイトと信管を組み合わせ、それを防水テープでぐるぐる巻きにしてあるだけなのだ。そこから長い電線が伸びて、点火スイッチにつながっている。
だがこの電線が問題だった。船内のどこを探しても、十分な長さの電線を見つけることができなかったのだ。何とか見つけたものを何本かつなぎ合わせても、やっと百メートルにしかならなかった。つまり私は、海中で爆薬を仕かけ、そこから百メートル以内のどこかに身を隠す場所を見つけなくてはならないわけだった。そして点火スイッチを押し、爆破が行われる。
再び潜水服を身につけ、私は船外に出た。手の中に爆薬をかかえている。邪魔になるので、電線はぐるぐる巻いてある。
爆薬の仕かけ方については、機関長が説明してくれていた。若いころは軍人をしていて、そういうことには詳しい人だった。トナカイ号のへさきがめり込んでいるあたりのことを私はできるだけ正確に記憶し、紙に描いて説明したつもりだった。それをもとにして機関長は、爆薬を仕かける場所を決めたのだ。
だが今だから言えることだが、機関長の考えは完全に間違っていた。地上の作業であれば、あれでよかっただろう。建物の壁は崩れ落ち、トナカイ号は自由になることができただろう。だがここは水中なのだ。物体は重力ではなく、浮力によって支配されている。支えを失った部分は下へ崩れ落ちるのではなく、水面へ向かって『崩れ上がる』のだ。
爆薬を仕かけるのに時間はかからなかった。甲板にそってこわごわと近寄り、手をかけて数メートルはい上がり、私は仕かけた。衝突によってできた建物のすきまに、そっと差し込んだのだ。電線を伸ばしながら、私はゆっくりと後ずさりを始めた。
身を隠す場所はすぐに見つけることができた。ちょうどいい場所にトナカイ号のかじがあったのだ。板のように平らな形のものだが、私が身を隠すことができるだけの分厚さがあった。
私はそこに身体を落ち着けた。手の中には小さなスイッチがあり、指でちょんとはじかれるのを待っている。スイッチからは長い電線が生え、水中を伸びてゆき、黒い裂け目の中へ消えている。私は深呼吸をし、人差し指を伸ばし、スイッチをしっかりと押した。
水中というのは、予想以上に音をよく伝える場所だった。爆発音はとても大きく、一足飛びにやってきて、私を強く揺さぶった。一瞬だったが、何が何やらわからなくなったといってもよいほどだ。トナカイ号も激しく揺さぶられ、振動するのが感じられた。
爆薬を仕かけたあたりは無数の泡に包まれ、何も見えなくなった。だがかじの影から身を乗り出し、私は見つめ続けた。
やがて泡が消え、水のにごりも薄れ始めたようだった。船体の揺れもおさまり、目をこらすと、爆薬を差し込んだあたりに大きな穴が開いているのを見ることができた。トナカイ号がつかまっていた裂け目は、二倍ほどに大きくなっている。船体に傷がついた様子もない。
喜びのあまり、私は声を上げかけた。だが突然どこかから別の音が聞こえ、船体が再び振動を始めたのはそのときのことだった。クジラが集団でほえているような大きな音だ。音に合わせて手すりもびりびりふるえ、しかも一秒ごとにそれが激しくなってくるようなのだ。
何が起こっているのかわからず、私はキョロキョロし続けるしかなかった。もう揺れはあまりにも激しく、立っていることができなくて、力いっぱい手すりにつかまらなくてはならなかった。
音と振動が船の下からやってきていることに気がついた。首を伸ばしてのぞき込み、何が起こっているのか気がついて、私はぞっとした。
トナカイ号が衝突したことで、想像以上に長い裂け目が町の壁面を走っていたらしい。下を向いて長く伸び、何十メートルも先まで達していた。そこへ爆薬が爆発したのだ。建物の一部がガレキとなって引きはがされ、本体から離れていった。だがその大きさが問題だったのだ。学校の校舎ほどもあり、突然姿をあらわし、魚雷のようにこちらへ向かってくるのが見えた。
ガレキに衝突され、強くたたかれて、トナカイ号の船体にヒビが入った。気密が破れ、そこから空気が噴き出しはじめた。私の身体ほどもある大きな泡が、ものすごい勢いで上へ昇っていく。船は荒馬のように揺れつづけた。手が離れてしまい、私は水中にほうり出されてしまった。
空気パイプがピンと伸び、首の後ろが強く引き戻されるのを感じた。次の瞬間には引きちぎられ、空気パイプがゴムひものようにビュンと縮むのが見えた。ムチのようにしなりながら遠ざかっていった。
巨大な泡の群れに押され、私の身体は水面へむかって押し上げられていった。まるでロケットのように上昇していったのだ。その直後、何かが激しく背中に衝突したのだろう。鋭い痛みとともに、何もわからなくなった。 |